
世界に誇れる日本を――百貨店から地方を照らす
4/28(月)
2025年
大西 洋 2025/04/19
人材育成という観点で、もう一つ私が意識していたことがある。それは、女性がより活躍できる環境を整えるということだ。
百貨店の社員構成は、約7割が女性である。その力をいかに引き出せるかが、企業の持続的成長において非常に重要であると考えていた。
その一環として、2014年に「NIPPONISTA」というチームを組織し、女性メンバーのみでアメリカに出店するプロジェクトを起ち上げた。マネジメントも含め、運営のすべてを女性に任せるチームを編成した。
「NIPPONISTA」プロジェクトは、ニューヨーク・ファッションウィークの時期にあわせ、日本の優れた技術や文化、そして人の魅力を世界に発信し、グローバル市場への足がかりを提供することを目的として、ニューヨーク・ソーホー(SOHO)にスペシャリティストアを海外で初めて展開するプロジェクトだった。
もともと、2011年度より「JAPAN SENSES」というキャンペーンを通じて、日本各地の産地や職人の技をお客さまにご紹介し、日本のものづくりの力を発信する取り組みを続けていたが、NIPPONISTAは、そうした活動を海外に広げる象徴的な取り組みであった。
肩書や年次にとらわれず、役員であっても新入社員であっても、実力のある人材を積極的に登用する方針を、私は掲げていた。
「NIPPONISTA」には当時入社5〜6年目となる20代後半の若手女性社員が多く、今後のマネジメントを担う層として、さまざまな経験を積んでもらいたいという期待を込めて人選した。すべて彼女らの力で運営を行った。
当時、稲田朋美国務大臣(クールジャパン戦略担当大臣)も女性活躍推進に積極的に取り組んでおられ、チームとして呼んでいただき訪問をしたこともある。
「NIPPONISTA」の人選で私が大切にしたこと、それは「個性があり意見を言える女性」であった。
中には、採用面接時から強い意思を持ち、周囲の評価とは異なる視点で、私が採用を決めた社員もいた。
彼女は関西出身で、面接の場でも自分の考えをしっかりと述べる芯の強さがあった。人事部長が「関西での知名度が高くない伊勢丹に入社することについて、ご両親のご意見は?」と尋ねた際、彼女は落ち着いた様子で「そのようなことをお伝えする必要はありません」と答えた。
多くの面接官がその一言を「強すぎる」と受け止めたようだったが、私はむしろこれからの時代に必要な視点を持った人材だと確信し、自らの責任で採用を決断した。
入社後も、彼女は一貫して自分のスタイルを貫き、物事を自らの視点で見て判断し行動する力を持っていた。
経済産業省を訪問し、稲田大臣と面会した際には、集合時刻ぎりぎりに到着し、「遅刻はしていません」ときっぱりと述べた。その姿勢は印象に残っている。実際の業務においても、的確でスピード感があり、常識的な振る舞いのできる信頼のおける人物だった。
ただ、その個性ゆえに、必ずしも周囲とすぐに馴染めたわけではなかった。昇進のタイミングも、同年代と比較してやや遅れていた。
私はその状況を見て、人事部に「本人の力をしっかりと見て、公正に評価してほしい」と伝えた。
多様性のある組織を目指すうえで、異なる視点を持つ人材こそが企業の成長に貢献してくれると考えていたからだ。
「NIPPONISTA」は、そんな想いを体現したチームだったのである。
今では多くのメンバーがそれぞれの道を歩んでいるが、彼女たちが残した姿勢や取り組みは、今も私の記憶に鮮明に残っている。
残っている仲間たちが、その思いを胸に次の時代を切り開いてくれることを心から願っている。
私は毎年、新入社員向けの講話で彼女のエピソードを紹介していた。「稲田大臣との面会にギリギリに現れたが、毅然とした姿勢で臨んだ」という話は、少し誇張して伝えることもあった。すると彼女から、「話すのは構いませんが、誇張はしないでください」とたしなめられることもあったが、それもまた、今となっては心に残る思い出の一つである。