「ラジオのデジタル放送化は国策の一つです!」
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#15ラジオのデジタル放送化への挑戦
三木 明博 2025/10/15
文化放送の社長に就任して、私が最初に着手した大きな仕事が、ラジオのデジタル化でした。テレビのアナログ放送が終了し、デジタル化が完了した当時、次はいよいよラジオだ、という機運が高まっていました。これは、先代の社長の時代から続く、業界全体の懸案事項でもありました。
当初は、FM・AMの放送局から、車載メーカー、音響メーカーまでが一堂に会する大きな協議会が立ち上げられ、議論が始まりました。しかし、各社の思惑が絡み合い、話は一向に進みませんでした。
その後、一般社団法人デジタルラジオ推進協会という組織が作られ、私も途中からその議論に参加することになりました。しかし、いざ話し合いが始まると、FM局とAM局の意見は真っ向から対立しました。FM局は「早くデジタル化を実現し、有料化して聴取料を徴収しなければ立ちゆかない」と主張するのに対し、私たちAM局は「いや、まずは放送という公共サービスが第一だ」と反論します。議論は全く噛み合わず、「これは無理かもしれない」と、早々に感じたのを覚えています。
議論が難航する中、私はラジオ委員長として、総務省に乗り込みました。そこで担当者から投げかけられたのは、核心を突く質問でした。
「三木さん、皆さんは本気でラジオのデジタル化をやりたいのですか?」
当然私は「やりたいです」と即答しました。「しかし、お金がかかりますよ」「それは承知しています」。そんなやり取りの後、「まずは、どれくらいの費用がかかるか試算してみてはどうですか」と提案され、一度持ち帰ることになりました。
協会に戻り、早速試算を始めました。NHKにも相談したところ、「すべてのラジオ局がやるなら我々も参加します。応分の負担はしますけど、費用をすべて持つことはない」というスタンスでした。当然のことです。私たち民放は、普及率96%を目標として試算したところ、必要な費用は約800億円。一方、離島まで含め全国津々浦々に放送を届ける使命を持つNHKの場合は、約1,100億円という莫大な金額になりました。
この埋めがたい金額の差を抱え、私たちは再び総務省を訪れました。私は思い切って、「テレビのデジタル化のように、国からも支援をいただけないでしょうか」と提言しました。しかし、返ってきた答えは「それはできません」という、にべもないものでした。「なぜですか」と食い下がると、担当者はこう説明したのです。「テレビのデジタル化は、電波の有効利用という目的があった『国策』でした。国がやると決めたからこそ、補助金が出たのです。しかし、ラジオのデジタル化は皆さんがやりたいからやるもの。国策ではありません。周波数は付与しますが、費用はご自身でご用意ください」と。
これには、私もすっかり参ってしまいました。そんなある日、一人の人物が現れます。総務省の情報流通行政局長を務めるYさんという方でした。彼は「私はラジオが好きで、このデジタル化をやり遂げるという使命感を持ってここに来ました」と、力強くおっしゃったのです。
そして、私はYさんにこう尋ねました。「一つだけ確認させてください。Yさんは、ラジオというメディアが、将来にわたって国に必要なメディアだとお考えですか?『いや、そうじゃない。なくなってもいいんだ』と言うのでしたら、話は違ってきます」。Yさんは迷わず「必要だと思います」と答えてくれました。私は「それでしたら、一緒にやります。ラジオを残すためにどうすればいいか、共に考えましょう」と答えました。
しかし、依然として最大の壁は費用でした。各社とも「やりたい」とは言うものの、本音は「お金は出せない」。特に、全国に100以上ある放送局の中には、売上が数億円規模の地方FM局も少なくありません。均等配分すれば数億円の負担となり、到底支払える額ではないのです。
私が「何らかの支援策を考えていただけないか」と打診すると、Yさんはこう答えてくれました。「分かりました。これは、政治を動かさなければ無理です」と。そして、続けてこう言いました。「今、『国土強靭化計画』が大きなテーマになっています。災害時に強いラジオの役割を、この計画に結びつけてデジタル化を進めるのが、チャンスだと思います」と。
当時、その国土強靭化計画を推進する自民党の本部長が、二階俊博先生でした。
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