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令和のオーディションは、なぜ“優しい”のか──勝者だけを作らない新しい成功モデル
ビジョナリー編集部 2026/01/09
「オーディション番組」と聞いて、どんな光景が浮かぶでしょうか。熾烈な競争、涙の脱落、そして数少ない勝者の華々しいデビュー。そんなイメージが根強い一方で、令和のオーディション番組はまったく新しい価値観とともに進化しています。今や、ただ「選ばれる」ための舞台ではなく、才能を育て、個性を照らし、人生そのものを物語として紡ぐ場へと変貌を遂げているのです。
本記事では、令和のオーディション番組がなぜこれほどまでに人々の心を動かすのか、そしてそこから誕生したアーティストたちがどのように音楽シーンを刷新してきたのかを、実例を交えながら紐解きます。
「推し」を見つけ、成長を見守る楽しみ──リアリティショーとしての進化
一昔前、オーディション番組は「スター誕生!」や「ASAYAN」など、テレビの前の視聴者が合否の行方を固唾を呑んで見守るものでした。しかし、令和の時代、オーディション番組は単なる競争を描くだけの場ではなくなっています。
たとえば、韓国のオーディション番組「PRODUCE 101」シリーズや「Nizi Project」では、練習生たちが与えられた課題に四苦八苦しながらも、互いに励まし合い、友情を育む姿が克明に映し出されます。その「リアリティショー」としての側面は、視聴者が自分だけの「推し」を見つけ、その成長過程を親のような気持ちで見守るという新たな楽しみを生み出しました。
「Nizi Project Season 2」から誕生したNEXZや、「PRODUCE 101 JAPAN」から生まれたJO1、INI、ME:Iなどのグループは、番組開始時点からすでに多くのファンを獲得しました。デビュー前から熱心な応援を受け、彼らの軌跡がSNSやYouTubeを通じて世界中に拡散されていきました。
この現象の背景には、番組が地上波だけでなくHuluやNetflixなどのストリーミングサービスで配信され、国境を越えて多様なファン層とつながりやすくなったことが挙げられます。後から知ったファンも、アーカイブで過去のエピソードを一気見できるため、オーディション時のドラマを遡って楽しむことができるのです。
審査員から「共に歩む存在」へ──多様な価値観を肯定する令和の審査
令和のオーディション番組で大きな変化を遂げたのが、審査員と出場者の関係性です。かつては、審査員が厳しく評価し、時には理不尽ともいえる課題を課す光景が当たり前でした。しかし今では、出場者の個性やバックグラウンド、苦悩に寄り添い、ともに成長を目指す姿勢が求められています。
たとえば、ラッパー・SKY-HIが手がけた「THE FIRST」や、ちゃんみながプロデュースした「No No Girls」などは、その象徴的な存在といえるでしょう。
「No No Girls」では、「身長、体重、年齢はいりません。ただあなたの声と人生を見せてください」というメッセージを掲げ、これまで何度も「NO」を突きつけられてきた女性たちに新たなチャンスを提供しました。プロデューサーのちゃんみなは、候補者一人一人の葛藤に真摯に向き合い、時には涙を流しながら励まし続けます。
視聴者が「国民プロデューサー」に──巻き込む力とコミュニティ
令和のオーディション番組では、視聴者が「受け手」から「主体」へと変わりました。代表的なのが、視聴者の投票によって合格・脱落が決まる「PRODUCE 101」シリーズや「PRODUCE 101 JAPAN」です。ファンは「国民プロデューサー」として番組に参加し、応援する出場者のためにSNSで情報を発信したり、家族や友人に投票を依頼したりと、まるで選挙運動のような熱気が生まれます。
この「巻き込む力」は、エンタメ番組の枠を超え、現代のコミュニティづくりの新たな形を示しています。推しの成長に一喜一憂し、仲間とともに応援する体験は、現実社会の厳しさや孤独感を和らげ、「自分も誰かの夢を応援できる」という前向きなエネルギーにつながっているのです。
「敗者」にもスポットライトを──多様な人生と再挑戦の物語
従来のオーディション番組では、スポットライトが当たるのはごく一部の合格者だけでした。しかし、令和のオーディション番組は、不合格者や脱落者にも温かい眼差しが注がれるようになっています。
「No No Girls」や「GIRLS BATTLE AUDITION」では、最終審査で惜しくもデビューを逃した候補者にも今後の育成や次のチャンスを約束。実際、「ノノガ」で落選した候補生が「ガルバト」で再び挑戦し、合格をつかむなど、「落ちたら終わり」ではないセカンドチャンスが用意されています。
