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広がる退職金の縮小や廃止――変わる「安心」のカタチ、その本当の理由と備え方
ビジョナリー編集部 2026/06/16
「退職金が減った」「制度自体がなくなるらしい」という話題が、テレビやネットニュースで取り上げられています。「うちの会社もそのうち…?」と心配がよぎる人も多いのではないでしょうか。
ですが、なぜ今この流れが起きているのか、その背景や仕組みを理解し、早めに自分で備えることで、十分に対処できる時代にもなっています。
データで見る「減少・廃止」のリアル
厚生労働省の調査や上場企業の公表データをひも解くと、実際に制度の見直し、減額、さらには廃止に踏み切る企業が年々増えていることが分かります。
例えば、製紙大手の王子ホールディングスは、2026年春以降の新規入社社員を対象に、従来の「退職一時金」を廃止し、その分を毎月の給与に上乗せする制度へと大きく舵を切りました。また、伊藤忠商事系のタキロンシーアイは、2026年4月から全社員の退職一時金を廃止し、給与や確定拠出年金(企業型DC)への上乗せに切り替えました。
厚生労働省の「就労条件総合調査」では、退職一時金制度の導入率は1990年代後半から徐々に減少し続け、かつて95%を超えていた導入率が、直近では約8割弱にまで落ち込んでいます。
大企業だけでなく、中堅・中小の企業でも、制度の見直しや段階的な縮小、さらには新規採用者を対象とした全廃が進んでいるのが現状です。特に「新卒採用難」「人材獲得競争」の激化が続く中、初任給や現役世代の給与アップへの原資を捻出するために、退職金の減額や廃止に踏み切る企業が相次いでいます。
制度を維持する難しさ
なぜ見直しや廃止の流れに直面しているのでしょうか。その根本には、社会構造そのものの変化と、企業経営の大転換があります。
まず、従来の日本型雇用の大前提である終身雇用や年功序列が揺らいでいます。新卒で入社し、30年・40年と勤続する人が多かった時代には、定年まで勤め上げて大きな退職金をもらうことが“常識”でした。けれども、近年はキャリアの多様化や中途採用の増加、転職市場の活況など、「一社で一生」は過去のものとなりつつあります。「勤続年数が長いほど退職金が増える」制度は、中途採用や短期間でのキャリアチェンジにはそぐわず、企業にとっても柔軟な人事戦略を妨げる要因となっています。
加えて、少子高齢化が企業の負担を一層重くしています。働く世代が減る一方で、退職者が増え続ける構図は、企業の財務体質に大きなプレッシャーを与えています。退職金は「将来支払うべき債務」としてバランスシート上に計上しなければならず、金利変動や運用環境の悪化も経営リスクを高めています。
優秀な人材を獲得したい企業にとっては、「今の給与の高さ」をアピールすることが喫緊の課題となっています。こうした社会や経済の変化が、制度の見直しを後押ししているのです。
私たちのライフプランはどう変わる?
長年日本では「退職金を住宅ローンの完済資金に充てる」「老後の生活費の柱とする」といった人生設計が一般的でした。まとまった金額を前提に住宅ローンの返済計画を立てたり、子どもの教育資金や自分たちの老後資金の目算を立てたりしていた人も多いのではないでしょうか。
しかし、制度そのものがなくなるとなれば、これまでのモデルは成り立たなくなります。定年退職後に一気にまとまった資金が手に入らなくなることで、「想定していた老後資金に届かない」「住宅ローンが完済できない」という事態も現実味を帯びてきます。
さらに、若手や中堅社員は「今の給与が増えるなら合理的」と前向きな見方も多い一方、中高年層では「これまでの約束が守られなくなる」と感じ、強い不満や不安を抱くケースも目立ちます。会社への信頼感や安心感が揺らぐことで、働く意欲そのものに影響を及ぼす可能性も否定できません。
新しい給与・雇用形態へのシフト
退職金が減る、あるいは廃止されるという流れは、今後さらに加速していくと見込まれます。しかし、この変化は必ずしもネガティブな側面ばかりではありません。むしろ「働き方」「報酬の受け取り方」が大きく変わる好機ともいえます。
これからは後払い方式が減り、その分、現役世代の給与やボーナスに上乗せする前払い制度や、毎月の基本給を厚くする仕組みが主流となっていきます。実際、SMBC日興証券のように「初任給に退職金前払給を含む」と明示する企業も増えてきました。こうした制度なら、転職やキャリアチェンジをしやすくなり、自分の働き方に合わせて報酬を設計できる柔軟性が高まります。
また、政府も「三位一体の労働市場改革」を掲げ、個人の自立や流動的なキャリア形成を後押ししています。従来は「長期勤続者のみを税制で優遇」していましたが、これが転職の障壁になるとして、税制の見直しも進行中です。
重要なのは、企業も労働者も「報酬を自分で管理・運用する」時代になるということです。現役時代から自分の資産形成を始め、NISAやiDeCoなどの税制優遇制度をフル活用することが推奨されます。
こうした転換は、働く人にとっては「自分のキャリアを自分でデザインできる自由」をもたらします。企業にとっても、財務リスクの軽減や人材の流動化による組織活性化など、大きなメリットがあります。
自分の力で「未来のお金」を作るステップ
「退職金が減るなら、自分で老後資金を準備するしかない」と考える人も多いでしょう。今から具体的に行動を始めれば、十分に備えることができます。
第一に、iDeCo(個人型確定拠出年金)や新NISAなど、税制優遇が受けられる資産運用制度を活用することです。iDeCoは、自分で積み立てた資金を将来の年金や一時金として受け取る仕組みで、掛金が全額所得控除となるなど、税制面で大きなメリットがあります。新NISA(少額投資非課税制度)も、投資で得た利益が非課税になるため、長期的な資産形成に最適です。
第二に、勤め先の「企業型DC(企業型確定拠出年金)」の運用内容や受給方法をしっかりと把握し、自分に最適なプランを選ぶことが大切です。受給順序やタイミングを誤ると、思いがけず税負担が増えるケースもありますので、会社の人事担当やファイナンシャルプランナーに早めに相談しておくと安心です。
第三に、長く稼ぎ続けるためのスキルアップやキャリア形成に投資することです。今後は、会社や制度に依存せず、自分の力でキャリアを切り開くことが重要になります。資格取得や語学・デジタルスキルの習得、副業やパラレルキャリアへの挑戦など、「自分自身の市場価値」を高める行動が、将来の安心につながります。
こうした備えを積み重ねることで、安心できるセーフティーネットを自分の手でつくることが可能です。「会社が守ってくれる」時代は終わりを迎えつつありますが、その分、自分の人生を自分でコントロールできるチャンスが広がっています。
まとめ
退職金制度の縮小や廃止の背景には、社会や経済の大きな変化があり、私たち一人ひとりが「自分の未来は自分で守る」時代へのシフトが始まっています。
大切なのは、変化の本質を理解し、今日からできる備えを始めることです。そうすれば「退職金がなくなっても大丈夫」と自信を持てる未来が手に入るはずです。今こそ、自分の人生設計を見直す絶好のタイミングです。


