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AI時代に輝く新たな富裕層――アメリカで“ブルーカラービリオネア”が生まれる理由
ビジョナリー編集部 2026/02/25
億万長者といえば、煌びやかなオフィスでPCに向かう起業家や投資家の姿を想像しがちですが、今アメリカでは、作業服に身を包み、現場で汗を流す人たちの中から次々と“新しい富裕層”が生まれています。水道工事や電気工事、建設や物流といった、従来「ブルーカラー」と呼ばれてきた職業の世界で、これまでにない高収入や資産形成が現実になっているのです。
この現象は、AIの進化、産業構造の変化、そして社会の価値観シフトによって、これまで評価されにくかった“手を動かす仕事”の本当の価値が見直され始めているサインなのです。
AIが変える仕事の価値――ホワイトカラー神話の終焉
「AI時代に生き残るのはどんな仕事か」
最近話題になっているトピックのひとつです。かつては大学を卒業し、オフィスで働くことが“成功ルート”の一つとされてきました。ですが現実は大きく変わりつつあります。
AIはすでに、プログラミングや企画、広報、さらにはコミュニケーション力を要するカウンセラー業務にまで進出しています。人間ならではと思われていた仕事の多くが、AIに代替され始めているのです。企業は利益が出ても、大規模な雇用増ではなくDXやAIによる効率化を選び、人手を必要としない経営モデルへと舵を切っています。
その一方で、現場で直接“手を動かす仕事”――たとえば電気工事や配管工事、建設現場の監督や除雪車の運転手など――は、AIやロボットではなかなか代替できません。なぜなら、現場は想像以上に複雑で予測不能な状況が多く、柔軟な判断や高度な技能が求められるからです。さらに、若年層の流入減少と熟練者の高齢化が重なり、こうした職種は人手不足が深刻で、需要が高まる一方なのです。
アメリカで起きている“ブルーカラービリオネア”現象
アメリカでは、こうした現場職の収入が高騰しています。データセンターの建設現場では、熟練の電気技師や配管工が年収1500万円を超えるケースも珍しくありません。とりわけニューヨークやカリフォルニアのような都市部では、ホワイトカラーの平均年収を上回る“ブルーカラービリオネア”が現実のものとなっています。
この現象の背景にはいくつかの要因があります。アメリカはAIシフトが他国より早く進み、レイオフ(解雇)も容易なため、ITエンジニアが職を失い、意図的に現場系職種へシフトする事例が増加しました。さらに、公共工事では“デービス・ベーコン法”(連邦政府発注工事に地域の適正賃金支払いを義務づける法律)などにより地域ごとの最低賃金が設定され、安値受注ができない仕組みが構築されています。技能職は国家資格で管理されており、“質の高さ”が正当に評価されるのです。
加えて、家族経営の小規模工事会社がファンドに買収され、IT化や効率化によって企業価値を高める動きも広がっています。創業者が株式売却によって大きな資産を得るケースも珍しくありません。こうして、現場から出発した経営者が巨額の資産を築く構図が生まれています。
日本ではなぜ“ブルーカラービリオネア”が生まれにくいのか
「日本でも同じように現場職が豊かになれるのか」
この問いに、多くの人が疑問を抱くのも無理はありません。しかし、現場で働く人々がアメリカのような資産形成を実現している、という話はあまり聞こえてきません。
なぜ日本ではブルーカラービリオネアが生まれにくいのでしょうか。
その要因は、「構造問題」にあります。日本の現場は多重下請け構造――元請、下請、孫請といったピラミッド型が強固に残っています。発注元から現場の労働者に至るまで、報酬がダイレクトに届きにくい仕組みなのです。また、技能や品質が見えにくく、「誰でもできる仕事」と誤解されやすいのも一因です。
教育投資の少なさも大きな課題です。日本のブルーカラー職への教育投資は、アメリカの半分以下。現場教育は監督者任せで、体系的な研修やスキルアップの仕組みが乏しいのが現状です。「どうせすぐ辞めるから投資しない」という悪循環が、スキル・生産性・報酬の連鎖的な低下を招いています。※1
変化の兆しと教育投資の改善策
しかし、日本でも変化の兆しは見え始めています。あらゆる業務でAIや自動化が進む一方、現場でしか担えない仕事の価値があらためて見直されています。実際、除雪車の運転手やマンションの大規模修繕工事など、緊急性が高く担い手が限られる現場では、賃金が上昇傾向にあります。
では、日本でブルーカラービリオネアを生み出すためには何が必要なのでしょうか。
まず、現場の“質”や“技能”を可視化し、評価する仕組みづくりが不可欠です。たとえば、再修理率や耐用年数、安全遵守率など、誠実な仕事の成果をデータで示すことで、顧客も「安さ」ではなく「信頼」で業者を選べるようになります。企業がこうした品質指標をブランドとして発信し、“正当な対価”を社会全体で認め合う文化を育てることが求められます。
そして、教育投資の抜本的な強化もカギです。現場任せのOJTや属人的な技能継承から脱却し、体系的な教育プログラムを設計・実施すること。スキルアップ→生産性向上→収益増→価格転嫁→報酬増→人材定着という好循環を実現するためには、現場だけでなく経営層が一体となって改革を推進する必要があります。
「人への投資が長期的な収益につながる」という点で、アメリカのコストコの取り組みは参考になります。建設業とは業態こそ異なりますが、同社は業界平均よりも高い時給と手厚い福利厚生、教育投資によって離職率を業界平均の7分の1以下に抑えています。投資はコストではなく、“将来のリターン”として捉え直すべき時代なのです。
AI時代、現場で働く人の未来はどう変わるか
AIの進化によってホワイトカラーの仕事が代替される一方、現場での“フィジカル”な仕事の価値はむしろ高まっていく可能性があります。社会インフラを支え、代替が難しい技能を担う現場の仕事は、本来、より正当に評価されるべき領域だからです。
現場で働く人が資産形成し、社会的にも経済的にも豊かになれる。そんな未来を実現するためには、私たち一人ひとりが「現場仕事=安い」という固定観念を見直すことが不可欠です。質や信頼に基づいて対価を支払うという新しい価値観を、社会全体で共有していく必要があります。
おわりに――ブルーカラービリオネアが照らす日本の可能性
ブルーカラービリオネアという現象には、AI時代における仕事の意味や、社会全体がどのように価値を再定義していくかという、深い問いかけが込められています。
今後、日本でも現場で働く人が誇りを持ち、正当に報われる社会を築くことができるかどうか――そのカギは、制度や仕組み、教育への投資、そして私たちの意識改革にかかっています。
「手に職」が持つ新しい力を、あらためて見直してみてはいかがでしょうか。この瞬間から、現場で働く人の未来が変わり始めているのです。
参考文献
※1:https://sele-vari.co.jp/insight/blue_collar_billionaire_2/


