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2025

    伊勢丹の社長として最初の改革―― 百貨店の生き残りを賭けた闘い

    #17伊勢丹の社長として最初の改革―― 百貨店の生き残りを賭けた闘い

    原石からダイヤへ

     伊勢丹の社長に就任して、まず実感したのは、武藤会長が三越との提携を決断した背景にあった危機意識こそが、これからの百貨店業界に不可欠なものであったということだ。

     かつて7~8兆円あった百貨店業界の市場規模は、当時4兆円台まで縮小していた。業界全体が明らかに曲がり角に立たされているにもかかわらず、「なぜこの業界は、こんなにも危機感がないのだろう。もっと広い視野を持つべきだ」という焦燥に駆られた。

     伊勢丹も三越もその他の百貨店も、社を超えて一丸となり業界を変革していかないと、百貨店そのものがなくなってしまうという危機感が、私に芽生えていた。

     当時、百貨店の営業利益率は、わずか3~4%であった。本来はもっと高められる余地があった。

     利益が低い背景には、業務の多くを外部に委託し、自ら手を動かさずにリスクを回避してきた構造的な課題があった。

     私は、このままではいけないと感じた。百貨店が生き残るには、仕入れから販売まで、自社で管理し、利益率を上げていく必要がある。

     そして、社長としてまず初めに着手したのが「仕入構造改革」だ。

     これは従来、取引先に委ねていた仕入れや販売の領域を、自社主導の体制へと改める取り組みである。

     なんとしても現状を変えたかったのである。新宿伊勢丹が新しいことをやれば、他の百貨店も変わっていけるという確信があった。

     立川店の店長時代、こんなことがあった。当時業界全体の売上は低迷していたので、他の百貨店ではセールで旗を立て、『赤い旗なら10%オフ、青い旗なら20%オフ』などということを平気でやっていた。ひどい時には、ある百貨店が10%オフにすると、隣の百貨店は15%オフにするなど、価格競争が連鎖的に起こり、値引きに頼る販売戦略が横行し、ブランド価値を損なうリスクが高まっていた。

     私は、立川店ではこれに迎合せず、あえて値下げを行わないという判断を下した。短期的には売上に影響が出たものの、ブランドの信頼と価値を守るという視点からは、必要な決断だったと信じている。

     年末の納会で、武藤社長(当時)から次のように指摘された。

     「これだけ他の支店は売上を上げているのに、1店舗だけ売上を落とした店がある」

     ただ、そのときの社長の表情は笑っていたのだ。きっと武藤社長も私と同じ立場であれば、同様にしたのかもしれない。少なくとも、私のやろうとしている意図は理解してくれているのではないかと感じていた。

     そして社長就任後には、この信念を広めるべく、構造改革の一環として、セール開始時期の見直しにも取り組んだ。本来百貨店のセールは2月からが慣習であったが、他店よりも早く…と競ううちにどんどん前倒しとなっていき、各百貨店が1月上旬からセールをやっているという有様だった。これでは、収益構造を圧迫するだけでなく、働く現場への負荷も大きくなる。

     ルミネで社長や会長を務められた花崎淑夫氏は、この改革に賛同してくださり、「自分たちは大西さんに合わせてセール日を調整する」と言ってくれた。

     一方で、業界全体としては足並みがそろわず、改革の難しさも実感することとなった。昔はこのように声を上げること自体、はばかられたのである。

     また同様に、年末年始の営業についても見直しを提案した。地方出身の社員が多く働く中で、帰省の機会を確保するためにも、正月三が日は休業とすべきだと考えた。

     しかしこれも、「年末年始こそ売り時であり、そのようなことは不可能だ」と反対を受け、百貨店同士が競うように年末年始も営業を続けていた。  

     近年になってようやく、元日や2日を休業するという動きが拡がりはじめた。これは社会全体の「働き方改革」の機運が、ようやく追い風となってきたと感じている。

     私は今、若い人たちにこう伝えている。

     「時代や環境が変わってきたから便乗して変化を呼びかけるのでは遅い。また、自分の属する部署や会社の中で一番になりたいとか、あそこには負けたくないといった、小さな世界観でアクションを起こしても、決して長くは続かない。自身がリーダーとなり、高い志をもって時代を先読みし行動を起こしていかねば、日本の明るい未来は開けない。」

     昨今の百貨店業界を俯瞰し、私自身がこの気概でやっていかねばならないと心がけている。

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