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2025

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    なぜ今、夜行列車が復活?―「移動+宿泊」が再び選ばれる理由とは

    なぜ今、夜行列車が復活?―「移動+宿泊」が再び選ばれる理由とは

    かつて夜行列車は、日常からふっと離れて特別な時間へ連れて行ってくれる旅の象徴でした。しかし、新幹線や飛行機、高速バスが台頭するにつれ、夜行列車の数は全国的に減り、私たちが目にする機会も少なくなっていきました。

    そんな中、今また夜行列車が注目を集めています。

    宿泊費の高騰、イベント遠征の増加、SNSで“旅そのものを楽しむ”文化の広がり……。

    現代ならではの新しいニーズが、夜行列車という移動手段に再び光を当てているのです。

    なぜ今、夜行列車が復活しつつあるのでしょうか。その理由と、新しい時代の「夜の旅」の魅力をひもといていきます。

    消えゆく夜行列車

    昭和から平成にかけて、日本の鉄道網には数多くの夜行列車が走っていました。東京と九州を結ぶ「富士」や「はやぶさ」、北海道へ向かう「北斗星」や「カシオペア」――。夜行列車はビジネスや観光の重要な交通手段であり、時に物語や映画の舞台にもなりました。

    しかし、新幹線網や格安航空会社(LCC)、高速バスが次々と登場し、便利さと速さ、コストパフォーマンスを武器に利用者を奪っていきました。「あけぼの」や「はくつる」など、かつて主力だった寝台特急も次々と廃止され、定期運行する夜行列車として最後に残ったのが、東京と高松/出雲を結ぶ「サンライズ瀬戸・出雲」でした。

    交通手段の多様化だけでなく、鉄道会社間の収益分配や深夜帯の駅員配置、寝台車両のリネン交換など、運行面での負担も大きく、国鉄の分割民営化以降、特に複数社をまたぐ長距離列車は利益配分の複雑化やダイヤ調整の難しさがのしかかり、運行継続は困難を極めました。

    なぜ夜行列車が再び求められているのか

    そんな“絶滅寸前”だった夜行列車が、いまなぜ復活しつつあるのでしょうか。そこには現代ならではの新たな“需要”がありました。

    宿泊費高騰と「移動+宿泊」の合理性

    まず見逃せないのが、宿泊費の高騰です。近年、訪日外国人旅行者の増加や国内観光の活発化で、都市部や観光地のホテル料金は軒並み上昇しています。週末や連休、コンサートや大型イベント開催時には、東京や大阪、札幌といった都市の宿泊費が平時の2倍、3倍に跳ね上がるケースも珍しくありません。

    こうした中、「移動しながら寝ることができる夜行列車」は、宿泊費を節約しつつ効率よく移動できる“合理的な選択肢”として再評価されているのです。実際に高速バス業界でも「宿泊費の高さを理由に夜行バスを利用したことがある」という利用者が7割に達しているという調査結果もあります。夜行列車も同様に、「移動+宿泊」を一度に済ませられる利便性が、現代のライフスタイルにフィットし始めているのです。

    「推し活」やイベント遠征、“夜行”ならではの体験価値

    夜行列車の復活には、現代の若者文化も大きく寄与しています。それが「推し活」やライブ・イベント遠征需要です。人気アーティストのコンサートやスポーツイベントは、全国各地で夜遅くまで開催されることが多く、終演後にそのまま帰宅できる交通手段が限られています。さらに、イベント前にはグッズ購入や現地での交流など目的が多様化しており、「早朝に現地に到着したい」「イベントが終わったらそのまま帰りたい」というニーズが増えており、夜行列車の時間帯がちょうどそれに応えていると言えます。

    SNS時代の“映える旅”、夜行列車人気の再燃

    さらに、SNSの普及も夜行列車復活の追い風となっています。TikTokやYouTubeでは、インフルエンサーが夜行列車の旅を発信し、「まるで映画のワンシーンのような体験」として注目を集めています。夜の車窓や個室寝台でのひととき、食堂車でのディナーなど、移動そのものが動画映えする“コンテンツ”となり、非日常の体験を求める若者の心を掴んでいます。

    各社の取り組み

    こうした需要を受けて、鉄道各社も夜行列車の復活や新サービスの投入を加速させています。

    JR東日本の新たな挑戦――2027年春「夜行特急」導入へ

    JR東日本は2027年春、E657系車両を改造した全席グリーン車個室タイプの新しい夜行特急を導入すると発表しました。ブルートレインを彷彿とさせる青い車体、フルフラットシートやラウンジなど快適性を追求した空間設計が特徴です。東京発青森行きを例に、夜9時ごろ出発し、翌朝9時に到着するようなダイヤが想定されています。これは、目的地に早朝から滞在したい旅行者”や“深夜イベント後に移動したい利用者”を意識した設計が期待されています。

    この新しい夜行特急は、座席扱いの車両とすることで、リネン交換や人員配置の負担を減らし、昼間は観光列車としても活用できる柔軟な運用が可能になります。さらに、運行区間を原則として自社線内に限定することで、他社との運賃やダイヤ調整の課題もクリアしやすくなります。

    JR西日本「WEST EXPRESS銀河」や各地の夜行列車

    JR西日本も「WEST EXPRESS銀河」など独自の夜行列車を展開しています。旧型車両をリニューアルし、プレミアルームやファーストシート、ファミリーキャビンなど多様な座席を用意。京都から下関、出雲市までを季節ごとに経路やダイヤを変えながら運行し、「旅そのものを楽しむ」新たな夜行列車体験を提供しています。

    他にも、JR東日本の「アルプス」や東武鉄道の「尾瀬夜行」など、夜行列車が各地で限定的に復活。さらに、「TRAIN SUITE 四季島」「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」「ななつ星in九州」といったクルーズトレインも人気を博し、「移動の手段」から「特別な体験」へと夜行列車の価値が進化しています。

    まとめ

    夜行列車は、新しい時代の移動手段として再び注目を集めています。移動と宿泊が一体化した効率性、非日常の高揚感、SNSで共有したくなるような特別な体験。夜行列車には、現代人が求める多くの価値が詰まっており、移動の時間そのものを楽しむという、かつての旅の魅力も少しずつ戻り始めています。

    次の休日、夜の列車に身を委ねてみてはいかがでしょうか。きっと、これまでとは違う「旅の朝」が待っています。

    #夜行列車#鉄道旅行#ブルートレイン#国内旅行#推し活#イベント遠征#宿泊費高騰#コスパ旅#映える旅#サンライズ出雲

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