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Mr.ビーンを演じた男、ローワン・アトキンソンとは何者か――“言葉を超える笑い”が生まれた理由
ビジョナリー編集部 2026/01/20
奇妙な動きと独特の表情で世界中の人々を魅了した男、Mr.ビーン。それを演じたイギリスの俳優ローワン・アトキンソンがどのような人生を歩み、なぜ“言葉を超えた笑い”を生み出せたのか、ご存じでしょうか?
本稿では、ユニークな経歴を持つローワン・アトキンソンの素顔と、彼が生み出した伝説的コメディ「Mr.ビーン」の舞台裏を紐解いていきます。
エリート一家に生まれた“天才児”ローワン・アトキンソン
ローワン・アトキンソンは1955年1月6日、イギリス北東部ダラム州の小さな町コンセットに生まれました。父親は農業を営む会社役員、兄は経済学者と、知性と教養に恵まれた家庭で育ちました。ローワン自身も学業成績は抜群。地元の名門ボーディングスクール(寄宿学校)を優秀な成績で卒業し、ニューカッスル大学で電気電子工学を学びます。その後は、オックスフォード大学で修士課程に進学。誰もがうらやむエリートコースを歩んだのです。
しかし、ローワンの人生は単なる秀才で終わりませんでした。意外なことに、彼は幼い頃から吃音障害に悩まされ、学校ではいじめを受けた経験も持っています。けれども、舞台に立ち「別人」になりきることで吃音が消える――そんな自分の特性に気づいたローワンは、次第に演劇やコメディの世界に惹かれていきました。
オックスフォード大学時代には伝説的なコメディグループ「オックスフォード・レビュー」に所属し、後に「Mr.ビーン」を共に作り上げるリチャード・カーティスと運命の出会いを果たします。周囲の学生たちからは、「究極の天才」と呼ばれるほど、脚本・演技ともに抜きん出た才能を発揮したのです。
芸術か、学問か――人生の分岐点
オックスフォードでの修士課程を経て、博士課程への進学も考えたローワン。しかし、演劇の道にかける情熱が勝り、学問よりも表現者として生きることを選びました。当時の彼の決断は、家族や周囲から見れば大胆でリスキーに映ったことでしょう。
ローワンのテレビデビューは1979年。冠番組「Rowan Atkinson Presents Canned Laughter」でいきなり主演・脚本を担当し、コメディアンとして華々しいスタートを切ります。さらに、同年にはコント番組「ノット・ザ・9オクロック・ニュース」にも出演し、英国コメディ界の新星として注目を集めました。
その後、中世イギリスを舞台にした毒舌シットコム「ブラックアダー」で主演を務め、シリーズは4作にわたり制作される大ヒットになりました。
Mr.ビーン誕生――“言葉を超える笑い”への挑戦
1990年、ローワンは新たな伝説の扉を開きます。「Mr.ビーン」がイギリスで放送を開始したのです。特徴的なのは、主人公ビーンがほとんど言葉を発しない“サイレントコメディ”であること。表情や仕草、身体の動きだけで物語を展開し、観る者を爆笑させる――まるでチャールズ・チャップリンの現代版のような存在でした。
ローワン自身がサイレント映画を研究し、言語の壁を越えて“誰もが楽しめる普遍的な笑い”を追い求めた結果として、吃音という自身の課題を逆手に取り、「言葉に頼らない表現」で世界に挑戦したのでした。
撮影現場では、ビーンの一つ一つの動作や“間”、表情の動きが秒単位で綿密に計画され、リハーサルが何度も繰り返されました。スタッフもカメラワークや音響など細部にこだわり、観る者が一瞬で状況を理解し、誰もがクスリと笑える工夫を凝らします。
ミスタービーンの“普遍的な魅力”――世界を席巻した理由
