「もし日本に欠点ありとすれば、寧ろ謙譲に過ぎ、遠慮に失する」

日本初の本格的な政党内閣を率い、「平民宰相」と呼ばれた原敬が残した名言です。一見、控えめさや謙遜は日本人の美徳に思えますが、原敬は「行き過ぎた謙譲」が日本の成長や発展のブレーキになることを、鋭く指摘しました。

果たして、彼はどんな思いでこの言葉を発し、いかなる偉業を成し遂げたのでしょうか？今回は、原敬の生涯と信念、そして私たちが現代に学ぶべきポイントをご紹介します。

## 幼少期の逆境――母から学んだ「私利を求めず、正直に生きる」精神
原敬は1856年、現在の岩手県盛岡市にあたる南部藩の上級武士の家に生まれました。しかし、戊辰戦争で藩が新政府軍に敗れ、家は没落。父を早くに亡くし、家族を支えたのは母・リツでした。  
リツは、藩に課せられた莫大な謝罪金を、家財を売り払ってでも正直に納めるという、誠実で責任感の強い女性でした。また、どんなに貧しくても子どもたちの教育を諦めず、

「自分の利益よりも世の中のために」  
「正直に、勤勉に、大局を見て行動する」

という価値観を息子に伝えました。  
この母の教えが、後の原敬の人格や政治信条の原点となりました。  
「私利を求めず、公利を重んじる」――この精神こそが、彼のすべての行動の根底に流れていたのです。

## エリートの道を退き、「平民」としての再出発
原敬は若くして司法省法学校に進学し、フランス語を学ぶなど優秀な成績を収めました。しかし、校長との対立や身分の壁などから退学を余儀なくされます。  
挫折を経験しながらも、彼は「平民」として新聞記者や外交官など多様な仕事に挑戦。特に外交官としてフランス・パリや中国・天津で活躍し、国際感覚や語学力を磨きます。

この間、自由民権運動の指導者・中江兆民と出会い、フランス思想や「民意」「公利」の概念に触れます。原敬は、民衆の声を政治に反映させる「漸進主義（段階的な改革）」の重要性を学びました。  
さらに、「大阪毎日新聞」の社長として、新聞発行部数を3倍に伸ばすなど、経営者としても手腕を発揮。報道を通じて社会の課題や人々の声に直接触れることで、より現実的な政治感覚を養いました。

## 「藩閥政治」から「国民本位」の政治へ――政党政治の礎を築く
みなさんは、「藩閥政治」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか？  
原敬が首相になるまで、日本の政治は薩摩・長州など一部藩閥出身者が権力を独占していました。身分や家柄が重視され、国民の声が政治に届きにくい時代だったのです。

原敬は、この「藩閥政治」に強い反発を抱き、「能力と人格による登用」「派閥を作らず個人を重んじる」政治を目指しました。1897年に伊藤博文の勧めで立憲政友会に参加し、1902年には衆議院議員に初当選。以後、政友会のリーダーとして、多くの国民の意思を反映する政党政治の基盤づくりに尽力します。

そして1918年、ついに日本初の本格的な政党内閣を組織し、貴族や旧武士ではない「平民」出身として初の首相就任を果たすのです。その姿は、大正デモクラシーと呼ばれる「民意を重視する時代」の象徴として、国民から熱狂的な支持を受けました。

## 原敬が貫いた「公利」「民意重視」の政治信条
原敬が大切にしたのは、「国民一人ひとりが国家を重んじ、どんな立場の人も社会のために尽くす」という考え方です。  
選挙での利益誘導（地元に有利な政策を約束して票を集めるような手法）は一切せず、全国民の幸福と国家全体の発展を最優先に据えました。

また、彼は「正義にかなった行為」としての「公利」を政治の軸とし、自己の利益よりも公共の利益を追求することを徹底しました。  
この姿勢は、外交や内政のあらゆる場面で一貫して見られます。
### 具体的な政策例
- **教育改革**  
原内閣は「大学令」を制定し、帝国大学だけでなく私立大学や単科大学、公立大学の設立を認めることで、高等教育の機会を大幅に拡大しました。慶應義塾大学や早稲田大学が発展し、多様な人材育成の土壌を整えました。
- **交通・インフラ整備**  
鉄道や道路などの全国的な整備を推進。産業・流通の発展と、地方と都市の格差是正に貢献しました。
- **産業振興と国防のバランス**  
軍備拡張一辺倒を避け、教育・産業・交通への投資を優先。経済成長と国の安全保障の両立を図りました。

