日本を通り過ぎていく若者たち――これからの社会は...
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#23路地裏のとんかつ屋で見つけた、新しい時代の潮流
三木 明博 2025/10/23
どのようなビジネスにも共通することかもしれませんが、私たちの仕事は最先端の技術を深く追求する類のものではありません。だからこそ、一つの分野を突き詰めるより、むしろ広く浅く、多様な物事にアンテナを張っておくことが大切だと、私は考えています。放送やメディアの世界にとどまらず、様々なことに興味を持ち、人脈や情報を広げていく。その積み重ねが、結果として本業に厚みをもたらしてくれるのです。
もちろん、一つの道を極める専門家もいます。例えば、ドラマ制作において右に出る者はいない、というような卓越した才能を持つ人も実際にいました。どちらのスタイルが良いというわけではありませんが、少なくとも私は、いろいろなジャンルの方の話を聴くのが好きでした。 好奇心の赴くままに動いていると、自然と人の輪は広がっていきます。もともと人が好きな性分で、様々な分野の方と会って話を聞くのは、何よりの楽しみであり、刺激になります。
先日も、そんな発見があった一日をご紹介します。
ある日の昼前、ビジネスの話を終えて赤坂見附を歩いていました。次の予定まで少し時間があり、一人で昼食をとることにしました。普段は通らない路地にふと足を向けると、古いビルの入り口に「とんかつ」と書かれた小さな看板が目にとまりました。そういえば、最近とんかつを食べていない。妻は健康を気遣って揚げ物をあまり好みませんから、これは良い機会だと思いました。
古びた階段を2階へ上がると、そこには食券の自動販売機が置かれた、ごく普通のとんかつ屋がありました。先客は日本人が5、6人。そして、その奥のボックス席には、旅行者ではない、明らかにビジネスマンといった風情の外国人4人組が座っていました。
「こんな場所のとんかつ屋を、よく知っているものだ」と思いながら席に着き、注文したとんかつを待っていると、さらに驚くべき光景が広がりました。私の後から入店してくる客の半分ほどが、欧米系のビジネスマンなのです。一人客もいれば、2、3人のグループもいます。
ここは、地図を片手に探さなければ、日本人でさえ偶然たどり着くのは難しいような場所です。なぜ、これほど多くの外国人ビジネスマンが、この店を目指してやって来るのでしょうか。
後日、この話をある知人にすると、興味深い答えが返ってきました。彼らが利用しているのは、英語版のGoogle マップなのだそうです。それには、店を訪れたユーザーが自発的に評価や口コミを投稿する機能があります。投稿したユーザーに見返りは一切なく、純粋に「良い」と思ったからこそ情報を共有する。その善意の連鎖が、広告よりも強い信頼性を生み、国境を越えて客を呼び寄せているというのです。
特別な宣伝をしているわけではない、街の普通のとんかつ屋。しかし、そこには確かに、グローバルな評価経済の最前線がありました。インターネットがもたらした変化の波は、私たちの想像をはるかに超えた場所まで浸透している。そんな時代の大きな潮流を、路地裏の一角で垣間見た、実に不思議な体験でした。


