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1冊から始める表現革命──「ZINE」が今、静かに流行している理由
ビジョナリー編集部 2026/01/13
スマートフォンで情報を得るのが当たり前となったこの時代、あえて紙の冊子を作り、手渡し、語り合う――そんなムーブメントがじわじわと広がっています。その中心にあるのが「ZINE(ジン)」です。
一体ZINEとは何なのか?なぜ今、多くの人がZINEに惹かれ、書店やイベントが熱気を帯びているのでしょうか。その魅力と広がりの背景を、事例も交えながら深掘りします。
そもそもZINEとは?──“自由”をカタチにする小冊子
ZINEとは、個人や小さなグループが自由な発想で制作する自主出版の冊子や小冊子のことを指します。出版社や編集部の意向に縛られず、「自分が本当に伝えたいこと」を、どんな形式でも形にできる。これがZINEの最大の特徴です。
例えば、イラストや写真を並べるだけのものもあれば、詩やエッセイを書き綴ったもの、さらには旅や日常の記録、趣味やマニアックなテーマを掘り下げたものまで、内容もデザインも多種多様です。決まったフォーマットやジャンルは存在せず、「好きなテーマを好きなだけ」追求できる。それがZINEの世界です。
ZINEの歴史
ZINEのルーツは1930年代のアメリカに遡ります。当時、SFファンたちが情報交換のために作り始めた「ファンジン(fanzine)」が起源です。やがて1970年代にはパンクカルチャーやサブカルの一部として急速に広がり、1990年代の「ライオット・ガール」ムーブメントではフェミニズムや社会的な主張を載せるメディアとしても機能しました。
日本に「ZINE」という言葉や概念が本格的に入ってきたのは1990年代以降です。それ以前からも「ミニコミ」「リトルプレス」「同人誌」など、個人出版による小冊子文化は根強く存在していました。
2000年代以降、デジタルツールやオンデマンド印刷の普及とともにZINEは一気に身近な存在となり、現在では「自分らしい表現をしたい」「誰かと深くつながりたい」という新しい世代のニーズとも合致し、再び脚光を浴びています。
ZINEと“同人誌”はどう違うのか?
ZINEと同人誌――どちらも“自作の本”であり、その境界線は曖昧です。あえて違いを挙げるなら、同人誌はファン活動や特定の趣味ジャンルの集合体としての色が濃いのに対し、ZINEは「テーマも形も完全に自由」「自己表現の場」としての性格が強い点でしょう。
とはいえ、どちらも「好きなことを好きな形で表現する」点では変わりません。実際に、作者自身がどちらを名乗るか、どんな場所で発表するかによっても呼び名は変わり、人によっては両方を横断して活動しています。
なぜ今、ZINEが流行しているのか?
1. アナログだからこその“手触り”と“温度”
デジタル化が進む現代において、ZINEは「手に取る」「ページをめくる」というアナログな体験そのものが新鮮です。紙の質感、インクの色味、手書きの文字……。こうした物理的な“手触り”は、画面越しに情報を受け取るSNSやWebメディアにはない温かみを持っています。
例えば、フィルムカメラの写真をまとめたZINEでは、紙ごとに異なる色味や質感が、1冊ごとに違う表情を見せてくれます。あるアート系ZINEでは、作者が自ら選んだ紙と綴じ方によって、作品全体の世界観が広がる――そんな体験が「デジタル慣れ」した若い世代に強いインパクトを与えているのです。
2. “誰でもすぐに始められる”ハードルの低さ
ZINEは「1冊からでも」作ることができます。パソコンやスマートフォン、無料のデザインソフトを使えば、編集・デザインも手軽。印刷もコンビニや家庭用プリンタ、あるいは小部数から対応してくれる印刷会社の活用で、特別な設備や初期投資は不要です。
最近では、オンラインで注文できる印刷サービスも増え、質の高い冊子作りがより身近になりました。
この「とりあえずやってみる」「まずは自分や友達のために作る」ことができる手軽さも、若い世代を中心にZINEが広がっている大きな理由です。
3. “深い共感”と“小さなコミュニティ”が生まれる