## 外交の最前線で見据えた「平和」と「協調」
原敬は外交官出身という強みを活かし、東アジアや欧米各国とのバランスある外交政策を展開しました。  
特に、第一次世界大戦後の米国台頭をいち早く見抜き、従来のイギリス一辺倒からアメリカとの協調路線に舵を切ったことは、現代の日本外交の原点とも言えます。

また、列強による「帝国主義的価値観」が根強い中で、原敬は「力による支配」よりも「話し合いによる平和的解決」を重視。中国・山東省の権益問題でも、一度は日本の権益取得を主張しつつ、最終的には中国への返還を実現し、国際社会との信頼関係を築きました。

この柔軟かつ現実的な外交姿勢は、「武力でなく、対話と協調による平和の追求」という現代日本の基本方針にも通じています。

## 軍部の台頭を抑え、「国民中心の政治」を守る
原敬が首相を務めた時代、日本国内では軍部の力が急速に強まっていました。しかし原敬は、軍事優先ではなく、あくまで「民意」を中心とした政治の実現にこだわりました。  
たとえば、シベリア出兵（ロシア革命に干渉するための軍事行動）には当初から反対し、撤兵を主導。無用な軍拡を抑えて、国民生活や教育・産業に資金を振り分ける姿勢を貫きました。

残念ながら、原敬の死後、日本は再び軍部の影響力が強まり、やがて戦争への道を歩むことになります。もし彼が長く政治の舵取りをしていれば、日本の歴史は大きく変わっていたかもしれません。

## 「平民宰相」原敬の死――その影響と現代へのメッセージ
1921年11月4日、原敬は東京駅で鉄道職員の青年に短刀で襲われ、命を落としました。  
暗殺の理由は、物価高や社会の不満、普通選挙法への消極姿勢など、当時の政治への不満が背景にありました。  
彼の死は、日本の政治に大きなブレーキをかけることとなり、以降、軍部の台頭と政治の混乱を招きます。しかし、原敬が残した「民意重視」「公利優先」「謙譲の行き過ぎを戒める」精神は、現代の日本社会においても色褪せることがありません。

## いま私たちが原敬から学ぶべきこと
原敬の人生やリーダーシップには、現代にも通じる多くのヒントがあります。
### 身分や出自に左右されず、努力と信念で道を切り拓くこと
原敬は、「平民」出身として初めて首相となり、階級社会の常識を覆しました。「自分には無理」と思い込まず、学び続け、挑戦し続けることの大切さを教えてくれます。
### 「公利」と「民意」を最優先に据えるリーダーシップ
一部の利益や派閥争いに振り回されず、「社会全体の幸福」「国民一人ひとりの声」を政治の中心に据える。その姿勢は、あらゆる組織やビジネスリーダーにも通じるものです。
### 行き過ぎた謙譲や遠慮が、発展のブレーキになることを知る
原敬の名言は「控えめでいるだけでは、真の成長や変革は生まれない」というメッセージです。時には自信を持って意見を発し、行動する勇気が、新しい未来を切り拓きます。

## まとめ：原敬の軌跡は、現代日本人へのエール
「もし日本に欠点ありとすれば、寧ろ謙譲に過ぎ、遠慮に失する」

この一言に込められた原敬の思いは、いまを生きる私たちにも大きな示唆を与えてくれます。

身分や出自にとらわれず、一歩踏み出す勇気を持ち、努力と信念で道を開く。  
原敬の人生と偉業は、「日本人の美徳」とされる謙譲の心に、もう一つ「自信と行動」の大切さを加えるよう、現代に問いかけています。  
原敬の精神を胸に、より良い未来を切り拓く一歩を踏み出してみてください。


原敬は「謙譲の行き過ぎが日本の発展を妨げる」と指摘し、身分や派閥にとらわれず、公利や民意を重視した政治を実践した日本初の本格的政党内閣の首相です。努力と信念で道を切り拓き、現代にも通じるリーダー像を残しました。

