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彦根城が2028年の世界遺産登録へ!課題を克服した「大名統治システム」の物証とは
ビジョナリー編集部 2026/09/08
滋賀県彦根市のシンボルであり、国宝にも指定されている「彦根城」が、大きな節目を迎えました。2026年9月3日、文化審議会が2028年の世界文化遺産登録を目指す日本の推薦候補として、彦根城を選定したと発表したのです。1992年に国内の暫定リストに掲載されてから実に34年、悲願の登録に向けて日本政府の代表枠を獲得したことになります。
本記事では、これまで立ちはだかっていた壁や、それを突破した「大名統治システム」の物証、そして2028年の登録に向けたロードマップを分かりやすく解説します。
登録に向けて立ち塞がっていた長年の課題
彦根城が世界遺産を目指すうえで課題として立ちはだかっていたのが、1993年に日本で初めて世界文化遺産に登録された「姫路城」の存在でした。姫路城は木造建築としての美しさや保存状態の良さ、日本の城郭建築の最高峰として世界的な評価をすでに確立していました。
ユネスコの世界遺産審査では、既存の登録物件と似た価値を持つ物件を重複して登録することを避ける傾向があります。そのため、どれほど美しく貴重な国宝天守を保持していても、「建築物としての素晴らしさ」だけをアピールするアプローチでは、「顕著な普遍的価値(OUV)」を証明することが困難でした。
1990年代から始まった世界遺産化の動きの中で、「姫路城とは異なる、彦根城だけの独自価値をいかに言語化し証明するか」という難題に突き当たっていたのです。
突破口となった「大名統治システム」の物証
この停滞を破る決定打となったのが、建築美の評価から「江戸時代の大名統治システムを証明する遺構」への視点の転換でした。
江戸時代の日本は、中央の幕府と全国の藩(大名)が連携し、約250年間にわたり大規模な戦争を起こさず平和と社会的秩序を維持した、世界でも類を見ない社会構造を作り上げました。各地の大名は居城に政治機能を集中させ、城郭の周辺に重臣や家臣の屋敷を集住させ、城下町を形成して効率的な領地統治を行っていたのです。
彦根城の最大の強みは、この大名統治の姿がそのまま現存していることにあります。以下の要素が現在もきわめて良好な状態で一体となって残されています。
- 政治と防衛の要であった「天守」「櫓(やぐら)」
- 藩主が政務や生活を行った「御殿跡」
- 敷地を明確に区切る「堀」や「石垣」
- 政治を支えた家臣たちの「重臣屋敷跡」および城下町の構造
「江戸期の平和と社会秩序を支えた行政制度(大名統治システム)を具体的に証拠づける資産」として価値を再提示したことが、文化審議会から非常に高い評価を受け、今回の国内推薦獲得へと繋がったのです。
2028年夏までの登録スケジュール
国内推薦候補に内定しましたが、世界遺産に登録されるまでには、これから国際的な審査を通過する必要があります。
まずは2026年9月中旬までにユネスコへ推薦書案(暫定版)が提出されます。その後、関係省庁の連絡会議や閣議了解を経て、2027年2月1日までに日本政府からユネスコへ正式な推薦書が提出される予定です。
正式受理を受けた後、2027年の夏から秋にかけて、ユネスコの専門諮問機関であるICOMOS(イコモス)による現地調査が実施されます。現地調査では、文化財自体の保存状態だけでなく、周囲の景観保護や自治体の管理体制、来訪者管理の計画などが厳格にチェックされます。
そしてイコモスからの勧告を経て、2028年夏に開催予定の「第50回世界遺産委員会」にて、登録の可否が正式に審議・決定されます。
実際に現地で体感できる見どころ
彦根城を訪れる際、天守の美しさを眺めるだけでなく、「大名統治システム」の視点を持って巡ることで、その歴史的価値をより深く体感することができます。特に注目したいのが、政治・生活・防衛が巧みに配置された構造です。
- 表門・内堀と石垣:城の入口から中心部へと向かう動線には、厳重な防衛機能と権威を示す重厚な石垣が配置され、藩主の威光と防衛意識の高さを物語っています。
- 表御殿(現・彦根城博物館):藩主が政務を行い、日常生活を送った場所です。政務を行う「表」と生活の場である「奥」、さらに能舞台や庭園などが一体となって再現されており、大名の政治と文化の拠点を実感できます。
- 玄宮園(けんきゅうえん):城郭に隣接する大規模な大名庭園です。藩主が賓客をもてなす場(社交場)として機能しており、政治的・外交的な役割を果たした空間のあり方を示しています。
- 旧池田屋敷長屋門などの武家屋敷群:城の周辺(中堀・外堀沿い)には、藩を支えた重臣たちの屋敷跡や長屋門が残り、城下町の構造がそのまま息づいています。
天守を中心に「政治の場」「生活と社交の場」「家臣たちの居住地」が残る彦根城は、江戸時代の大名社会を体感できる「生きた歴史教科書」と言えます。
世界遺産登録がもたらす期待と今後の課題
登録への道筋が見えたことで、滋賀県や彦根市には経済の活性化をはじめとする大きな波及効果が期待されています。「国宝・彦根城」から「世界遺産・彦根城」へと認知が広がることで、国内外からの観光客増加が見込まれるほか、地域の歴史や文化遺産に対する市民の誇り(シビックプライド)の向上にも繋がると見られています。
一方で、正式登録に向けて解決すべき課題も存在します。例えば、急増が予想される観光客への対応(オーバーツーリズム対策)です。歴史的景観や静寂な城下町の雰囲気を損なわずに旅行者を受け入れるための混雑緩和策や、来訪者の動線整備、周辺のインフラ強化が求められます。
開発と文化財保全のバランスをどう取るかについて、自治体だけでなく地域住民や事業者とも強固な連携を築いていくことが、その後の持続可能な保全に向けた重要な鍵となります。
終わりに
彦根城が歩んできた軌跡は、歴史的社会構造の価値を再発見するプロセスでもありました。
江戸時代の平和な社会体制を現代に伝える「世界の宝」として認められる日に向け、今後の動向に引き続き注目が集まります。


