ラジオという、シンプルで不器用なメディアの未来図
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#26ラジオ番組に100%の成功などない
三木 明博 2025/10/26
トヨタが静岡県裾野市に「ウーブン・シティ」を建設しました。私はあれを見て、素直にすごいなと思いました。
日本の企業、ひいては日本という国は、新しい技術を導入する際、「100%安全であること」や「一人も取り残さない」ことを前提にする傾向があります。学校教育でも、一人の落ちこぼれも許さない、全員を救おうとする姿勢が見られます。良くも悪くも、それによって全体が非常に中間的になりやすいのです。
海外では、飛び抜けて優秀な人間がいればどんどん伸ばし、逆に落ちこぼれる人は仕方がないと割り切る側面があります。新しい技術の導入も、100%の安全が保証されなくても、まずは実行してみます。
誤解を恐れずに言えば世の中に最初から100%安全なものなど、本来ありません。もちろん、犠牲が出てもいいという話ではありませんが、100%の安全を確保しようとすれば、それだけ時間も手間もかかります。結果として、科学技術の進化のスピードが著しく落ちてしまうのです。他の先進国は「何か起きたら修正していけばいい」という発想で進むため、非常にスピーディーです。日本は完璧に作り上げてから世に出そうとする。この完璧主義は日本の素晴らしい点ですが、その分、どうしても世界から遅れをとってしまう側面があるのです。
その点、トヨタのウーブン・シティは画期的です。トヨタだけでなく、例えばダイキンのように部屋ごとの空調を細かく制御する技術など、多様な企業の技術が導入されています。そこで自動運転をはじめとする、さまざまな「実験」を行うわけです。
日本の公道で実験をすれば「何かあったらどうするんだ」という声が必ず上がります。それならば、と広大な実験場、つまり普通の街と同じ機能を持つ「実験都市」を作ってしまおう、という発想です。これこそがトヨタの先見の明であり、すごいところだと私は思います。実際に人々を住まわせ、生活する場で壮大な実験を行う。日本では、そうした思い切ったことをしないと、先進的な取り組みはなかなか難しいのかもしれません。安全第一は日本の美徳ですが、それとどう両立させるかが課題です。
100%の安全がなかなかないように、番組作りにも「こうすれば絶対に当たる」という100%の成功法則はありません。もしそんな企画があれば、誰でもやっています。当たるかどうかは、結局やってみなければ分かりませんし、当然、うまくいかないこともあります。
そして、番組がうまくいかなかったとき、多くの場合は「パーソナリティが悪かった」という結論になりがちです。「あいつはダメだ」「喋りに中身がない」と。
しかし、本当にそうでしょうか。そのパーソナリティを起用し、企画を立てたのは制作側です。うまくいかなかったのなら、それも含めて「最初のコンセプトが間違っていたのではないか」と考えるべきです。
「なぜ番組が受け入れられなかったのか」を、作り手側がきちんと責任を持って分析し、それを次に活かせばいい。ところが、総括となると「パーソナリティのせい」に集約されてしまいがちです。それが一番、簡単な結論だからです。
出演者も含めて、すべてが「番組」です。パーソナリティやタレントには、それぞれ得意分野や役割があります。その人のどこを引き出して番組にするかを考えるのが企画側の仕事であるはずが、実際にはパーソナリティに「お任せ」になってしまっているケースが少なくありません。
スタジオを見ていても感じることです。出演者に自由に喋ってもらうのは良いことですが、それだけではいけません。
私は、終わった後、人前で叱ることはしませんが、二人になれるタイミングで「今日、ああいうふうに言っていたけど、私はちょっと違うと思うな」とか「そういう言い方は聴取者によくない印象を与えるよ」、あるいは「あの問題は触れた方がいいんじゃないか」と、出演者と「会話」するようにしていました。
私は若い頃から、割とそういうことをはっきり言う方でした。生意気な若造だったかもしれませんが。
以前にも触れましたが、例えば高島忠夫さんにも「電車に乗ってみてくれませんか」とお願いしたことがあります。「電車の中は面白いですよ」と。
高島さんが「なんで?」とおっしゃるので、「電車には世の中が見えます。空気も景色も、乗客の表情や服装も。世の中の変化がわかるじゃないですか。ラジオはそういう日常の繰り返しを描くものですから、それを肌で感じるだけでもいいんです」と説明しました。
「でも、ハイヤーの後部座席に乗っていると、それが見えないでしょう」と。すると高島さんは、「あんたの言うことはわかるけど、僕はできない。僕はスターだから」とおっしゃいました。
私は「スターなのは重々承知していますが、少なくともこのラジオ番組に関しては、そうしてほしいのです。毎日とは言いません。1ヶ月に1回でも、1年に1回でもいい。1駅だけでも乗ってください」と食い下がりました。
結局、最後までやっていただけませんでしたが、高島さんは「君の言うことはわかる。わかるけど僕はできない」と言われました。
そうかもしれませんが、それでも自分が思っていることは伝えなければなりません。「ラジオとはこういうものだと私は思います」と。高島さんの方がキャリアは遥かに上ですが、この番組の責任者は私です。だから「私はこう思います」と、はっきり伝える必要があるのです。