「もし日本に欠点ありとすれば、寧ろ謙譲に過ぎ、遠慮に失する」と名言を残した原敬の偉業

「この判断は本当に正しいのか？」「自分の選択に自信が持てない」  
ビジネスの現場で、こんな迷いを感じたことはありませんか？  
多様性が重視され、価値観が複雑に交錯する現代。「これが正しい」という絶対解が通用しなくなった今、私たちはどのような考え方を持つべきなのでしょうか。  
そのヒントは19世紀ドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェの思想にあります。  
「神は死んだ」という刺激的な言葉で知られる彼の哲学は、今こそ必要な視点を与えてくれます。  
本稿では、ニーチェがどのような哲学を築き、彼の思想をビジネスで活かすための具体的な考え方と注意点を解説します。

## ニーチェとはどのような人物か？
### 圧倒的な知性と孤独の生涯
フリードリヒ・ニーチェは、19世紀のドイツで生まれた哲学者です。幼少期から多才に活躍し、20代で大学教授に抜擢されるなど、まさに天才の名にふさわしい存在でした。しかし、健康を理由に若くして学界を離れると、在野の思想家として執筆活動に没頭します。当時は全く評価されず、著書もほとんど売れませんでした。さらに晩年は病に倒れ、精神を病みながら55歳でこの世を去ります。  
彼の思想が世界中に影響を与えるようになるのは、死後のことでした。
### 何を目指した哲学だったのか？
ニーチェの最大の特徴は、「既存の価値観を根本から問い直す」ことです。  
彼は絶対的な正しさや普遍的な道徳といったものを批判し、「人は自らの意志で新しい価値を創造せよ」と主張しました。  
彼の思想は、現代の「多様性」や「自己実現」を重視する風潮の先駆けと言えるでしょう。

## ニーチェ哲学のキーワード
### 1. 「神は死んだ」――絶対的価値観の終焉
この有名な言葉は、信仰や道徳、社会の絶対的な基準が崩壊したことを示します。  
たとえば、良い人間＝神の教えを守る人という価値観は、科学の進歩や社会の変化によって通用しなくなりました。  
「何が正しいのか？」という根本的な問いに、誰も確信を持てなくなった――これがニーチェの言う「神の死」です。
### 2. 「力への意志」――成長し続ける生命力の肯定
ニーチェは、「生きること」とは、単に現状維持を目指すことではなく、「より強くなろう」「自分を高めよう」とする力への意志そのものだと考えました。  
この力とは、体力や知力、権力だけでなく、創造力や実行力、他者を巻き込むリーダーシップなど、あらゆる前向きなエネルギーを指します。  
現状に満足せず、常に自己変革を目指す――これはビジネスマンにも欠かせない姿勢です。
### 3. 「ルサンチマン」――嫉妬が生む負け惜しみの道徳
ルサンチマンとは、他者への妬みや劣等感から生まれるひがみの感情です。  
たとえば、成功している人やお金持ちを「ずるい」「悪い人だ」と批判することで、自分が努力しない理由や現状を正当化してしまう心理状態です。  
ニーチェは、この被害者意識に基づく道徳を批判しました。  
「自分の弱さや現状を、他人のせいにしていないか？」  
この問いは、現代にもそのまま当てはまります。
### 4. 「超人」――自らの価値基準で生きる理想像
超人とは、「ルサンチマン」を乗り越え、自分自身の価値観で人生を切り拓く存在です。  
他人や社会の目に左右されず、自らの意志で新たな道を選び抜く――それがニーチェの描いた理想の人間像でした。
### 5. 「永劫回帰」――人生を肯定する覚悟
「今の人生が永遠に何度も繰り返されるとしたら、あなたはそれを受け入れられますか？」  
これがニーチェの永劫回帰の問いです。  
過去の失敗も、苦しみも、すべてを含めて「もう一度」と言えるほど、自分の人生を肯定できるかどうか――この態度が、後悔しない生き方の指針になると説きます。

