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2025

    店頭第一主義――店内視察で顧客の声をキャッチする

    #18店頭第一主義――店内視察で顧客の声をキャッチする

    原石からダイヤへ

     社長時代、私は意識的に店内を多く歩く時間を持つようにしていた。

     目的は、現場を見ることはもちろんだが、お客さまの声を直接うかがいたいという思いがあった。新宿の店を午前中に2時間ほどしっかり歩けば、少なくとも20〜30人のお客さまとお会いすることができる。その中でお声をかけてくださる方もいて、それが本当に楽しい時間だった。

     当時、一部上場企業の副社長をされていた方の奥さまが伊勢丹を非常にごひいきにしてくださっていた。水曜日に大きなイベントや催事があると、入り口には列ができるのだが、その奥さまはいつも先頭から10番目以内に並んでいらっしゃった。

     そしてオープンになると、こちらに目を向けて「社長!」と声をかけてくださる。また、エスカレーターを昇っていくと、毎日のように来てくださるお客さまの顔が見える。必ずしも毎日買い物をされるわけではなく、伊勢丹の店内を見て回ることや、スタッフに会いに来ることそのものを楽しみにしてくださっていたのだ。

     私は、水曜日と土曜日に店内を回ると決めていた。お客さまとのそうした触れ合いが、自分にとって何よりも楽しかった。支店などでは当たり前のことだったが、新宿でも同様のことができたのは、大変ありがたかった。また、水曜日は催事の立ち上がりが多いため、新しいことが動き始める日でもある。だからこそ、お客さまからの反応をうかがうには最適なタイミングだと考えていた。

     近年は、インバウンドや富裕層対応の強化を背景に、販売員の人員が外商部門へと大きくシフトし、以前200〜250人規模だった外商が現在では1500人を超えているとも聞く。しかし私は、店頭での接客にこそ百貨店の本質があると考えていた。

     私は、この点には疑問をもっている。店頭に人がいなくなるようなことは、私自身は絶対に選ばない選択である。お客さまのお名前や過去に購入された履歴などは、もちろんシステムでも管理できるが、販売員がしっかりと記憶し、一人ひとりの好みや要望を把握しておくことが、接客のプロとして大切だと考えているからだ。お得意さまがどのような商品を以前に購入されたのか、顔と名前を一致させて接客をすることが、百貨店の基本的な在り方だと確信している。

     現場に立ってお客さまの声を聞く中で最も多かった意見は、やはり商品に関することだった。たとえば、「ワインセラーに行ったが、この価格帯のものがなかった」とか、新宿本店では比較的少ないことだが、「ファッションフロアで希望するサイズが見つからなかった」といった声である。

     また、「昨日家族であそこへ出かけてきた」といった、ちょっとした雑談まで、店内で自然にそうした会話ができることは、本当に素晴らしいことだと感じていた。日々のお声には店舗運営へのヒントが数多く含まれていた。そして、そのような空間にいることが、何よりも好きだった。

     百貨店というのは、単なる買い物の場ではなく、「また行きたい」と思っていただける空間であるべきだ。だからこそ、社長として社員に繰り返し伝えていたのは、「一度店頭に立ったら、お客さまを大切にするという意識を常に持つ」ということだ。すなわち、お客さまが入店されたらお客さまのことをきちんと理解し、「A様がいらっしゃった」とすぐにわかるような接客体制こそ、百貨店のあるべき姿だと信じていた。

     そのような姿勢を実践できる社員はしっかりと評価し、実績を築いた人をきちんと表彰できる制度をつくりたい。社長として、私はそう考えていた。

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