「辛抱、辛抱、永久辛抱」。この言葉ほど、竹下登という政治家の人生を象徴するものはありません。昭和から平成へと日本が大きく転換した時代、彼は常に逆境の中で、静かに、しかし確実に力を蓄えてきました。人生の壁にぶつかったとき、どのように乗り越えていくか。そのヒントが竹下登の生き様に隠されています。

## 島根の旧家に生まれて──少年時代から決意した政治家への道
竹下登は1924年、島根県雲南市（当時掛合村）の造り酒屋「竹下本店」の長男として生まれました。竹下家は江戸時代から続く庄屋であり、地元の名望家でした。そんな家に育ち、中学生の頃から「いつか政治家になる」と心に決めていました。

戦時中には特別操縦見習士官として陸軍に志願し、終戦直前には教官として訓練に従事しました。戦後、早稲田大学に進学しましたが、生活は決して楽ではありませんでした。アパート暮らしをしながら、郷里の代議士を訪ねたり国会を傍聴したりと、地道に政治の現場を学びました。

大学卒業後、地元で英語の代用教員を務めつつ、農地委員に立候補し当選。地主の家柄ながら、戦後の農地解放にも積極的に取り組みました。

## 初当選の裏にあった「危機管理」と人脈構築
1958年、竹下は34歳で衆議院選挙に初出馬し、トップ当選を果たします。しかし、選挙違反による24名の逮捕者が出て、支援や裁判対策など多くの苦労を強いられました。この経験から、金銭管理の徹底とリスクマネジメントの重要性を深く学びます。以降、事務所の資金管理は信頼できる秘書に一任し、自身は表に出ずに慎重な行動をとるようになりました。

「石橋どころか二重橋まで叩いて渡る」とまで言われる慎重さと、どんな屈辱にも耐える忍耐力。これらは、若くして味わった失敗と苦労が生んだものでした。

## 田中角栄の側近から「経世会」結成へ──忍耐と気配りの人間力
自民党内では、佐藤栄作、田中角栄という巨大な存在のもとでキャリアを重ねていきます。佐藤内閣では官房副長官、官房長官を歴任。ニューリーダーとして注目される一方、田中派の中で台頭するものの田中角栄からは抑え込まれ続けました。しかし、彼は決して表立って反発せず、「汗は自分でかきましょう。手柄は人に渡しましょう」というスタンスで人望を築いていきます。

この姿勢は、権力闘争が渦巻く政界において、敵を作らず味方を増やす秘訣でもありました。細やかな気配り、目配り、そして必要な時には「カネ配り」も厭いませんでした。野党との折衝や、若手の登用にも余念がなく、「人間関係の達人」とも呼ばれました。

## 歴代最年少官房長官就任
1971年、47歳で第三次佐藤内閣の官房長官に就任し、歴代最年少記録を打ち立てます。その後、建設大臣や大蔵大臣などの要職を歴任。1985年には、歴史的な「プラザ合意」に日本代表として参加し、円高・バブル景気の引き金を引きました。

1985年、長年仕えた田中角栄に対し、ついに反旗を翻し「創政会」を結成します。田中派は分裂し、竹下率いる「経世会」が党内最大派閥となります。派閥の領袖として、橋本龍太郎や小渕恵三、小沢一郎など、後の日本政治を動かす人材を育てました。

## 総理就任と「ふるさと創生」、そして消費税導入
1987年、党内最大派閥の力と人脈を武器に、第74代内閣総理大臣に就任します。竹下内閣の特徴は、各省庁の判断を尊重するボトムアップ型の政権運営でした。各派閥の有力者を要所に配し、盤石な体制を築きました。

総理として最も注力したのが、消費税導入です。日本初の付加価値税であり、世論や野党の強い反発がありました。竹下は1988年、軽井沢で「私の一身を燃え尽くさねばならない」と語り、導入への強い決意を示しました。幹部人事も、消費税の責任者や税制のベテランを要所に配置し、徹底した根回しと調整で法案成立にこぎ着けました。

