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2025

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    堪えに堪え成し遂げたラジオのデジタル化

    #17堪えに堪え成し遂げたラジオのデジタル化

    原石からダイヤへ

    補助金の目処が立ち、後日、二階先生の事務所へお礼に伺うと、先生はなぜかご立腹でした。「どうかなさいましたか」とお尋ねすると、「お前さ、マスコミは失礼だな」とおっしゃるのです。「一体、何にそれほどお怒りなのですか」と聞くと、「『国土強靭化』というのは、俺が言い出したんだ。それを、いかにも役人が立案したとか、マスコミが言い出したみたいに…。俺のアイデアを勝手に取りやがって」と、まさに怒り心頭といったご様子でした。

    しかし、「国土強靭化」という枠組みは実に便利で、道路整備から通信網の整備まで、あらゆるものを含めることができます。そこにラジオのデジタル化も組み込める、と最初に気づき、「もう、そこしかない」「『国土強靭化』という名目でやるしかない」と言ってくださった総務省のY局長には、今も感謝しかありません。

    補助金が出ることが決まると、態度を決めかねていた放送局も「補助が出るならやってもいい」という態度に変わりました。しかし、補助金は全額ではありません。そこで私はラジオ委員長として、資金力のある東京や大阪の大規模局はさておき、経営規模の小さな地方局へ手厚く配分する、いわゆる傾斜配分を行うことにしました。文化放送なども3分の1程度の補助でしたが、そのおかげで事業を進めました。中には、補助金だけで実施できた地方局もたくさんありました。

    そんな中、総務省からは「民放連としてラジオデジタル化を推進するという統一見解を早く出してほしい。そうしないと予算が確保できない」と、矢の催促です。しかし、民放連のラジオ委員会はAM局とFM局が半数ずつで構成されており、そこで大きな壁にぶつかりました。

    あるFM局の方が、猛然と反対の声を上げたのです。その時はすごい剣幕でした。

    「この案は、AM局を救うためだけのものじゃないか。AMとFM、双方を考えるのが委員長の役割だろう。得するのはAMだけで、FMにとっては、何の意味もないんじゃないか!」と、彼は激しくまくしたてます。

    私は、こう返しました。「お言葉を返すようで申し訳ないが、私はAMだけが得をするとか、FMが損をするとか、そんな小さな話をしているのではありません。ラジオというメディア全体を、いかにして国民のために、未来に残していくべきかを議論しているのです。AMがFM化することで、難聴地域が解消され、地下でも電波が届きやすくなる。これは国民の負託を受けてのインフラ整備の話です。AMが得だとかFMが損だとか、そういう話ではないのです」。

    そして、議論が2時間を超えたところで、私はこう宣言しました。「これ以上議論しても結論は出ません。申し訳ありませんが、これは議長権限で、この件に関しては私と民放連会長にご一任いただくということで、議論を打ち切ります」。

    利害が絡むと国会の議論と同じで、10年経っても結論は出ません。「私は自分の利害で言っているんじゃないんだ」とその一点を貫き、最終的に話を収めたのです。

    委員会が終わると、私のことをよく知る方がやってきて、「三木さん、よく我慢したね。あんた、短気なのに、こんな理不尽なこと言われて」と笑うので、「いや、俺は我慢するときはするんだよ。しない時はしないけどね」と笑いながら答えました。

    こうして総務省に答申を出し、FMの周波数帯を割り当てていただくことができました。とにかく周波数帯を確保することが最優先でした。

    この一連の出来事を通じて、私の役割は、一企業である文化放送のことだけを考えるのではなく、ラジオ業界全体の未来を考えることなのだと改めて痛感しました。もちろん文化放送はお世話になった組織ですが、それ以前に、ラジオというメディアそのものが消えてなくなるかもしれない、という強い危機感があったのです。

    私は、「権力は腐敗する」と信じている人間です。長く同じ地位にいると、周りには良いことしか言わない取り巻きばかりが集まってくる。そうすると、だんだん自分自身が見えなくなってしまうのです。だから私は、あえて自分に反対する人間や、外部から来た人間を積極的に登用してきました。

    これは番組の企画会議でも同じです。全員が「素晴らしいですね!」と賛成するような企画は、角が取れて丸くなってしまいます。そこからは決して新しいものは生まれません。だから、私はそのような企画はやりません。逆に、みんなから猛反対されると、私は俄然、燃えてくるのです。

    #三木明博#文化放送#radiko#ラジコ#ワイドFM
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