また、オーディション番組出演をきっかけに個人でSNSインフルエンサーとして活躍する例も増加。多様な人生の物語が紡がれ、それぞれの自己実現の道が開かれているのです。
このような「敗者にも物語を紡ぐ」世界観は、多様性が叫ばれる現代社会の空気を反映しており、競争だけがすべてではないという新たな価値観を提示しています。
「才能を褒めて伸ばす」──アーティストを生み出す新たな育成哲学
オーディション番組から生まれたアーティストたちの躍進は目覚ましいものがあります。2025年の紅白歌合戦出場アーティストの中には、ILLIT、HANA、&TEAM、BE:FIRSTなど、いずれもオーディション番組発のグループが名を連ねています。
こうしたグループに共通しているのは、出場者の才能や個性を「褒めて伸ばす」育成哲学です。SKY-HIがプロデュースする番組では、「才能を殺さないために」という理念のもと、頭ごなしのダメ出しやプレッシャーではなく、出場者の良さを認め、足りない部分には丁寧なアドバイスを与えるスタイルが徹底されています。
たとえば、BE:FIRSTはSKY-HI主催の「THE FIRST」から誕生し、デビュー後は高い音楽性とパフォーマンス力で3年連続紅白出場を果たしています。HANAは、ちゃんみなの「No No Girls」からデビューし、自分らしさを武器に唯一無二の存在感を放っています。
また、最新のボーイズグループ「STARGLOW」は、メンバー全員が「個」として強く輝くことを前提に結成されました。プロデューサーのSKY-HIは「本気で夢を追い求めている人間が放つ、光り輝いている存在の美しさ」を大切にし、誰もが夢を見られる社会を目指すメッセージをグループに込めています。
世界を見据える若者たち──オーディションのグローバル化
今や、K-POPをはじめとするグローバル音楽シーンとの連携も当たり前になっています。日本から韓国のオーディション番組に参加する若者は珍しくなくなり、ILLITや&TEAMといったグループには日本人メンバーが所属しています。
才能ある若者たちは、もはや「日本だけ」を見ていません。国や言葉、文化の壁を越えて挑戦する姿が、視聴者に新たな希望と誇りを与えています。グローバル基準での育成やパフォーマンスの高さが求められる一方で、個人の人生やバックグラウンド、多様性も強く尊重されているのが令和オーディションの特徴です。
令和のオーディションが社会に与えた影響──「社会の鏡」としての役割
オーディション番組は、実は社会の縮図とも言えるのではないでしょうか。私たちは日常的に、学校、職場、家庭などさまざまな場面で「審査し、審査される」立場を経験しています。かつては、厳しさや格差が強調されたオーディションが主流でしたが、現代の視聴者は、心のどこかで「もっと優しい世界」を求めていました。
令和のオーディション番組が視聴者に支持される理由のひとつは、「自分自身を重ねられる物語」があることです。出場者の数だけ異なるドラマがあり、勝者だけでなく「敗者」の人生にも共感できる。多様な夢や生き方を肯定し、「たとえ失敗しても人生は続く」と励まされる感覚が、多くの人の心をつかんでいるのです。
これからのオーディション番組とアーティスト像──「夢を見る力」を信じて
令和のオーディション番組は、「夢をつかむための競争」から、「夢を見ることそのものの価値」を伝える場へと進化しました。出場者はもちろん、審査員や視聴者も「一緒に夢を見る仲間」として巻き込むことで、かつてないほどの一体感と熱狂を生み出しています。
実際、「THE LAST PIECE」や「No No Girls」では、過去にデビューを逃した候補者が再び挑戦したり、脱落者にも次のチャンスが用意されたりと、何度でも夢を追い続けられる新しい可能性が広がっています。
そして、そこから誕生したアーティストたちは、音楽性やパフォーマンスだけでなく、「夢を信じる力」「自分らしさ」「他者への思いやり」といった人間的な魅力で、多くの人の心を動かしています。
まとめ:令和のオーディション番組は「誰もが夢を語れる場所」へ
今、オーディション番組は「選ばれしスター」を生み出すだけの舞台ではありません。多様な個性、さまざまな人生、そして再挑戦を受け入れる優しさが共存する、誰もが夢を語れる場所へと変化しています。
これからも、令和のオーディション番組からどんな新しい物語が生まれ、どんなアーティストが羽ばたいていくのか。視聴者一人ひとりが「自分の推し」を見つけ、応援することで、その物語の一部となる時代が続いていくはずです。
もしまだ一度も令和のオーディション番組を観たことがない方がいれば、ぜひ一度、そのドラマと熱気を体験してみてください。「夢を見る力」の素晴らしさを、きっと実感できるはずです。


