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#09鮮度と瞬発力がものを言った『梶原しげるの本気でDONDON』
三木 明博 2025/10/09
『とことん気になる11時』が軌道に乗り、しばらく経った頃、当時の編成局長が私に声をかけてきました。
「三木くん、小倉智昭ってすごいね。ちょっと彼、別の番組に行かせない?」。
理由を訊くと、「朝の番組が苦戦しているから、盛り返したいんだ」と言うのです。
私は「お言葉を返すようですが、この番組はうまくいっています。朝の番組は別の人間を探せばいいじゃないですか」と抗弁しました。内心、成功しているものを安易に動かすのは得策ではないと感じていましたが、サラリーマンである以上、最終的には上司の指示に従うしかありません。「分かりました」と承諾し、私は次の昼の2時間ワイド番組を企画することとなりました。
こうして始まったのが、『梶原しげるの本気でDONDON』という番組です。企画の肝は、「前日にネタを用意しない2時間の生放送」でした。当時のラジオ番組の多くは、前日にネタを用意して、当日朝にそれを放送する形でした。しかし、ニュースの鮮度が命であるラジオで、それでは情報が古いのです。
そこで私は、その日の朝に発生した出来事や、新聞の一面、テレビのニュースなど、「今、起きていること」を本気で取り上げる番組にしようと考えました。当然、スタッフからは「そんなのできるわけがない」と猛反対されました。私は彼らにこう説明しました。
「朝7時くらいに集まってみんなでやればいい。本番まで4時間ある。その間に起こったことを取材対象としてやろうじゃないか。君たちができないと言うのは、きれいな『起承転結のある番組』を作ろうとするからだ。しかし、起承転結は最初から仕込むもので、生放送では毎回うまくいくわけがない。それよりも、次に何が起きるか分からないというハラハラ感こそが面白いんだよ」と。
「次に誰に聞くんだろうか、電話に出なかったらどうしよう、というスタッフの焦りこそが、リスナーにとっての面白さになる」と説得しました。さらに、「放送スタジオのドアは常に開けておくんだ。外からの情報があったら、誰でもいいから『こんなニュースが来ました』と言って飛び込んでこい」というルールも作りました。
当時、ラジオの中継レポートは、アナウンサーか報道記者しか担当してはいけないという、暗黙のルールがありました。私はこれを打ち破りたかったのです。「いいんだ。技術の人間が喋ってもいいし、構成作家が喋ってもいい、ドライバーが喋ったっていい。とにかく、取材対象物に一番近い人間が、目の前で起きたことをそのまま喋ればいいんだ。彼らだって、調べて喋っているんじゃない。だから、今起きた目の前のことを喋ればいいんだ」と指示しました。
これは報道部からは相当な非難を浴びましたが、報道部出身の私としては、「鮮度と瞬発力がすべてだ」という確信がありました。
いざ番組を始めると、タレントやMCたちは、前日にかっちりと準備していないスタイルに戸惑い、非常に硬くなっていました。そこで、当時テレビでも活躍していたアナウンサーの梶原しげるさんに、声をかけました。
「このまま芸能界の仕事ばかりでは、あなたのキャリアは広がらない。ここでキャラクターを変え、瞬発力が求められる新しいことに挑戦すれば、君にとってすごい経験になる。瞬発力がある番組だから。喋り手としての人生が広がるからやってみなよ」と、熱心に説得しました。梶原さんは、「三木さんが言うならやります」と引き受けてくれました。
しかしこの番組は、私が管理職になったため、部下のプロデューサーに担当を任せることになりました。実際に担当を任せることになった人たちは随分苦労したことと思い、今も感謝しています。
私は常々、人が嫌がる、あるいはやろうとしないところにこそ、新しい価値が生まれると思っています。
経営者や上に立つ人間には、得てして「何でも知っていなければいけない」という強迫観念があるものです。しかし、森羅万象すべてを知っている人間など、ほとんどいません。
以前、知り合いに松下電器(現:パナソニック)の子会社で電気販売店から身を起こし、のちに長崎屋というスーパーのオーナーになった方がいました。彼に「スーパーは鮮魚や野菜、肉など、専門知識が必要な分野ばかりだが、どうされているんですか」と尋ねたことがあります。すると彼は、「三木さん、そんなの全部私がわかる必要はない。肉、野菜、鮮魚それぞれの専門家を連れてくればいいだけです。僕はそれを監督していればいいんですよ」と言うのです。その瞬間、「ああ、私と同じことを言う人がいる」と共感しました。
何もかも自分で知って納得しなければ気が済まなかった昔の経営者像とは異なり、これからの時代は、専門家を招き入れ、その力を最大限に活かすという感覚が、何か新しいものを生み出すためには不可欠なのです。大きな組織にはまだ古い体質が残っていますが、私は常に、この考え方を大切にしてきました。


