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2025

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    前代未聞の生放送への挑戦

    #08前代未聞の生放送への挑戦

    原石からダイヤへ

    今回は、後に国民的な司会者となる小倉智昭さんを、私が初めて番組パーソナリティーに起用した時の話をしたいと思います。

    ある時、『とことん気になる11時』という番組を企画してプロデュースをすることになりました。平日の11時から13時までの2時間ワイド番組で、「君の好きにやっていい」と言われたのです。そこで私はすぐに、「誰もやっていないことをやろう」と決意しました。

    企画書を提出すると、案の定、上司からは「こんなもの、売れるわけがないだろう」「スポンサーがつくはずがない」と猛反対。しかし、私は一歩も引きませんでした。

    「大丈夫です。私が任された以上、全責任は私が取ります。もちろん失敗するリスクはありますが、もし当たれば大きな成功になります」。

    説得をし続けた結果、最終的には部長が「まあ、仕方ないな」と折れてくれ、企画が成立したのです。

    前代未聞の企画をやる以上、パーソナリティーも誰も知らない無名の人材を起用しよう、と考えました。そんな時、テレビで「ハウマッチ!」と独特の声で叫んでいる人物が目に留まりました。「面白いキャラクターだな」と興味を持ち、すぐに所属事務所に連絡して会うことに。それが、小倉智昭さんとの出会いでした。

    後日、小倉さんに番組の趣旨を説明すると、「ぜひやらせてください」と快諾してくれました。早速デモテープを制作し、アナウンス部長や編成局の幹部を集めて試聴会を開くと、出来栄えは好評でした。しかし、ある部長からこう言われたのです。「この小倉智昭とは何者だ? うちの実力あるアナウンサーを使えばいいだろう。なぜ、こんな素人を起用する必要があるんだ」と。それに対して私は反論します。

    「お言葉ですが、誰も知らない、という点こそがこの企画の“ミソ”なのです。アナウンサーでは、どうしても予定調和になってしまう。小倉さんという未知数のキャラクターだからこそ、面白いのです。この番組は私が責任を持ってやります。もし失敗したら、左遷でもクビでも甘んじて受け入れます」。

    文字通り、自身の進退を賭けての説得です。一方で、小倉さんには正直にこう伝えました。

    「テレビやラジオの司会者は、何でも知っているふりをしている。でも、森羅万象すべてを知っている人間なんていやしない。 だから、あなたは正直でいてください。知らないことは『知らない』と言う。それは決して恥ずかしいことではありません」。

    そして、「もし知らない話が出てきたら、『これは僕も初めて聞きました。でも面白いですね! リスナーの皆さんと一緒に、今日この謎を解き明かしたいです!』と言えばいい。知らないことを正直に認める。それがリスナーの共感を生むのです」と続けました。

    ただし、このようにも付け加えました。「いつまでも知らないままではただの勉強不足です」。そして私は、彼に二つの宿題を出しました。一つは、毎日、新聞を複数紙(できれば論調の違うものを)読むこと。もう一つは、NHKと民放のニュース番組を必ずチェックすることです。

    すると、彼は私の想像をはるかに超える努力を見せてくれました。凝り性の彼は、全局のニュースを視聴し、全ての新聞に目を通してくるようになったのです。「もうそこまでしなくてもいいよ」と、私の方が音を上げるほどでした。

    加えて、番組が単なる情報バラエティで終わらないよう、月に一度は臓器移植といった重めの、社会的なテーマを扱うことにもしました。おちゃらけだけではない、という姿勢を明確に打ち出したかったのです。

    そして私たちの狙いは、見事に当たりました。番組は急速に聴取率を伸ばし、数々の賞を受賞。そして、小倉智昭というパーソナリティーは、あっという間にお茶の間の人気者になっていったのです。

    誰もやらないこと、常識を疑うこと。そうやって新しい価値を生み出していく。それが私の仕事の流儀でした。

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