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2025

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    大スターへお願いしたたった一つのこと

    #12大スターへお願いしたたった一つのこと

    原石からダイヤへ

    私たちは、人が相手の商売です。だからこそ、人を大切にしなければならないと、常に考えてきました。

    番組を当てる一番簡単な方法は、他局のヒット番組を真似することです。出演者と時間を変えれば、ある程度の成功は見込めます。しかし、それでは永遠に二番手、三番手でしかありません。そうしている限り、オリジナルの番組は、絶対に作れないのです。

    もう一つの方法は、当たるかどうかわからなくても、とにかくやってみることです。昔の先輩はよく「千三つ(せんみつ)だ」と言いました。1,000本番組を作って、当たるのは3本だけ、という意味です。さすがにそこまで低くはないにせよ、成功率はせいぜい数パーセント。野球選手は3割打てば一流と言われますが、私たちの世界はもっと厳しいのです。

    しかし、どうせほとんどが失敗に終わるのなら、自分のやりたいことをやって勝負すべきです。フリーランスと違い、会社員は身分が保証されています。結果が出なくてもクビになるわけではない。だからこそ、失敗を恐れず、思い切って挑戦してみればいいのです。

    ただ、今の時代、この方程式が当てはまるかどうか(!) それだけ厳しい時代になっていると思います。

    番組制作において、私が許せないのは「何もしない」ことです。私や前任者から番組を引き継いで1年経っても、何も変わっていない。そういう時は、「君らしさをどこかに出せないのか」と問いただします。それは何も、大きな変化である必要はありません。テーマ音楽を変える、トークから番組を始めてみる、最初のトークを長くしてみる。それだけの小さな変化でも、出演者は「おや、今日はいつもと違うな」と良い緊張感が生まれます。いつもの繰り返しからは、新しいものは生まれません。

    出演者にあえてプレッシャー、つまり適度な負荷をかけることが必要なのです。「明日が試験だ」と言われれば誰でも勉強するように、適度な負荷は人を真剣にさせ、成長を促します。これを作り手として意識することが、非常に大切なのです。

    そしてもう一つ大事なのは、相手がどれだけ格上の大物であっても、「この番組の責任者は私です。ですから、こうしてください」とはっきりと伝えることです。私の経験上、本当に長く第一線で活躍されている方は、驚くほど素直に人の意見に耳を傾けます。逆に、自分が一番だと思い込み、誰の言うことも聞かなくなった人は、必ず人気が落ちていきます。

    その哲学を実践した忘れられない出来事が、俳優の高島忠夫さんとのお仕事でした。

    当時、高島さんにお願いしたことは、たった一つです。「ラジオはリスナーとの距離が近いメディアです。ですから、送り手である高島さんにも、聴く側の感性に近づいてほしい。週に一度、それが無理なら月に一度でいいので、電車に乗っていただけませんか」と。

    大スターだった高島さんは、「電車? 乗ったことがないよ」と驚かれました。「なぜそんなことを?」と聞かれたので、私はこう説明しました。「電車に乗ると、乗客の服装で季節を感じたり、中吊り広告で世の中の動きが見えたり、車窓の景色から街の変化に気づいたり…。様々なものが見えてくるはずです」と。

    当時私はまだ30歳そこそこの若造で、高島さんは二回りも年上でした。それでも、「どうしてもやってほしいのです」と食い下がりました。しかし、高島さんは「あなたの言うことは分かるが、それだけはできない。私はそういう生活をしたことがないんだ」とおっしゃいました。

    そこで私は、こうお願いしました。「では、今でなくても結構です。いつか乗ってみようと思われた時でいいので、ぜひ乗ってみてください。そしてその時は、ただ乗るのではなく、周りの人の顔や服装、車窓の景色をじっくりと見てほしい。そうすれば、高島さんの話す言葉が、きっと今とは違ってくるはずですから」と。

    結局、高島さんが電車に乗ってくださったかどうかは、分かりません。しかし、周りからは「よくあんな大物にそんなことを言えるな」と驚かれました。キャリアは相手が圧倒的に上でも、私はこの番組を、そして結果的に高島さんご自身をより良くしたいという一心でした。その思いがあるから、言うべきことは言えるのです。それで高島さんが「それは嫌だから辞める」と言うなら、その時またどうするか考えるつもりでした。

    そして、そうしたスタッフの熱意に耳を傾けてくれる人こそが、長く愛され続けるのだと思います。逆に、何を言っても「若造が誰に口を利いているんだ」という態度の人は、人気があるうちはよくても、落ち始めたら早いものです。

    「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉があります。これは、高い地位や名声を得た人ほど、常に謙虚であるべきだという意味です。それは、政治家でも経済人でも、そして私たちがお付き合いするタレントの方々でも同じだと思います。彼らは優れた才能を持っていますが、人間として上下があるわけではありません。だからこそ、自分とは違う世界の人のことを知ることも、すごく大事です。私がお伝えしたかったのは、それをしてほしいということだったのです。

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