ZINEは大量流通や商業出版とは異なり、届く相手が限られるからこそ、ニッチなテーマや個人的な思いを深く掘り下げることができます。例えば、「高校生活の思い出だけを集めたZINE」「自分の街の路地裏写真集」「マニアックな趣味を語り尽くした1冊」など、一般的な書籍では埋もれがちなテーマでも、ZINEなら堂々と主役になれるのです。
また、ZINEフェスや文学フリマといった即売会、書店のZINEコーナーでは、作者と読者が直接言葉を交わし、感想や新たな発見をシェアする場が生まれています。
「ZINEを通して知り合った人と、次の作品を一緒に作ることになった」
「自分の悩みや関心に共感してくれる読者が現れた」
そんな“小さなつながり”が、ZINEの現場では日常的に生まれているのです。
実際に広がるZINEの世界──イベント・書店・地域に波及
ZINE文化の盛り上がりは、数字でも表れています。
2024年1月に東京で開催された「ZINEフェス 東京」には、過去最高となる500超の出展者が集まり、来場者は2,300人以上。ブースには、9歳の子どもが描いた絵本から、60代夫婦の詩集、大学生がまとめた食べ歩きガイドまで、まさに「多様性のるつぼ」とも呼ぶべきラインナップが並びました。
この動きに呼応するように、大手チェーン書店でもZINEの専用棚が設置されるケースが増加中です。横浜の有隣堂や広島の蔦屋書店では、常時100~200タイトルをラインナップ。観光客が「ZINE目当て」に来店する現象も起きています。
さらに地域レベルでも、ZINEの持つ“人と人をつなげる力”が評価され、自治体主催のイベントや地域活性化プロジェクトに活用されています。千葉県松戸市では、子育て世代向けイベントと連携し、親子で楽しめるZINE作りワークショップが開催されるなど、世代や興味を超えた広がりを見せています。
ZINEづくりはどう始める?──5つのステップであなたも作者に
ZINEづくりは、思い立ったその日から始められます。基本的な流れは次の5ステップです。
- テーマや表現方法を決める
まずは「何について」「どんな形で」作るかを考えます。自分の興味や経験、伝えたい思いをそのまま反映できるのがZINEの良さです。 - 素材を集める
文章、写真、イラスト、コラージュ。スマホやノート、カメラなど、身近なツールを使って素材を用意しましょう。 - レイアウト・デザインする
手書きでもパソコン・スマホでもOK。無料のデザインツールを使っても良いですし、紙に直接コラージュしても面白い作品になります。 - 印刷・製本する
コンビニや家庭用プリンタでの印刷から、オンライン印刷サービスまで、予算やこだわりに合わせて選べます。ホチキス留めや蛇腹折りなど、製本も自由です。 - 配る・販売する・楽しむ
完成したZINEは、自分で楽しむだけでなく、友人に贈ったり、即売会や書店、SNSを通じて販売・展示したりできます。
特に最近は、作者が直接読者と交流できるイベントの人気が高く、作品を通じたリアルなコミュニケーションもZINEの大きな魅力です。
これからのZINE──“本の未来”を変える可能性
ZINEは単なる“趣味の小冊子”にとどまらず、すでに新たな出版文化の担い手として存在感を増しています。
実際に、ZINEから生まれた作品が商業出版化されたり、舞台や映像の原作となったりするケースも出始めています。
また、文学フリマやZINEフェスといったイベントは年々規模を拡大し、若い世代を中心に「本や活字文化の裾野」が新たに広がっています。
書店や印刷会社も、ZINEを「新しい創作や本屋の存在価値」として積極的に取り入れ始めており、「本好きが集まる場所」「新しい才能と出会える場所」としての役割が再評価されています。
まとめ
ZINEは「自分らしい表現」「つながる喜び」「本の未来」を切り拓く新しい文化として、静かに、しかし確実に広がっています。
誰でも今日から始められ、どんなテーマでもOKです。あなたのアイデアや経験、感情が、そのまま“本”という形になり、誰かの心に届く――。
そんな体験を、ぜひ一度味わってみてください。今、あなたの“ひとつだけのZINE”が、誰かの心を動かすかもしれません。


