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卵子凍結への公的助成、35歳までの年齢制限は妥当か ― 制度の狙いと課題を探る
ビジョナリー編集部 2026/05/13
「自分はいつか子どもを持てるのだろうか」
そんな漠然とした不安とともに、働きながら将来のライフプランを描く女性は少なくありません。社会の変化とともに結婚年齢が上がり、仕事や学業、家族の介護など、人生のさまざまなタイミングで出産を後回しにせざるを得ない現実も広がっています。
そのような中、政府が打ち出した卵子凍結への公的助成制度。対象は「18歳から35歳の未婚女性」とされ、その年齢制限が大きな波紋を呼びました。
卵子凍結の目的と現状
卵子凍結とは、将来の妊娠に備えて未受精卵を低温で保存する医療技術です。この技術には大きく分けて二つの目的があります。
一つはがん治療や特殊な医療処置によって卵巣機能が失われるリスクのある方の「医学的適応」。もう一つは「社会的適応」と呼ばれ、仕事や人生設計、パートナーとの関係などさまざまな理由からすぐに妊娠・出産に踏み切れない女性が将来の選択肢を広げるために利用します。
特に日本では、女性の社会進出や晩婚化が進む一方で、妊娠に最適な年齢に関する知識や啓発が十分とはいえません。
実際に卵子凍結を希望する人は増えつつありますが、普及率はいまだ低い状況です。その大きな理由の一つが経済的負担です。採卵から凍結にかかる費用は平均して数十万円、さらに保存費用も毎年数万円単位で発生します。
この高額な費用が大きな壁となっていました。また、実際の利用率は1割程度とされ、凍結したものの自然妊娠やパートナーとの状況の変化などで使われないケースも多いのが実情です。
こども家庭庁モデル事業の概要
国が打ち出した卵子凍結の費用助成は、まず18歳から35歳までの未婚女性を対象に、1回あたり最大20万円の支援を行うというものです。
この制度は「研究事業」という性格を持っています。つまり、健康な女性を含む幅広いデータを集め、今後の制度設計や社会的意義を検証することが主な目的とされています。また、希望する自治体でのみ実施されるモデル事業として進められ、助成金は国が全額負担する方針です。
35歳までの年齢制限の根拠
「なぜこの区切りなのか?」という点については、多くの関係者から様々な意見が上がっています。
国は「専門学会のガイドラインに基づいて決めた」と説明しています。専門家によると、卵子の質は年齢とともに低下することが明らかになっています。特にこの時期を境に、卵子の老化により受精率や妊娠の成功率が落ちると多くの研究が示しています。
また、30代後半を迎えると染色体異常の確率が上昇することや、将来出産に至った際の母体合併症(妊娠高血圧症候群など)のリスクが高まるという医学的事実も、制限を設ける背景にあります。
制限内で凍結した場合、融解後の生存率が90%以上、受精率や妊娠率も高く維持される傾向があります。それに対し、40歳前後での凍結では生存率や妊娠率が低下し、費用対効果の観点からも一定の線引きをすることは合理的と考えられています。
また、今回の事業が「研究」の色が強いことから、まずは妊娠の可能性が比較的高い年齢層でデータを集める判断がなされた背景があります。
年齢制限に対する社会的な波紋と批判
一方で、「35歳までに将来の人生設計を描ける社会なのか」という疑問の声も少なくありません。
現代社会では、キャリア形成やパートナーとの関係、経済的自立など、さまざまな事情があり、必ずしも20代や30代前半で出産を決断できるとは限りません。
「年齢制限」という線引きが、女性に「35歳までに決断しなければならない」というプレッシャーを与えたり、「35歳を過ぎると妊娠が絶望的」という誤ったメッセージとして受け取られたりすることも懸念されています。
また、晩婚化が進む社会の中で、「助成の恩恵を受けられない」層が生まれることへの不公平感も指摘されています。
こうした声は、制度設計のあり方や社会全体としてのライフプラン支援のあり方に一石を投じています。
今後の課題と展望
今回のモデル事業が研究としてデータを集めることの意義は大きいといえます。年齢ごとに妊娠率や利用実態などを詳細に把握することで、より実態に即した制度設計が可能になります。
また、年齢だけでなく、家庭やキャリア、健康状態など多様な事情を持つ女性に配慮した柔軟な支援策も求められています。
加えて、卵子凍結に関する正しい情報発信や教育の充実が不可欠です。「凍結すれば必ず妊娠できる」という誤解や、過度な期待を与えないバランスの取れた啓発活動が必要です。
そして、女性だけに負担や選択の重圧をかけるのではなく、社会全体が支援できる環境づくりも重要な視点となります。
まとめ
女性の多様なライフプランを支援する新たな一歩として、より多角的なデータを集め、公平で効果的な制度設計を進めていくことが必要です。
一人ひとりが人生の選択肢を広げ、安心して将来を描ける社会。その実現に向けて、制度の進化と社会全体の理解が期待されます。


