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2026

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    うそ発見器はどこから来て、どこへ向かっているのか――ポリグラフからAIまでの技術史

    うそ発見器はどこから来て、どこへ向かっているのか――ポリグラフからAIまでの技術史

     嘘をついているかどうかを、機械で判定することは可能なのでしょうか。

     採用面接や捜査、セキュリティの現場など、私たちは日常や仕事の中で「相手が本当のことを言っているのか」を判断しなければならない場面に数多く直面しています。

     この問いは、決して現代に始まったものではありません。20世紀初頭から現在に至るまで、心理学や生理学、情報工学といった複数の分野で、繰り返し検討されてきたテーマです。

     一般に「うそ発見器」と呼ばれる装置は、こうした研究の積み重ねの中で生まれた技術の一つです。生理反応を手がかりに人の心理状態を推定しようとする試みは、長い歴史を持つ一方で、その限界や扱い方についても議論が重ねられてきました。

     本記事では、うそ発見器の起源と仕組み、捜査や司法における位置づけ、そして近年注目されているAIを用いた分析手法について、研究や実務の動向を踏まえながら整理します。

    生理反応から嘘を推定するという考え方

     うそ発見器の原型であるポリグラフ検査は、20世紀初頭のアメリカで開発されました。心理学者のウィリアム・マールトン・マーストンは血圧変化に注目した研究を行い、その後、警察官で生理学研究者でもあったジョン・オーガスタス・ラーソンが、複数の生理指標を同時に測定する装置を実用化しました。当時の研究者たちは、「人が嘘をつく際には心理的な緊張が生じ、その影響が身体反応として表れる」という仮説に注目していました。

     ポリグラフは、心拍や血圧、呼吸の変化、発汗に伴う皮膚電気反応など、自律神経活動と関係の深い複数の生理指標を同時に記録します。単一の反応ではなく、複数の変化を重ね合わせて分析することで、心理状態の変動を捉えようとする点に特徴があります。

     ただし、研究の初期段階から重要な前提も共有されてきました。ポリグラフが測定しているのは「嘘そのもの」ではなく、あくまで身体に表れる生理反応であるという点です。生理反応の変化は、虚偽に限らず、緊張や不安、恐怖などさまざまな心理状態によって生じる可能性があります。

    捜査や司法における扱われ方

     こうした特性から、ポリグラフ検査は多くの国で限定的な位置づけにとどまってきました。日本を含め、裁判において単独で事実認定を左右する証拠として採用されるケースは一般的ではありません。

     一方で、捜査の補助資料として利用されてきた側面もあります。供述内容の整理や捜査方針の検討にあたり、一定の参考情報として扱われることがありました。ただし、その結果は常に他の証拠や事情とあわせて総合的に評価されるべきものとされています。

     研究の蓄積が進むにつれ、個人差や環境要因、質問方法の違いが結果に影響を与えることも明らかになってきました。こうした点が、法的証拠としての利用を慎重なものにしてきた背景にあります。

    AIを用いた嘘検知研究への関心の高まり

     近年、うそ発見技術に関する研究の関心は、従来の生理測定型から、AIを活用した分析手法へと広がりつつあります。こうした研究は、大学や研究機関の心理学・認知科学・情報工学の研究者を中心に進められているほか、一部ではテクノロジー企業やスタートアップも参画しています。

     AIを用いた手法では、心拍や血圧といった生理反応ではなく、人の行動や表現の特徴が分析対象となります。 音声の抑揚や話す速度、表情の微細な変化、視線や瞬きの頻度、さらには言語表現の構造などがデータとして用いられます。これらを大量に学習させることで、虚偽とされる発話や行動に共通しやすい傾向を統計的に抽出しようとする試みです。

     こうした研究が進められている背景には、人間による嘘の見抜きが必ずしも高い精度を持つわけではない、という知見があります。実験研究では、特に初対面の相手や限られた情報に基づく判断において、人間の直感的な評価が正確性を欠く場合が少なくないことが示されています。

    実験研究で示されている成果

     一部の研究では、特定の条件下において、AIの判定精度が人間の判断を上回ったと報告されています。映像や音声といった限定された情報を用いた実験環境では、AIが一定の識別能力を示したとされています。

     もっとも、こうした成果は主に統制された実験環境で得られたものであり、現実社会において同様の精度が再現されるかどうかについては、引き続き検証が必要とされています。文化的背景や言語の違い、個人の性格特性などが結果に影響を及ぼす可能性も指摘されています。

    AI型嘘検知に対する評価と課題

     研究者や実務家の間では、AIを用いた嘘検知について慎重な評価が共有されています。AIの判断は学習データの質や偏りに大きく左右されるため、特定の集団や状況に適用した場合に誤認が生じる可能性があるとされています。例えば、文化的背景や言語表現の違い、緊張しやすさの個人差、あるいは障害や心理状態によって生じる行動の特徴が、虚偽と誤って解釈されるおそれがあることが指摘されているのです。

     そのため、AIの分析結果を単独で事実認定に用いることについては、多くの専門家が慎重な姿勢を示しています。現時点では、従来の技術と同様に、補助的な情報としての利用が前提とされるケースが多いのが実情です。

    技術評価と制度的な検討

     新しい技術が社会に導入される際には、その技術的有効性だけでなく、社会的影響や運用上の課題を含めた評価が求められます。過去には、米国議会が新技術の影響を評価する専門組織を設けていた例もあり、AIを含む先端技術についても、同様の枠組みの重要性が指摘されています。

     嘘検知技術についても、研究成果と制度設計をどのように整理していくかが、今後の検討課題とされています。

    まとめ

     うそ発見器の歴史を振り返ると、嘘そのものを直接測定することの難しさは一貫して確認されてきました。従来のポリグラフ検査は、生理反応を通じて人の緊張状態を捉える試みでしたが、その一方で、反応の背景にある行動や表現の違いまでは十分に捉えきれない側面もありました。

     近年のAI技術を用いた研究では、こうした限界を補う形で、発話の特徴や表情、行動パターンといった、ポリグラフでは可視化しにくかった要素に光が当てられています。分析手法は高度化していますが、研究や実務の現場では、これらの結果を他の情報とあわせて慎重に活用する姿勢が引き続き重視されています。

     うそ発見器は、単に虚偽を見抜く装置としてではなく、人間の行動や意思決定の特徴をより多角的に理解するための技術として、その役割を広げつつあると言えるでしょう。

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