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スマホ時代の新たなリスク——急増する「内斜視」とどう向き合うべきか
ビジョナリー編集部 2026/05/22
「スマホを見ていると、最近やけに目が疲れやすい」「遠くの景色や看板がぼやけて、何だかダブって見えることが増えた気がする」。そんな日々の暮らしの中での小さな違和感に心当たりはないでしょうか。
現在、医療の現場やメディアで大きな話題となっているのが、特に若年層や子どもたちの間で増加している「内斜視(ないしゃし)」です。2026年5月には京都大学の研究チームが、スマートフォン普及の波とともに、発症率や手術件数が増えているという全国規模のデータを発表し、現代社会が抱える深刻な健康リスクとして改めて大きな注目を集めています。
スマホ世代で拡大中——内斜視の実態と最新データ
内斜視とは、左右の目の黒目が内側に寄ってしまい、本来なら両目でひとつの対象を捉えるはずの視線が、片方だけ内側へずれてしまう状態を指します。視線が正しく合わなくなることで、日常生活のさまざまな場面で見え方に深刻な支障をきたす現代病です。
京都大学の研究チームは全国の医療データベースを詳細に解析し、2014年から2019年のスマートフォン普及期にかけて、内斜視の発生率と手術件数が明確に増加していたことを明らかにしました。人口10万人あたりの年間発症率は2014年の32.26から2019年には36.61へと上昇しており、手術件数も同じ期間に約700件増加しています。
ただし、スマートフォンだけが直接的な原因というわけではなく、もともとなりやすい体質や隠れた素因を持つ人が、長時間のスマホ利用をきっかけとして発症にいたる可能性が高いというのが最新の医学的知見です。誰もが一律にリスクを抱えているわけではありませんが、スマホ時代の生活様式が、潜在的な問題を表面化させる引き金になっている状況は見逃せません。
スマホで「寄り目」が起こるメカニズム——目の筋肉の負担とは
私たちが近くの物を見るとき、両目は自然と内側に寄ります。この「寄り目」の動作は医学用語で「輻湊(ふくそう)」と呼ばれ、目の内側にある「内直筋(ないちょくきん)」という筋肉が収縮することで実現しています。
スマートフォンを使うとき、多くの人が画面と顔の距離を30cm未満、時には20cm前後まで近づけてしまいがちです。しかも、SNSや動画、ゲームなどで1日に3〜4時間以上も画面を凝視することが珍しくありません。このような至近距離で長時間、集中して画面を見続けると、内直筋は常に緊張し続けることになり、最終的には筋肉が凝り固まってしまう現象が起こります。
この状態が定着すると、スマホから目を離しても内直筋がうまく緩まず、視線を外側に戻すことが難しくなります。その結果、黒目が内側に残ったままになり、内斜視の症状が現れるのです。加えて、近くを見る調節筋である毛様体筋や、光を調節する瞳孔括約筋も過緊張状態となり、ピント合わせの機能にも大きな負担がかかります。スマートフォンの小さな画面や細かい文字が、自然と顔を近づけさせてしまう要因であることも無視できません。
さらに深刻なのは、内直筋が「横紋筋(おうもんきん)」と呼ばれる骨格筋の一種であり、長期間にわたって過剰に使われることで、筋肉自体が肥大化したり構造変化を起こしたりする可能性が指摘されている点です。筋肉が物理的に変化してしまうと、スマホの利用を減らしても元の状態に戻りにくくなることが分かってきました。つまり、違和感を覚えた段階での早期発見と対応が何よりも重要なのです。
「疲れ目」とは違う?見逃せない初期症状
内斜視の初期サインは、一般的な疲れ目や単なる視力低下とは大きく異なります。大人が気づきやすい最も代表的な症状は、遠くを見たときに景色や文字が左右にズレて見える、いわゆる「複視(ふくし)」です。両目で見ると対象がダブって不快なのに、片目だけで見るとスッキリ見えるという、左右の視線のズレに起因する特有の違和感が現れます。また、両目で物を立体的に把握する力である両眼視が低下するため、遠近感が狂って足元につまずきやすくなったり、歩くときにふらつきを覚えたりするケースも少なくありません。
一方で、小さな子どもは視覚の異常を自覚しにくく、またそれをうまく言葉で表現できません。そのため、周囲の大人が細やかな観察によって異変を察知する必要があります。
子どもがスマホやタブレット、あるいはテレビを見た後、顔を不自然に斜めに傾けて物を見ようとしたり、視線を合わせるときに片目を細めるような仕草をしたりする場合は注意が必要です。以前に比べて黒目が明らかに内側に寄っているように見えるなど、外見的な変化も重要なサインとなります。
発症したときの対処法と最先端の治療アプローチ
実際には早期発見と適切な対応を行えば、自然に回復するケースも少なくありません。
軽度で発症から日が浅い場合は、スマートフォンやタブレットの使用をしばらく控えたり、画面を見る時間を減らすことで、目の筋肉がリセットされることが多いです。特に、発症初期に立体視機能が残っている場合や、斜視の角度が小さい場合、デジタル機器の利用を従来の半分以下に減らすことで改善が期待できます。
しかし、長期間放置したり重症化した場合は、眼科での専門的な治療が必要となります。視覚のズレを補正する「プリズム眼鏡」や、凝り固まった筋肉を一時的にゆるめるボトックス注射、さらには筋肉の位置を数ミリ単位で調整する外科手術が行われることもあります。特に、手術は筋肉の構造的変化が起きてしまった場合に有効とされています。
目を守るためにできること——デジタル時代のセルフケア術
今すぐできる予防策にはどんなものがあるのでしょうか。世界的にも推奨されているのが「20-20-20ルール」です。これは、20分スマホやパソコンの画面を見たら、20秒間、約6メートル先(20フィート)をぼんやり眺めて、目の緊張をリセットするというものです。短時間でも意識的に遠くを見ることで、内直筋や毛様体筋の疲労を和らげる効果が期待できます。
また、スマホと目の距離は30cm以上離すことが鉄則です。寝転がってのスマホ使用や、暗い部屋で画面を見ると距離が縮まりやすく、リスクが高まるため避けましょう。子どもの場合、日本弱視斜視学会などの提言を参考にすると、2歳まではデジタル機器の利用を控え、5歳までは保護者の管理下で短時間だけ、小学生は1日1〜2時間程度が目安とされています。
さらに、目の筋肉をリラックスさせるには、屋外での活動が効果的とされています。自然光のもとで遠くを見たり、体を動かすことで、目の筋肉への負担が軽減されます。近視や内斜視の進行を防ぐ観点からも、外遊びの時間を増やすことはシンプルかつ強力な予防策といえるでしょう。
スマホやタブレットの画面が小さい場合には、タブレットアームやスタンドを使って物理的に距離を保ち、文字サイズを大きく設定する工夫も有効です。
まとめ
スマートフォンやデジタル機器の進化は、私たちの生活を便利にしてくれました。しかしその裏で、子どもから大人まで内斜視という新たなリスクが広がりつつあります。
小さな違和感を見逃さず、早期発見と適切な対応を心がけること。日々の生活の中でできるシンプルな予防策を継続すること。それが、視力を守るための第一歩となります。


