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再注目されるクジラ肉――今、最先端フードとして食卓に帰ってきた理由
ビジョナリー編集部 2026/05/26
どこか懐かしいイメージの強いクジラ肉が、再び注目を集めています。2019年の商業捕鯨再開から数年が経ち、日本独自のクジラ食文化は今、劇的な進化を遂げています。
現代人が惹かれる新たなクジラ肉の魅力
近年、東京・西新橋や横浜などのトレンドスポットには、「鯨肉バル」や「立ち飲みスタイル」の店舗が登場し、ワインやクラフトビールとともに鯨の赤身ステーキやユッケを楽しむ人が増えています。
訪日外国人の間では、従来抱かれてきた反捕鯨のイメージを覆し、「日本独自の伝統食」として受け入れられるケースが増えてきました。都内のある店では、外国人観光客の6割以上が「一度味わってみたい」とオーダーし、その独特の旨みに驚く場面が見られるといいます。
さらに、ボディメイクや健康志向が高まる現代。高タンパク・超低脂肪・高鉄分という点で、牛肉や豚肉をしのぐ「ヘルシー食材」としても脚光を浴びています。特に注目されているのは、クジラ特有の成分「バレニン」。このアミノ酸は、数千キロもの距離を移動するクジラの驚異的な持久力の秘密とされ、疲労回復や抗酸化作用に優れているため、アスリートや健康意識の高い層から「最強のスタミナ食材」として人気を集めています。
進化した捕鯨技術とクジラの資源管理
「たまにしか手に入らない珍味」と思われていた鯨肉ですが、ここ数年で供給体制は一変しました。その象徴となったのが、2024年に竣工した最新鋭の捕鯨母船「関鯨丸(かんげいまる)」です。全長112メートルを超える巨大母船は、まさに“動く冷凍食品工場”。捕獲した鯨をその場で屋内に引き揚げ、衛生的な環境下で解体・冷凍まで一気通貫で行うことができます。
かつての捕鯨現場では、甲板上での作業ゆえにどうしても鮮度や衛生面での課題がつきものでした。しかし関鯨丸の登場によって、臭みの原因となる外気や海水への曝露が激減。生食でも驚くほどクリアな味わいが実現しました。さらに、ドローンを活用した最新の鯨探知や航行技術も導入され、効率的かつ持続可能な捕獲を支えています。
そして2024年には、適切な資源管理のもとで大型種「ナガスクジラ」の捕獲が解禁されました。オホーツク海などでの資源調査に基づき、厳格な捕獲枠が設定されています。推定54万頭以上の資源量があり、今後100年間捕獲し続けても資源に影響が出ないことが科学的に確認されています。
ブームの陰で普及を阻む二つの課題
急速に進化を遂げた市場ですが、課題も残されています。まずは「若い世代の認知不足」です。50代以上には懐かしさとともに親しまれているものの、20〜30代にとっては「食べたことがない」「どこで手に入るか分からない」という声が聞かれます。スーパーの精肉売り場で見かける機会は少なく、食文化としての伝統をどう次世代へ継承するかが問われています。
次に「国際社会からの視線と食の多様性の両立」です。商業捕鯨の是非をめぐっては、環境保護団体や一部海外から根強い批判が続いています。一方で、その事実を国際社会へ正しく伝え、多様な食文化への理解を求めていく難しさは今なお残されています。
課題克服へ:進化する流通と対話の試み
こうした二つの課題に対し、多角的なアプローチが始まっています。国内の認知不足に対しては、「クジラ肉自動販売機」の普及が挙げられます。東京・月島や大阪・梅田など、主要都市に設置された無人店舗「くじらストア」では、24時間いつでも高品質な冷凍鯨肉や缶詰を手軽に購入できるようになりました。また、食べきりサイズのベーコンパックや味付け済みのレトルト商品など、忙しい現代人のライフスタイルに合わせた“タイパ重視”の商品開発も進んでいます。一方、国際的な視線に対しては、エビデンス(科学的根拠)の開示とオープンな情報発信が鍵となっています。捕鯨企業や研究機関は、デジタルメディアを通じて国内外へ資源管理の透明性をアピール。さらに、前述の外国人観光客の受け入れに見られるように、「実際に食べ、文化に触れてもらう」という草の根の食体験を通じて、批判を「相互理解」へと変えていく地道な対話が試みられています。
100年先を見据えた日本の食料戦略
世界規模で人口が増加し、「タンパク質危機(プロテイン・クライシス)」が現実味を帯びる中、日本の食料自給率は依然低水準のまま推移しています。そうした状況下で、厳格な管理のもと資源を守りつつ安定供給できる鯨肉は、食料安全保障の“切り札”として期待されています。
日本の捕鯨は、国際基準以上に厳しい捕獲枠のもとで行われています。さらに、皮や骨、内臓に至るまで一切無駄にせず活用する知恵や、「自然の恵みを余さずいただく」という縄文時代からの美徳が息づいています。
若者への流通開拓と、国際社会への丁寧な発信。これら二つのハードルを越えた先で、先進技術と伝統精神が融合したクジラ食は、地球環境と調和した“次世代の持続可能なタンパク源”として、重要な役割を担っていくはずです。


