ライバル会社の人材を登用した理由
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#19時代の変化とともに経営者も変わらねばならない
三木 明博 2025/10/19
社会環境がものすごい勢いで変化する現代において、もはや「先輩がやってきたことを、そのまま受け継いで守る」というやり方は通用しなくなりました。正直、それではもうやっていけません。これはメディア業界に限らず、あらゆる産業に言えることだと思います。
しかし、多くの企業は思い切った変革に踏み出せずにいます。変えなければいけない、と経営者たちも頭では分かっているのです。では、なぜ変えられないのか。それは、今の経営者たちが、その会社の企業風土の中で何十年もかけてキャリアを築いてきたからです。旧来のやり方が体に染み付いているため、全く新しいことをやろうとしても、頭では理解できても行動に移すことができないのです。
だから、本当に変革を起こすのであれば、全く違う世界で成功したような人材がメディアを率いるといったことが必要になってくるのではないでしょうか。これは、企業の経営者が無能だということではありません。構造的に仕方のないことなのです。
私自身ももう78歳になり、同世代はほとんど引退していますが、私たちの世代が社会に出た頃には、インターネットなど影も形もありませんでした。通信手段は固定電話が当たり前で、初めてポケベルが登場した時は「すごいな」と感動したものです。それがいつの間にか携帯電話になり、スマートフォンになり、昔は公衆電話に並んでテレホンカードを使っていたのが嘘のようです。今や、かつてパソコンでやっていたことのすべてがこの一台でできてしまいます。
こうした変化は、本当にあっという間に起こります。私たちは、知識として「これは大きな変化に繋がる」と理解していても、それがどれほどのスピードで社会を変えるかまでは、感覚として体に染み付いてはいないのです。例えるなら、私たちの世代が高い山に登るには酸素ボンベが必要ですが、今の若い世代は、生まれた時から高地にいるようなもので、ボンベなしで軽々と登っていく。それくらい根本的な違いがあるのです。
社員採用一つとっても、私たちの時代とは全く違います。当時は指定校制度やコネが当たり前の閉鎖的な社会でした。しかし、最近メタバース関連の企業を訪ねると、オフィスにはほとんど社員がおらず、「みんなリモートで、引きこもりですよ」と言うのです。「その世界で突出した能力があれば、むしろ引きこもりの方が能力が高いことも多い」と聞き、衝撃を受けました。
コロナ禍で在宅勤務が広がった時も、正直「大丈夫なのか」と思いました。しかし今や、私の息子も週に2、3日しか出社しません。時にはゴルフ場でパソコンを開いて仕事をしていると聞き、「そんなことで仕事になるのか」と思ってしまいますが、彼らの世代にとってはそれが普通なのです。そのような価値観を持つ人々がメディアをどう捉えているのか。もはや私たちの世代が頭で考えても、到底追いつかない時代が来ています。
それは誰が悪いわけでもなく、技術の進化とはそういうものなのでしょう。こうした時代に、経営者はこれまでと同じやり方ではいけないはずです。
例えば、企業の最大の固定費である人件費。今も昔ながらの正社員採用を続けていますが、一度採用すれば定年まで面倒を見なければならないこの制度は、本当に今の時代に合っているのでしょうか。
私はかつて、こんな提案をしたことがあります。「10年契約のような有期雇用制を導入してはどうだろうか」と。「10年後、会社と本人が合意すれば契約を更新する。退職金はその分、毎年の給料に上乗せして支払う。そんな働き方があってもいいのではないか」と。
すると、返ってきたのは「そんなことをしたら、新しい人が来なくなります」「年功序列のピラミッドが崩れてしまいます」という反対意見でした。私は「これからはピラミッドなどなくてもいいのではないか。むしろ、その方が魅力的に感じる人もいるはずだ」と反論しました。例えばアナウンサーは、多くの人が時間が経てば新しい世代に取って代わられます。正社員として雇用し続けることは、会社にとっても、そしてキャリアが固定されてしまう本人にとっても、果たして幸せなことなのでしょうか。
だからその代わりに、「10年間だけあなたを雇います。他の仕事やアルバイトをしても構いません。この仕事さえきちんとやってくれれば、他の時間は自由に使っていい」というような、多様な働き方を考えてはどうか、と提言したのです。
また、総務のようなバックオフィス業務の外部委託も提案しました。これも「企業の秘密が漏洩する」と、ものすごい反対にあいました。私は「漏れて困るような企業秘密が、果たしてうちにあるのか? 決算の数字は公表しているし、それ以外に何を秘密にする必要があるんだ」と言い返したものです。
もし私がオーナー社長であれば、もっと大胆な改革もできたかもしれません。しかし、残念ながら私は雇われ社長。組織の壁を痛感した出来事でもあります。