## ビジネスで活かすニーチェの哲学
### 1. 「絶対の正解はない」――多様性の時代の意思決定
ビジネスにおいて「唯一絶対の正しさ」は存在しない、という前提に立ちましょう。
新規事業のアイデア、マーケティング手法、リーダーシップのスタイル――どれも“これが唯一の正解”とは限りません。  
むしろ、「人それぞれの正しさ」「状況ごとの最適解」を柔軟に認めることが、競争優位につながります。
- 複数の意見を歓迎し、多様な価値観を活かす組織風土を作る
- 「前例主義」や「常識」にとらわれず、新しい発想を積極的に試す
### 2. 「力への意志」を磨く――自己成長と組織進化の原動力
現状維持を良しとせず、変化や成長を自分の本能として受け入れましょう。ビジネスでも、現状に安住していては組織も個人も衰退します。
- 定期的に自己目標を見直し、アップデートする
- 小さな成功体験を積み重ねて、自信を育てる
- 組織としても失敗を恐れず挑戦する風土を作る
### 3. 「ルサンチマン」に陥らない――自己責任の徹底
他人や環境のせいにせず、「自分はどう変われるか？」にフォーカスしましょう。  
「上司が悪い」「会社が評価してくれない」――そんな不満が心を支配していませんか？  
ニーチェは、そうした感情を克服し、自分自身の力で道を切り開くべきだと説きました。
- 「なぜ自分は嫉妬しているのか？」を冷静に自問する
- 不満や怒りを、目標達成のエネルギーに転換する
### 4. 「超人」的キャリアの築き方――自分だけの価値基準を持つ
他人の評価や世間体ではなく、「自分だけの価値観」でキャリアや人生を設計しましょう。出世や年収、肩書といった成功だけを追い求めると、どこかで壁にぶつかります。
- 「本当に自分が大切にしたい価値は何か？」を言語化する
- 周囲の評価に振り回されず、主体的な選択を意識する
### 5. 「永劫回帰」の覚悟――後悔しない毎日の積み重ね
「この人生が永遠に繰り返されても悔いはない」と言える行動を積み重ねましょう。
- 日々の小さな達成感や感謝を見逃さず、ポジティブに振り返る
- 「今日の自分に100点をつけられるか？」と問い続ける

## ニーチェの哲学をビジネスで活かす注意点
### 1. 相対主義に流されすぎない
ニーチェの「絶対的な正しさはない」という考え方は、時に無責任な相対主義に陥る危険があります。「自分の価値観」が大切とはいえ、チームや社会のルール、倫理観は守る必要があります。「自分勝手」と「自己決定」は違うことを見誤らないよう注意が必要です。
### 2. ルサンチマンの「観察者」になる
自分自身だけでなく、他人のルサンチマン（嫉妬やひがみ）にも敏感になりましょう。  
たとえば、成功した時に周囲から理不尽な批判を受けることもありますが、「これは相手のルサンチマン（嫉妬）によるものだ」と俯瞰できれば、心の余裕が生まれます。  
冷静な観察者になることで、無用なトラブルを避けられます。
### 3. 「変化」への恐れを克服する
「力への意志」を実践するには、変化や挑戦を恐れないことが不可欠です。現状維持や安定志向に流されると、せっかくの成長のチャンスを逃してしまいます。  
「失敗を恐れるより、挑戦しないことを恐れる」――この姿勢が、ニーチェの哲学の真骨頂です。

## まとめ
- 絶対的な正しさや成功モデルが通用しない現代、ニーチェの哲学は「自らの価値観で切り拓く力」を与えてくれます。
- 「力への意志」「ルサンチマンの克服」「超人」「永劫回帰」などのキーワードは、自己成長・組織変革・キャリア形成の大きなヒントになります。
- ただし、「相対主義」や「自己中心的」にならないよう、バランス感覚も忘れずに。  
　

「絶対の正解が見えない」と迷うビジネスマンこそ、ニーチェの知恵を味方につけてみてはいかがでしょうか。


現代の多様な価値観が交錯するビジネス環境で迷いを感じる人に向け、19世紀ドイツの哲学者ニーチェの思想を紹介。絶対的な正解に頼らず、自分の価値観で選択し行動する力や、自己成長・変化への意志の重要性を具体例とともに解説します