
今の日本には何が必要なのか――日本再生のビジョン
4/28(月)
2025年
大西 洋 2025/04/28
国力向上や地方創生を語るうえで、最も重要なのは「人材」の育成であると前回記した。どれほど優れた資源や文化があっても、それを次代へつなぐ人がいなければ持続的な成長は望めない。
それゆえ、私は社長として、人材を育成することに力を注いできた。
伊勢丹の社長在任中、私が強く意識していたのは、店頭でお客さま一人ひとりに丁寧に向き合い、日々の業務を誠実に積み重ねる販売員の姿だった。彼らの働きぶりこそが、百貨店の信頼やブランド価値を支えている――そのような考えから、販売員を正当に評価する制度を構築した。
そこで2011年から導入したのが、「エバーグリーン」制度である。(2011年から㈱三越伊勢丹、2012年からグループ全社に拡大)
全国の各店舗から推薦された販売員(社員やパートナースタッフ)の中から、特に顕著な活躍をした販売員を年に一度選出し、平等に表彰する制度だ。当時約6万5千人いた販売員の中から、売上や上長の推薦等を考慮して、エバーグリーンに認定され、彼らにはその証しとして、バッジが授与される。
これは、努力が認められた人を称えたいと考え、素晴らしい販売員のためにはじめた制度であるが、バッジによりお客さまにもその存在を認知いただけるというメリットがあった。
表彰にあたっての褒賞も惜しまなかった。私が社長を務めていた当時は、当時三越が展開していたフロリダ店舗へご招待し、現地での視察やマンダリンホテルでの食事会を通じて交流を深める機会を設けた。
表彰後もSNSなどでつながり、互いの近況を伝え合う関係が続いていたのも、今となっては良い思い出である。
ともあれ、このような制度を実施できたことは、私にとって一つの誇りである。
制度導入の背景には、店頭に立つ販売員の努力が適切に報われるべきだという思いがあった。加えて、エバーグリーン制度とは別に、特に高い実績を上げた販売員には、一定期間において執行役員と同水準の報酬を支給する制度も設けた。
公平性には細心の注意を払ったが、現場の最前線で奮闘する人こそが、百貨店の本質を体現する存在であり、その貢献に見合った評価が不可欠だと考えていたからである。
この取り組みは、2012年4月、イセタン羽田ストアのオープンに合わせて、ある全国紙の一面でもご紹介いただいた。
制度は時代とともに姿を変えるものであるが、エバーグリーン制度が形を変えて再び運用されていると聞き、当時の想いが少しでも受け継がれていることに、静かな喜びを感じている。
私がこうした制度づくりに注力していたのは、百貨店という事業の原点にある“人を想う力”を、しっかりと未来へつなげていきたいという想いからである。
社長在任中、私が常に意識していたのは、その人の5年後、10年後をどう見据え、どのようなキャリアを歩んでもらうのが最良かを考えながら接することであった。
もちろん、計画通りに進まないことも多く、若い人の人生には予期せぬ出来事が起こることもある。それでも、時間をかけて対話をし、若い世代が本来の力を発揮できるよう、環境づくりに尽力し続けていきたいと考えている。