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研究のバトンをつないだ30年。キユーピーが「食品用ヒアルロン酸」で切り拓いた巨大市場
ビジョナリー編集部 2026/03/26
▲研究員プロフィール
(後列左から)
栗山 慶子 :研究開発本部 食創造研究所 ファインケミカル開発部
小田中 亘 :ファインケミカル本部 信頼性保証部
木村 守 :研究開発本部 未来創造研究所 上席研究員
(前列左から)
松岡 亮輔 :研究開発本部 未来創造研究所 ヒューマンヘルス研究部
金光 智行 :常務執行役員 研究開発本部長
大江 眞理子:研究開発本部 未来創造研究所 ヒューマンヘルス研究部
はじまりは、未利用資源だった“鶏のトサカ”
キユーピーの「食品用ヒアルロン酸」が、日本農芸化学会の2026年度農芸化学技術賞を受賞した。今や「飲むヒアルロン酸」は当たり前の存在だが、かつては「マヨネーズのキユーピーがなぜ?」という声も少なくなかったという。その挑戦の原点は、1980年代に遡る。
常務執行役員の金光智行氏は、研究のきっかけを次のように振り返る。 「1980年代前半、当時まだ有効活用されていなかった“鶏のトサカ”からヒアルロン酸を抽出する技術に着目しました。折しも1982年に、卵の有効成分を抽出・活用するファインケミカル事業が発足したばかり。採卵鶏のトサカを活用できないか、と考えたのがすべての始まりでした」
独自の「鶏冠抽出法」を確立した同社は、まず化粧品用原料の販売を開始。その後、1990年代に食品用・医薬用へと領域を広げていった。2004年には、同社が得意とする「お酢」の発酵技術を応用した「発酵法」を開発し、安定的な大量生産を可能にしたのだという。

市場ゼロからの挑戦。定説を覆し、日本初の「肌」機能性表示食品へ
順調に見える歩みだが、食品用ヒアルロン酸の市場は当初、存在すらしていなかった。 「食品用原料を発売したものの、最初は鳴かず飛ばずでした」と金光氏は苦笑する。当時は「食品として摂取しても意味がない」という懐疑的な見方が一般的だったからだ。
そこで同社は、自ら市場を創るべく「科学的根拠(エビデンス)」の蓄積に乗り出す。2001年には、世界で初めてヒト試験による肌の保湿機能への影響を報告※1。2007年の試験では、乾燥肌の被験者がヒアルロン酸を摂取することで、有意に肌水分量が増加することを突き止めた。

▲図1 ヒアルロン酸摂取による肌(頬)の水分量に及ぼす影響
2007年には、乾燥肌を有する39名を対象に、ヒアルロン酸サプリメントまたはプラセボサプリメントを6週間摂取してもらった結果、ヒアルロン酸群では3週目および6週目でプラセボ群と比較して肌水分量が有意に増加し、肌の保湿機能が明確に示された。
しかし、最大の壁は専門家からの「高分子のヒアルロン酸をそのまま食べても、吸収されずに排出されるだけではないか」という根強い説だった。
この「吸収されない説」に立ち向かったのが、信頼性保証部の小田中亘氏らによる体内動態の研究だ。
「放射性同位体でラベル化したヒアルロン酸を用いた試験の結果、経口摂取したヒアルロン酸の80%以上が吸収され、皮膚や眼などに分布することを証明しました。このデータは、当時の業界に大きなインパクトを与えました」と小田中氏は語る。
この執念とも言える研究の積み重ねが、2015年に結実する。栗山慶子氏は、制度開始初日に日本初の機能性表示食品を目指して奔走した当時を振り返る。
「論文を集めてもキユーピーのものばかり。長年の蓄積があったからこそ、自信を持って申請できました」
結果、2015年6月に日本初の肌を訴求した機能性表示食品「ヒアロモイスチャー240」※3が誕生。同社が切り拓いた道に他社も続き、今やヒアルロン酸を関与成分とする機能性表示食品は100品目を超える巨大市場へと成長を遂げた。


ブラックボックスだった「吸収メカニズム」を解明
発売後も、キユーピーの探究心は止まらなかった。次なる課題は、なぜ高分子のヒアルロン酸が吸収されるのかという「メカニズム」の完全解明だ。
上席研究員の木村守氏は、社外の専門家と協力し、驚くべきプロセスを明らかにした。 「ヒアルロン酸は胃や小腸では分解されませんが、大腸に届くと『ヒトの腸内細菌』によって低分子のオリゴ糖に分解され、そこから体内に吸収されることが分かったのです※5」
ブラックボックスだった吸収の仕組みが科学的に証明されたことで、食品用ヒアルロン酸の信頼性は揺るぎないものとなった。

▲図2 ヒアルロン酸の肌の保湿機能のメカニズム
30年つないだバトンの先へ。描き出す未来図
「ヒアルロン酸はまだまだおもしろい発見が眠っている」と木村氏は目を輝かせる。
大江眞理子氏や栗山氏、松岡亮輔氏ら研究メンバーは、すでに肌の保湿以外の機能性解明や、海外市場への展開、さらには再生医療への応用といった新たなフェーズを見据えている。
「我々は市場をゼロから創り上げたパイオニアであるという自負があります」と語る金光氏。
マヨネーズという国民的調味料の陰で、30年以上にわたり紡がれてきたヒアルロン酸研究のバトン。その軌跡は、一企業の事業を超え、人々の健康と美を支える確かな社会インフラへと進化を続けている。
※1 梶本 修身, 小田中亘, 坂本 和加子, 吉田一也, 高橋丈生, 乾燥肌に対するヒアルロン酸含有食品の臨床効果. 新薬と臨牀, 2001; 50(5):90-101.
※2 Oe M., Mitsugi K., Odanaka W., Yoshida H., Matsuoka R., Seino S., Kanemitsu T., Masuda Y. Dietary hyaluronic acid migrates into the skin of rats. ScientificWorldJournal, 2014; 2014: 378024.
※3 キユーピーアヲハタニュース 2015年 No.40参照
「機能性表示」本品にはヒアルロン酸Naが含まれます。ヒアルロン酸Naは肌の水分保持に役立ち、乾燥を緩和する機能があることが報告されています。食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。本品は、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません。本品は、医薬品ではありません。
※4 Kawada C., Yoshida T., Yoshida H., Matsuoka R., Sakamoto W., Odanaka W., Sato T., Yamasaki T., Kanemitsu T., Masuda Y., Urushibata O. Ingested hyaluronan moisturizes dry skin. Nutr J. 2014; 13: 70.
※5 Akazawa H., Fukuda I., Kaneda H., Yoda S., Kimura M., Nomoto R., Ueda S., Shirai Y., Osawa R., Isolation and identification of hyaluronan degrading bacteria from Japanese fecal microbiota, PLOS ONE, 2023; 18: e0284517.
※6 Kimura M., Maeshima T., Kubota T., Kurihara H., Masuda Y., Nomura Y., Absorption of orally administered hyaluronan, J. Med. Food, 2016; 19: 1172-1179.


