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    「うるう秒」はなぜ消えるのか?「うるう時間」がもたらす技術と生活の未来

    「うるう秒」はなぜ消えるのか?「うるう時間」がもたらす技術と生活の未来

     時計の針が「59分59秒」の次に「59分60秒」という存在しないはずの時間を刻む——。これまで地球の自転速度に合わせて標準時を調整してきた「うるう秒」が姿を消そうとしています。2035年までに運用が停止され、代わりに「1時間までずれを許容する『うるう時間』」へ移行する方向で世界的な合意が形成されています。

     本記事では、時間がズレる根本的な原因から、過去に起きたトラブル、そして「うるう時間」への移行が私たちの生活やIT社会にどのような影響を与えるのかを詳しく解説します。

    時間の決め方と地球の自転が生む「1秒のズレ」

     私たちが普段使っている時間は、1967年以降、原子の振動をもとに作られる「国際原子時」をベースにしています。この原子時計は数百万年に1秒も狂わない圧倒的な精度を誇ります。

     一方で、「地球の自転」は一定ではありません。潮汐力による海水と海底の摩擦、大気の流れ、さらには地球内部の溶融コアの動きなど、複雑な物理現象の影響を受けて自転速度は常にわずかながら変動しています。

     寸分の狂いもなく進む「原子の時間」と、ゆらぎ続ける「地球の時間」。この二つにはどうしても微小なズレが生じます。このギャップを埋め、太陽の位置と時計の時刻が離れすぎないようにするために1972年に導入されたのが、0.9秒以上の差が生じた際に1秒を足し引きして調整する「うるう秒」という仕組みでした。

    なぜ限界に達したのか?過去のトラブルやリスク

     うるう秒が導入された当時は、主にアナログな時計やテレビ放送などの調整で済んでいました。しかし、世界中のシステムがマイクロ秒(100万分の1秒)単位で同期する現代のデジタル社会において、この「不定期な1秒の挿入」は巨大な脅威へと変貌しました。

     実際、過去に調整が実施された際には、世界中で甚大なシステム障害が発生しています。2012年の実施時には、オーストラリアの航空会社で予約システムがダウンして多数の便が欠航・遅延したほか、SNS大手のRedditやQ&AサイトのStack Overflowをはじめとする主要Webサービスが相次いでダウンしました。また、Linuxのカーネル内部で時間の重複をうまく処理できず、サーバーのCPU使用率が100%に高騰して処理不能に陥るトラブルも起きました。

     さらに近年、科学者を悩ませているのが地球の自転速度が「加速」している現象です。これまでは「1秒を足す(挿入する)」対応のみでしたが、自転が速くなると史上初となる「1秒を引く(削除する)」という「負のうるう秒」を実施しなければならなくなります。

     「59分59秒」を消し去る処理は、世界中のITシステムにとって未体験の領域です。金融取引におけるタイムスタンプの逆転やデータベースの不整合など、未曾有の混乱を招く危険性が指摘されており、GoogleやMetaなどのBig Tech企業もこぞって廃止を訴える事態となりました。

    「うるう時間」へのシフトで何が変わるのか

     こうした危機感を受けて、2022年の国際度量衡総会(CGPM)および2023年の国際電気通信連合(ITU)の会合において、2035年までにUTC(協定世界時)と地球の自転との間の許容誤差を広げ、うるう秒の運用を事実上停止することが決議されました。

     ここで新たに浮上しているのが「うるう時間」の構想です。これは、ズレが1分あるいは1時間程度にまで大きくなった段階で、数十年から数千年に一度だけまとめて調整を行うというアプローチです。

     この移行によって、デジタル社会には大きなメリットがもたらされます。IT業界や金融業界は、数年ごとに訪れる「うるう秒対応」という高リスクな運用保守から解放され、システム障害のリスクを低減できます。

     気になるのが「私たちの日常生活への影響」です。1分や1時間のズレと聞くと大きく感じるかもしれませんが、地球の自転によるズレが「1分」に達するのには百年以上の時間を要します。仮に1時間のズレが生じるとしても数千年の歳月がかかるため、日常生活を送るうえで太陽の動きとの違和感を覚えることはまずありません。精密な天体観測を行う天文学や宇宙航行の分野において補正計算の手法が変わることはありますが、現代の社会インフラを守るための合理的なトレードオフと言えるでしょう。

    人類の時間概念が果たす歴史的転換

     この大きなシフトは、人類が「地球の自転という自然現象」に合わせてきた歴史から、「デジタル社会の安定性」を優先する時代へと舵を切った歴史的な転換点です。

     時間の定義がITインフラという新たな文明の基盤とどのように調和していくのか。2035年に向けて具体化していく国際ルールとガイドラインの策定に、今後も大きな注目が集まっています。

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