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これからの「成年後見制度」――高齢社会が求める新たな支え方とは
ビジョナリー編集部 2026/04/13
あなたの身近な人が突然、財産管理や重要な契約を一人でできなくなったら、どうしますか?高齢化が急速に進む日本。今や3割近くを65歳以上が占め、独り暮らしの高齢者世帯も増加の一途をたどっています。そんな社会で、認知症や知的障がいといった判断力の低下を抱える方々を守る「成年後見制度」が、いま大きな転換点を迎えています。
なぜ「使いにくい」制度だったのか――その背景を探る
2000年に導入された「成年後見制度」。理想は、判断能力が不十分な人々が尊厳を保ち、安心して暮らせる環境をつくることにありました。家族や弁護士などが代理人となり、銀行口座の管理や介護施設の契約など、本人の生活や権利を守ってきました。
しかし実際の運用では、「一度始めたらやめられない」「本人の希望とは違う行為まで制限されてしまう」「費用負担が重い」といった声が絶えませんでした。特に、本人の判断力が部分的に残っている場合まで、すべての行為に後見人の同意や代理が必要となり、柔軟な運用ができませんでした。さらに、後見人への報酬が被後見人の資産額に連動して決まっていたため、所得が少ない人ほど利用しづらい現実がありました。
制度導入から20年以上が経過した今、利用者は全国でおよそ25万人。高齢者人口に比べるとごく一部にとどまり、「本来必要な人に届いていない制度」であることが浮き彫りになっています。
多くの人が「いざというときの支え」として制度の存在を知りながらも、その使い勝手の悪さに躊躇してしまっていたのです。
「終身利用」から「必要なときだけ」へ――変わる制度のカタチ
こうした課題を受け、従来の制度を大幅に見直す民法改正案が閣議決定されました。もっとも大きな変化は、「必要なときだけ」「必要な範囲だけ」制度を利用できるようになる点です。
これまでの成年後見制度は、判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで終わることができませんでした。その間、後見人への報酬もずっと発生し続け、経済的な負担も大きな壁となっていました。しかし改正案では、家庭裁判所の承認を得れば、本人や家族の希望で途中終了が可能となります。これにより、一時的な判断力の低下や、特定の法律行為だけサポートが必要な場合にも、柔軟に対応できる仕組みへと生まれ変わることになります。
また、遺産分割や不動産の処分など、本人がその時々で必要とする「特定の手続き」だけをサポートできる制度も導入されます。本人の自己決定権をより尊重し、「望まない制限や支援」は極力しない方向へ。これが、新しい後見制度の姿です。
利用者本位のしくみへ――報酬体系・監督体制も刷新
これまで資産額に基づいて決まっていた報酬は、今後「どれだけ本人のために動いたか」という事務内容をもとに決定されます。つまり、ただ形式的に手続きだけを行うのではなく、本人としっかり向き合い、希望や生活実態を丁寧に汲み取る姿勢が求められるようになるのです。
専門家からは「一度も本人に会わずに形式的な事務だけをこなす後見人が淘汰されていくだろう」との声も上がります。今後は、年に一度の家庭裁判所への報告義務が設けられ、実際の支援内容や意思決定のプロセスが重視されるようになります。
また、後見人の交代要件も緩やかになります。たとえば「面会に行かない」「適切な支援ができていない」といった場合、家族や関係者からの申し立てで後見人を変更できる新たな規定も加わります。これにより、利用者にとってより安心して任せられる体制が築かれていくことが期待されます。
家族か専門家か? 後見人選びの現実と課題
家族が後見人となる場合、信頼できる相手に任せられる安心感や報酬が発生しない点は魅力です。しかし、財産の管理が不適切になったり、事務負担が大きすぎて対応が難しくなったりするリスクも伴います。家庭裁判所への定期報告や膨大な書類作成は、一般の方にとって簡単なものではありません。
一方、弁護士や司法書士などの専門家が後見人となる場合、法律や財産管理の知識を活かし、中立的な立場で適切な管理や支援が期待できます。ただし、報酬が発生し、本人の生活費が圧迫されるケースも散見されます。また、本人の希望や生活背景を理解するまでに時間がかかることもあります。
新しい制度では、こうした実情を踏まえつつ、本人の意向や家族の状況、そして社会的な支援体制を考慮して、より納得感のある選任が進められるようになります。
制度利用の費用は? 現実的な負担と支援策
成年後見制度を利用する際には、申し立てや必要書類の取得、鑑定や診断書の発行などで一定の費用が発生します。たとえば、申立手数料と登記手数料で合計3,400円、必要な郵便切手で4,000円ほど。医師による診断書や場合によっては鑑定費用(10万~20万円)も必要になることがあります。
後見人への報酬は、家庭裁判所の審判で決まり、管理財産の額や事務内容に応じて月額2~6万円が目安です。特別な業務(不動産の売却や遺産分割協議など)があれば、付加報酬が加算される場合もあります。家族が後見人となる場合は報酬が減額されたり、そもそも発生しないケースも多いものの、事務負担や責任は変わりません。
経済的事情から利用をためらうケースも少なくありませんが、自治体や地域包括支援センターでは、利用者のための費用助成制度も整えられています。家族や本人が制度利用に踏み出せる環境が徐々に整いつつあります。
まとめ
予期せぬ病気や事故、そして年齢を重ねれば誰もが判断力の低下に直面する可能性があります。とくに一人暮らしの高齢者が増え続ける社会においては、身近な人がいなくても「自分らしさ」を守るための仕組みが不可欠です。
今回の制度見直しは、人生の最終章まで自分らしく生きるための「社会の土台」をつくる挑戦なのです。本人の意思と尊厳を大切にしながら、必要な時に、必要な支援だけを受けられる。そのような柔軟な制度が、これからの高齢社会には求められています。