「Mr.ビーン」シリーズはわずか14話しか制作されていませんが、そのインパクトは計り知れません。言葉をほとんど使わないため、英語がわからない国の人々にも理解され、テレビ放送やビデオ・DVD、インターネット動画を通じて190カ国以上で放映されました。
特に日本では、1991年にNHKで初放送され、深夜や年末年始などマイナーな枠で徐々にコアなファン層を獲得。1997年には劇場版映画『ビーン』が公開されると、子どもから大人まで幅広い世代に“ビーン旋風”が巻き起こりました。以降、アニメ版や続編映画も制作され、Mr.ビーンは世代や性別、国籍を問わず愛され続けるキャラクターとなったのです。
Mr.ビーンの印象は、どこか子どもっぽく、即興で動き回るコミカルな人物に見えるかもしれません。しかし、その裏側には、ローワン・アトキンソンのストイックな準備と完璧主義がありました。
例えば、ビーンが車の屋根の上に椅子を括り付けてミニクーパーを運転する有名なシーンや、歯医者の予約に遅れそうになり車内で着替えるシーン。どれもスタントマンを使わず、ローワン自身が徹底的にリハーサルを重ねて挑んでいます。
彼のコメディは、思いつきの連発ではなく「設計」に近い作り方でした。表情は“感情”ではなく“情報”として扱い、眉・目・口の動く順番、体の重心移動、手の動線までを細かく整理する。観客が状況を理解する速度に合わせて、動作を「見せる→止める→反応する」の3段階で組み立てるのです。
そこで決定的になるのが“間”です。観客が「理解した瞬間」と「次の期待が生まれる瞬間」の狭い窓に、わずかな停止や視線の切り替えを差し込み、爆発点を作る。笑いを偶然ではなく再現可能な形に落とし込む――その執念がMr.ビーンの普遍性を支えました。
Mr.ビーン以降――“コメディアンの中のコメディアン”と称される理由
Mr.ビーンの成功以降も、ローワン・アトキンソンは多彩な活躍を続けます。2003年のクリスマス映画『ラブ・アクチュアリー』では宝石店員として、コメディ映画『ジョニー・イングリッシュ』シリーズではおとぼけスパイ役として、また2016年にはシリアスな刑事ドラマ『メグレ警視』で新境地を切り拓きました。
「観客は演技の一部」と語るローワン。彼は常に“観る人と一緒に笑いを作る”ことを意識してきました。自身の幼少期や学生時代、イギリスの生活体験――そのすべてが彼のコメディに息づいており、「イギリスらしさ」が自然体でにじみ出るのです。
「僕のコメディは間違いなく自分の過去に影響を受けている。僕の幼少期、学生時代、住んだ場所……全部イギリス的世界なんだ。ただ、僕が面白いと思うことをしているだけなんだよ」
彼の作る笑いは、イギリスの文化や皮肉、時にブラックジョークも混じる独特のもの。しかし、緻密に計算された“言葉を超える表現力”があるからこそ、世界中の人々に伝わり、時代も世代も超えて愛され続けているのです。
2012年ロンドンオリンピック開会式では、Mr.ビーンとして登場し大喝采。しかしその直後、「50代の男がああいった幼稚なキャラクターを続けるのは切ない」と語り、Mr.ビーンの役から引退しました。それでもチャリティーやファンサービスでは時折ビーンに扮し、2015年には25周年を記念してロンドン市内を愛車ミニクーパーで巡る姿も披露しています。
まとめ――“言葉を超える笑い”で世界をつなぐ
Mr.ビーンを演じたローワン・アトキンソンは、吃音障害というハンディを持ちつつ、舞台で輝く才能を発揮し、「言葉に頼らない普遍的な笑い」を追い求めてきました。彼の生み出したMr.ビーンは、子どもも大人も、国を越えて誰もが楽しめる作品となりました。
ぜひMr.ビーンの世界を覗いてみてください。“言葉を超える笑い”が、きっとあなたの心にも届くはずです。