もうひとつの大きな政策が「ふるさと創生」です。全国の市町村に一律1億円を交付し、地域自らがアイデアを出して活性化を図るものでした。その背景には、

**「日本人として、しっかりとした生活と活動の本拠を持つ世の中を築き上げる」**

という竹下自身の信念がありました。

## リクルート事件と退陣──「怒らない」リーダーの潔さ
しかし、時代は激しく動きます。1988年、リクルート事件が発覚し、政権支持率は急落。

**「権力のトップたる者、７割批判されて当たり前。３割の人に評価されてよしとしないといけない」**

という竹下の覚悟も揺らぐほどの逆風が吹き荒れました。それでも彼は「怒った姿を見たことがない」と周囲の関係者が口をそろえるほど、感情を表には出しませんでした。

退陣を決断した夜も淡々としており、「表情の違いでわずかに感じる程度」「唇を少しかんで話すくらい」だったと、側近は振り返ります。責任を取り、潔く政権の座を降りる姿に、竹下の「自分を殺して耐える」強い心がにじみ出ていました。

## 竹下登の「強い心」から学べること
竹下登の人生は、まさに「辛抱、辛抱、永久辛抱」そのものでした。どんな逆境にも耐え、決して声を荒らげず、敵を作らず、着実に人脈を築いていく。自分が汗をかき、手柄は人に渡し、時には自分を犠牲にしてでも理想を追求する。その生き様に、「努力しても報われないこともあるが、手柄は人に渡しましょうと思っていれば、人を恨む気持ちもおさまる」という哲学が貫かれています。

竹下の言葉や行動は、現代を生きる私たちにも多くのヒントを与えてくれます。たとえば、組織の中で成果を他人に譲ることを恐れず、自らの努力を惜しまない姿勢。人間関係を大切にし、どんな状況でも感情をコントロールし、冷静に判断すること。これらは、どんな分野でも求められる「強い心」の本質です。

あなたが次に困難に直面したとき、竹下登の「辛抱、辛抱、永久辛抱」という言葉を思い出してください。きっと、一歩先へと進む勇気と知恵が湧いてくるはずです。

竹下登は「辛抱、辛抱、永久辛抱」を信条に、日本の転換期を耐え抜き、慎重な行動と人脈構築で総理大臣に上り詰めた政治家です。消費税導入やふるさと創生など大改革を成し遂げ、逆境でも感情を表さず潔く責任を果たす姿勢から「強い心」の重要性を学べます。

辛抱、辛抱、永久辛抱。第74代内閣総理大臣・竹下登に学ぶ強い心の正体

急成長や華々しいイノベーションがビジネスの成功例として語られがちですが、静かに、着実に、最大の成果を勝ち取った人物が日本史上にいます。その名は徳川家康。  戦国時代の混乱を生き抜き、江戸時代という260年続く泰平の世の礎を築いた彼の生き様は、現代を生きるビジネスマンにとっても大きなヒントを与えてくれます。  
本記事では、徳川家康の人物像と功績をひもときながら、彼の考え方をいかにビジネス現場で活かせるか、そして陥りがちな注意点までを具体的に解説します。

## 徳川家康とはどのような人物か？
徳川家康と聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか。歴史に詳しくなくても「江戸幕府の初代将軍」「天下統一の立役者」といったワードが浮かぶ方も多いはずです。しかし、家康の人生は決して順風満帆なものではありませんでした。
### 幼少期から逆境の連続
家康は1542年、三河国（現在の愛知県）で生まれ、幼名を竹千代と名付けられます。彼の幼少期は、まさに運命に翻弄された少年時代でした。たった6歳で今川家、そして家臣の裏切りによって織田家の人質となり、さらに人質交換で再び今川家のもとへ。幼くして親と引き離され、自由を奪われた日々は、想像を絶する過酷さだったことでしょう。
### 戦国の大波に翻弄されながらも培った「忍耐と学び」
この人質時代、家康は武家社会の礼儀や政治的な駆け引きを学び、内面を鍛え上げていきます。のちに彼が語った「人の一生は重き荷を負うて遠き道を行くが如し 急ぐべからず」という有名な言葉は、この苦しい幼少期の経験から生まれたものです。
### 同盟と戦略、そして天下統一へ
青年期以降、家康は織田信長と同盟を結び、巧みな外交と戦略で勢力を拡大。豊臣秀吉との協調と対立を経て、1600年の「関ヶ原の戦い」で西軍を破り、事実上の天下人となりました。1603年には征夷大将軍に任命され、江戸幕府を開府。以後、泰平の世が260年以上も続く基盤を築き上げました。

