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「地中海の鉄の女」ジョルジャ・メローニ――逆境から首相へ、イタリアが託したリーダー像
ビジョナリー編集部 2026/02/26
2022年10月、長年政局が不安定だったイタリアに新たなリーダーが誕生しました。その名はジョルジャ・メローニ。彼女は、“女性初の首相”という肩書きにとどまらず、イタリア政治に大きな転換をもたらし、欧州だけでなく世界の注目を集めています。しかし、その躍進の裏側には、波乱万丈の人生と、イタリア社会の深層に根ざした課題がありました。
幼少期の逆境が生んだ“反骨精神”
1977年、ローマの労働者階級が暮らす庶民的な地区に生まれました。父は幼い彼女と家族を捨ててスペイン領カナリア諸島へと去り、母と姉とともに貧しい母子家庭で育ちます。幼少期は家庭の事情もあり、経済的にも精神的にも厳しい日々を過ごしました。火災で家を失い、ホームレス同然の生活を強いられた経験もありました。そんな苦労の中で、彼女の心の中には「絶対に負けたくない」という強烈な反骨心が育ったと言われています。
15歳の時、彼女は家族を捨てた父への反発心から、父とは正反対の思想を持つ右派青年組織の門を叩き、政治活動の世界へと足を踏み入れます。この時期の経験が、現在の政治信条と強い意志の礎となっているのです。
異色のキャリアと“叩き上げ”のリーダー像
学歴は専門学校卒。スペイン語・フランス語・英語を操る語学力はあったものの、イタリア政界においては“エリート”とは言いがたい経歴でした。しかし、学生運動や青年組織のリーダーとして早くから頭角を現し、わずか21歳で地方議会議員、29歳で国会議員、そして31歳で史上最年少閣僚(青年相)に就任。政界デビューから一貫して、現場を知る“叩き上げ”の政治家として歩んできました。
2012年、既存政党の混乱に反発して新たな右派政党「イタリアの同胞(FdI)」を立ち上げ、党首として牽引します。当初は小さな勢力でしたが、地道な活動と社会の不満を吸い上げる戦略で支持を拡大し、2022年の総選挙でついに第1党となり首相の座を手にしました。
「二つの顔」を使い分ける手腕――極右から主流派へ
メローニ政権が発足するまで、イタリアはわずか5年で4度も政権交代を繰り返すなど、政治的な不安定さが続いていました。
しかし2022年以降、政権はおおむね安定を維持しています。財政赤字は縮小し、失業率も8%から6%へと改善傾向にあります。近年のイタリア政治では珍しい安定ぶりと言えるでしょう。
その要因の一つが、メローニ氏のバランス感覚です。伝統的な価値観「神・祖国・家族」を掲げ、移民や多文化主義に批判的な姿勢を示す一方で、財政運営では現実路線を徹底し、西側諸国との協調外交も維持。EUや市場が警戒する急進的な政策は抑制しつつ、赤字削減や雇用改善といった成果を積み重ねています。
急進右派の支持層をつなぎとめながら、穏健派や市場の信頼も確保する。その両立こそが、現在の安定を支えているとみられます。
なぜ「トランプ・ウィスパラー」と呼ばれるのか
国際的な注目を集める理由のひとつが、アメリカのトランプ大統領との親密な関係です。予測不能なトランプ氏に対し、欧州リーダーの中で唯一“対話できる存在”として「トランプ・ウィスパラー(トランプをなだめる者)」と呼ばれ、米国と欧州の橋渡し役を担っています。2025年の米大統領就任式にはEU首脳で唯一招かれ、安全保障や経済の課題で協調姿勢を見せました。
こうした外交手腕は、日本との関係にも及びます。メローニ首相は2026年1月16日、首相官邸で高市早苗首相と会談し、重要鉱物のサプライチェーン強化をはじめ、防衛やエネルギーなど幅広い分野での協力で一致しました。両首脳は日伊関係を「特別な戦略的パートナーシップ」と位置づけ、外交関係樹立160周年の節目にさらなる関係強化への意欲を示しました。終始和やかな雰囲気の中で意見交換が行われ、両首脳の間に信頼関係の深まりを印象づけました。
「保守」と「改革」のバランス
メローニ首相が掲げるのは保守的な価値観ですが、その中身は単純な“古き良き”の再現ではありません。例えば、LGBTや移民政策では伝統家族の保護や国境管理を打ち出しつつ、同性カップルの権利維持も表明。EUに対しては懐疑的な姿勢を見せながらも、現実的な協調姿勢を崩さず、ウクライナ支援やNATO支持を明確にしています。
一方、党の一部に残る極右的な要素やファシズムとの関係を問われると、過去の誤りを認めつつも、現代の保守主義へと舵を切る姿勢を強調。若い世代や女性の支持も意識しつつ、時代の空気を読みながらイタリア社会の分断を乗り越えようとしています。
今後の展望
2024年、アメリカの有力誌が“地中海の鉄の女”と評したメローニ首相。2025年にはアフリカとの新たな協力計画を打ち出し、移民・難民問題やエネルギー政策でも独自の存在感を発揮しています。とはいえ、公的債務残高の増加や経済成長の鈍化といった課題も山積し、今後の舵取りは決して容易ではありません。
それでも彼女が支持されるのは、イタリア社会が抱える“痛み”や“不安”に、自らの人生を重ね合わせて訴えかける力があるからではないでしょうか。その存在は、今後も欧州政治の行方を占う重要な指標となりそうです。


