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2026

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    「25億円の既存事業を捨て、ゼロから再始動」――WILLER代表取締役・村瀨茂高氏が語る、40歳での衝撃と“移動”で世界を動かす覚悟(後編)

    「25億円の既存事業を捨て、ゼロから再始動」――WILLER代表取締役・村瀨茂高氏が語る、40歳での衝撃と“移動”で世界を動かす覚悟(後編)

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    「25億円の既存事業を捨て、ゼロから再始動」――WILLER代表取締役・村瀨茂高氏が語る、40歳での衝撃と“移動”で世界を動かす覚悟(前編)

    基盤を固めた昨年。今年はこれを成果へと変えていくフェーズにする年に

    2025年を振り返り、今年2026年の注力ポイントを教えてください。

     2025年は、まさに「グローバル基盤を固める一年」でした。コロナ禍で一時中断していた海外事業を再始動させ、ASEAN各国に駐在員を派遣し、現地の公共交通と連携するためのシステムを構築してきました。先ほどお話ししたマレーシアでの「mobi」と公共交通の連携のような「実証モデル」を完成させたのが、昨年までの成果です。

     2026年は、この積み上げた基盤を成果へと変えていくフェーズ になります。これまでは公的な資金も活用しながらモデルケースを作ってきましたが、今年からは営業体制を大幅に強化し、ASEAN諸国へ一気に売り込みを開始します。

     日本国内では、インバウンド需要のさらなる拡大に対応します。また、京都丹後鉄道を運行する丹後エリアでは、シームレスな移動体験を実現するため、鉄道や路線バス、オンデマンド交通「mobi」など多様な交通手段を連携させたMaaSアプリの実証を2026年1月に開始します。来年の今頃には、私たちの公共交通プラットフォームが、国内外で「当たり前のインフラ」として定着し、世の中の景色を変えているはずです。

    AIはコスト削減のためではない。「移動体験」を劇的に変えるためにある

    テクノロジーの活用において、特に「AI」をどう位置づけていますか。

     かつてインターネットが登場したとき、「ネットで商売なんてできない」と言われましたが、私たちはITの波に乗って市場を変えました。今のAIも同じです。現在はカスタマーサービスのコスト削減などが主眼に置かれがちですが、本質はそこではありません。

     私がAIに期待しているのは、 「個人の移動体験をどう変えられるか」 という点です。お客様一人ひとりのニーズを瞬時に汲み取り、最適なタイミングで、最適な移動手段を提案する。それによって、今まで「行くのを諦めていた場所」へ行けるようになる。

     AIという技術を、いかにして「移動の価値」という無形のサービスに昇華させるか。 これが、公共交通プラットフォームとしてグローバルで勝ち抜くための鍵になります。世界中で「WILLERのシステムが入っているから、この街の移動は快適だ」と言われる未来を、AIと共に作っていきます。

    900万人の会員とつくる「神」サービス。クレームこそがイノベーションの種

    顧客とのコミュニケーションで大切にされていることは何でしょうか。

     私たちは現在、900万人を超える会員を抱えています。私たちの強みは、この方々と「一緒にサービスを作っている」という感覚です。

     かつてTwitter(現・X)にお客様が書き込んでくださった声は、毎日すべて収集し、全社員に配信していました。例えば、不満の声があった際にそれを解決する新機能をリリースすると、お客様から 「また私が言ったやつを作ってくれた! 神!」 という反応をいただく。この「神」という言葉をどれだけいただけるかが、私たちの最大のモチベーションでした。

     クレームを単なる謝罪で終わらせてはいけません。 「隣に異性が座るのが不安」という不満を「女性専用席」というサービスに変える。 その転換ができるかどうかが、イノベーションの分かれ道です。

     特にAIオンデマンド交通「mobi」では、例えば「隣のおばあちゃんが脚を骨折したから、家の前に車を停められるようにしてほしい」といった切実な要望に、システムの乗降ポイントを追加することで可能な限り要望に応える。こうした 「顔の見えるマーケティング」をデジタルで仕組み化すること が、私たちの目指す究極のホスピタリティです。

    楽天・三木谷氏――革新者と共鳴する理由

    三木谷氏などの、日本を代表する経営者との連携も話題です。

     40歳のとき、三木谷さんの記事を読んで感銘を受けましたが、そのわずか2年後に楽天バスサービスの社長を任されることになるとは夢にも思いませんでした(笑)。共通しているのは 「今ある市場の取り合いではなく、新しい市場を作る」という志 です。

     交通インフラには公共性は欠かせませんが、一方で民間ならではの「お客様が驚くようなサービス」が必要です。私たちは自分たち一社の利益だけを追うのではなく、政府や地方自治体、そして異業種の革新的な企業と手を取り合う 「オーガナイゼーション(組織化)」 を重視しています。

     「私が」ではなく「みんなで」。このフラットな共創文化があるからこそ、強力なパートナーシップが生まれ、単独では成し遂げられない社会課題の解決が可能になるのです。

    「日本が選ばれる最後の10年」――内向きな視線を捨て、外の世界へ

    最後に、これからの日本社会に対する危機感と展望をお聞かせください。

     今、シンガポールやマレーシアに身を置いていると、日本の立ち位置に強い不安を感じます。かつては日本が最先端でしたが、デジタルやシステムの面では、すでにASEAN諸国に大きく追い抜かれているのが現実です。

     一番の課題は、 「日本しか見ていない人」があまりにも多すぎること です。円安の影響もあり、コロナ後、日本人の視線はさらに内向きになってしまいました。世界から見れば、「日本から学べるものがまだある」と思われている時間は、もう長くはありません。

     これからの10年が、日本が成長できる最後のチャンス、いわば「絶賛売り出し中のキャンペーン期間」 だと私は考えています。

     私たちが日本の誇る「安全・安心」のノウハウをASEANに輸出し、現地の「最先端デジタル」を日本に逆輸入(リバースイノベーション)する。そうした双方向の循環を作ることが、日本の、そして世界中の移動をより豊かにすると信じています。この志を成し遂げるまでは、まだまだ立ち止まるわけにはいきません。

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