## 家康の功績
徳川家康の功績は、戦の勝利や権力の掌握にとどまりません。彼の残したインパクトは、現代社会や企業経営にも通じるものが多々あります。
### 長期的視野で築いた安定した組織体制
家康は、武家諸法度や禁中並公家諸法度などの法制度を整備し、大名統制や中央集権体制を確立しました。これは、企業でいえば「ガバナンス強化」「組織の安定化」と同じ発想です。短期的な成果ではなく、持続的な成長を目指す姿勢は現代の経営者にも求められる資質です。
### 柔軟かつ戦略的な外交・同盟
織田信長や豊臣秀吉、そして敵対する大名たちとの間で家康が見せたのは、状況に応じて立場を変え、最善の選択肢を模索する「柔軟な戦略思考」でした。これは、ビジネスの世界で言えば「競合とのアライアンス」「業界再編への適応」といった動きに重なります。
### 文化・教育への投資
家康は儒学の普及、出版文化の振興、寺社の保護などにも力を注ぎました。これは、企業でいえば「人材育成」や「知的資本への投資」と同じです。短期的なリターンだけでなく、未来への布石を打つ考え方は、現代企業のイノベーションや人材戦略にも通じています。
### 健康管理・自己鍛錬の大切さ
家康は粗食や運動を日常に取り入れ、平均寿命が40歳前後の時代に75歳まで生き抜きました。これは、リーダー自身の「自己管理」が組織を率いるうえでいかに重要かを教えてくれます。

## ビジネスに活かす家康の思考法
ここからは、徳川家康の考え方を現代ビジネスで活用するためのヒントを具体的にご紹介します。
### 急がば回れの忍耐力
家康の名言の中でも特に有名な「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し 急ぐべからず」。この言葉は、まさにビジネスの現場でも重要な「長期視点」を示しています。
#### 実践ポイント
- 短期的な成果を追い求めすぎず、着実な積み上げを意識する
- 困難なプロジェクトや変革期ほど、一歩一歩進める忍耐力が成果につながる
### 負けから学ぶ
家康は武田信玄との三方ヶ原の戦いで大敗し、その悔しさと教訓を生涯忘れませんでした。「勝つことばかり知りて負くるを知らざれば害その身に至る」と語るように、失敗から学ぶことの大切さを強調しています。
#### 実践ポイント
- 失敗や敗北の経験を隠さず、冷静に分析して次に活かす
- 成功体験に酔わず、常にリスクを認識して行動する

## 家康流のマネジメントを実践する上での注意点
家康の考え方をビジネスに応用する際、注意すべきポイントも存在します。
### 慎重さが決断の遅さにならないように
家康の慎重な性格は、時代を生き抜く武器でしたが、現代ビジネスでは決断の遅さが命取りになる場合もあります。適切なタイミングでリスクを取り、決断する勇気も必要です。
#### アドバイス
- 十分な情報収集と分析の上で、必要な場面では大胆に行動する
- 「待つ」ことと「チャンスを逃さない」ことのバランスを意識する
### 忍耐が現状維持や保守主義に陥る危険
忍耐力や保守的な姿勢は安定経営には有効ですが、変化の激しい現代では柔軟な改革も欠かせません。
#### アドバイス
- 忍耐と革新、両方の視点を持つ組織風土を育てる
- 変化を恐れず、新しい挑戦にも積極的に取り組む

## まとめ
徳川家康の人生は、逆境と忍耐、そして綿密な戦略の積み重ねによって切り拓かれたものでした。
- 長期視点を持ち、忍耐強く成果を積み上げる
- 失敗を恐れず、学びに変える  
　

こうした「しなやかな強さ」を身につけることこそ、ビジネスで持続的な成功を手に入れるために必要なことではないでしょうか。  
ぜひ、明日から徳川家康の生き方を、あなた自身のビジネスに取り入れてみてください。


徳川家康は戦国時代の逆境を耐え抜き、江戸幕府を開き260年の平和を築いた名将です。本記事では、家康の忍耐力や長期視点、柔軟な戦略を紐解き、現代ビジネスへの応用法や注意点を具体的に解説しています。