
今の日本には何が必要なのか――日本再生のビジョン
4/28(月)
2025年
大西 洋 2025/04/26
リーダーシップとは、単に目の前の課題を解決する能力にとどまらない。社長といった企業のトップだけでなく、課長や部長といったあらゆるポジションにおいて、真に求められるのは「ビジョンを持ち、それを共有し、実行に導く力」ではないだろうか。
部下から相談を受け、挙げられた問題を解決するというのは、上司として当然の役割である。本質的に重要なのは、「ビジョン」である。リーダーが明確なビジョンを掲げ、その理念を部下に伝え、共に目指す方向へ導いていくことが大切ではないだろうか。5年、10年先の未来を見据えながら組織を導く姿勢こそが、真のリーダーには求められると考えている。
このことは、私自身がこれまで様々な立場でマネジメントを担ってきた中でも、常に意識してきた点である。
そして、リーダーにとって「コミュニケーション」が極めて重要であることは言うまでもない。
私が初めて一定数の部下を持ったのは、36歳でマレーシアに赴任した時のことであった。現地には約600名のスタッフが在籍しており、言語や文化の違いからくる難しさを強く実感した。
海外においては、日本で当然とされていることが必ずしも常識とは限らない。そうした前提の違いを理解してもらうためにも、こちらから丁寧に発信し、相手の立場に立って対話を重ねることが重要だと痛感した。
当時のマレーシアの職場環境では、スタッフの報酬水準や文化的背景の違いに配慮しながら、チーム全体の信頼関係を築く必要があった。さまざまな国籍や文化的背景を持つメンバーが共に働く環境の中で、相互理解と円滑なコミュニケーションを重ねることが、マネジメントにおける重要な要素であった。
今もなお、強く記憶に残っているのが、現地で起きたストライキである。文化の違いによるすれ違いが、チーム全体に影響を及ぼす事態に発展したのだ。原因は、現地の人事部長が、現地社員に対してやや厳しく接したことにあった。非常に優秀で責任感の強い人物ではあったが、その言動が現地の文化や価値観と合わず、反発を招いてしまった。結果として、店舗は3日間営業停止となり、社員たちは1階ロビーに座り込んで業務に応じなかった。
4日目、私は社員一人ひとりと対話を重ね、事情を丁寧に説明した上で、当該の人事部長からも謝意を伝えてもらい、ようやく事態を収束させることができた。最終的には、「お客さまのために」という共通の想いを伝えることで、軌を一つにし、再び動き出すことができたのである。
また、私がマネジメントにおいて最も苦労したと感じているのは、紳士統括としてメンズ館のリモデルを手がけたときであった。関係者を含めると、総勢約2000名にのぼる人員体制を敷いていた。その中でできる限り多くのメンバーと直接会話をし、現場の声に耳を傾けるよう努めた。
個々の社員がどのような思いを持ち、どこに課題を感じているかを把握するのは当然のこととして、百貨店においては「お客様の声」こそが、最も重要である。その認識を組織全体に浸透させることに注力した。
この考えは、社長に就任した後も変わることはなかった。組織が大きくなるほど部下の数も増えるが、リーダーとしての原点は、お客様に最も近い店頭の社員たちと、いかに向き合い、意思疎通を図るかという点にある。
加えて、社長という立場では、次代を担うリーダー、次代の役員をどのように育成していくかという責任も新たに加わってくる。それもまた、極めて重要なマネジメントの役割であると考えている。