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花粉症対策の最前線――「避粉地」という新しい旅行トレンド
ビジョナリー編集部 2026/02/27
春になると、街中で見かけるのはマスク姿の人々、そして薬局に陳列された花粉症対策グッズの数々。目のかゆみや鼻水、頭痛に悩まされる方にとって、春は憂鬱な季節になってしまいがちです。そんな“春の憂鬱”に対して、注目を集めているのが「避粉地」という新しい旅の形です。
花粉症が“国民病”と呼ばれる時代
日本では、花粉症は“国民病”と呼ばれるほどの広がりを見せています。1998年の環境省による調査では、その症状に悩む人は国民全体の2割程度でしたが、2019年には4割を超えるまでに増加しました。背景には、戦後の復興期に住宅や建築資材の需要が高まり、各地で大量にスギやヒノキが植林されたことがあります。その後の伐採や間伐が思うように進まず、成熟した木々が大量の花粉を飛散させるようになったのです。※1
さらに近年は、都市部の舗装道路の拡大や温暖化、大気汚染、食生活の変化といった複合的な要因が、花粉症の増加に拍車をかけています。春になると、くしゃみや目のかゆみで日常生活や仕事に大きな支障をきたす方も珍しくありません。
「避粉地」とは何か――“花粉の少ない場所”が新たな価値に
そのような中で、注目されているのが「避粉地」です。その名の通りスギやヒノキの花粉がほとんど飛ばない、もしくは非常に少ないエリアを指します。花粉シーズンだけでも症状から解放されるために、意識的にこうした地域へ足を運ぶという行動が広がっています。
「避暑地」が暑さを癒やすために出かけることを目的にするように、今や「花粉を避けるために旅をする」という新しい発想が出てきています。身体のつらさから逃れて心身をリフレッシュするという点では、何ら変わりありません。
避粉地の特徴――なぜそこには花粉が少ないのか?
では、具体的にどのような場所が避粉地と呼ばれているのでしょうか。その特徴は大きく3つに分かれます。
まず1つ目は、寒冷地や標高の高い場所です。スギやヒノキは標高1,000メートル以下で育つため、それより高い山岳地帯や寒さが厳しいエリアでは自生しにくい傾向があります。例えば、群馬県の草津温泉は標高1,200メートルを超えており、花粉の飛散が極めて少ないことで知られています。
2つ目は、戦後の植林政策の影響を受けなかった離島や南西諸島です。特に沖縄県や鹿児島県の離島、小笠原諸島などは、そもそもスギやヒノキがほとんど存在しません。アメリカ統治下にあったことで、戦後の日本本土で進められた一律の植林政策が及ばなかったためです。また、島という地理的特性から、周囲の地域から花粉が飛んでくることもほとんどありません。
そして3つ目は、北海道の一部地域のように、気候や土地柄によってスギやヒノキが全く自生しないエリアです。例えば、北海道釧路市では「花粉ゼロのまち」を掲げ、春先でも快適に過ごせる環境が整っています。
ワーケーションや観光地としての価値
避粉地が広がる中で、観光業界も新たな可能性に注目しています。たとえば、沖縄や長崎の離島では、大手リゾート施設が「花粉を忘れる旅」と題した宿泊プランを企画。屋外での食事やアクティビティを思う存分楽しめる内容になっています。これまで「春は外出を控えていた」という方にとって、季節を思う存分に感じながら過ごせる体験はまさに至福といえるでしょう。
また、北海道釧路市のように、コワーキングスペースや長期滞在向けの施設を整備し、滞在費用の一部を助成する自治体も現れています。こうした取り組みは、ワーケーション(仕事とバケーションを融合させた新しい働き方)需要とも相性が良く、実際に都市部の企業が離島や北海道で短期オフィスを開設するといった動きも見られます。
花粉症対策の新しい選択肢として
これまでの対策といえば、マスクや薬、空気清浄機の活用が中心でした。しかし、あらゆる方法を試しても症状を抑えきれない方や、根本的に原因物質から距離を置きたいと考える人は少なくありません。そうした人々にとって、「避粉地」への滞在は新たな選択肢になりつつあります。
飛散量の少ない地域でゆったりと過ごすことは、体調の安定だけでなく、春本来の心地よさや気持ちの余裕を取り戻す機会にもなります。
もし毎年この季節に悩まされているのであれば、思い切って環境を変えてみるという選択肢もあるかもしれません。滞在する場所を変えるだけで、春との向き合い方は大きく変わります。


