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2026

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    ビジネスに「失敗」は許されない——足許の現実に勝ち続けるための網羅的「挽回策」

    #16ビジネスに「失敗」は許されない——足許の現実に勝ち続けるための網羅的「挽回策」

    原石からダイヤへ

     私はよく周囲から、「日覺さんは『何回失敗してもいい、途中でやめるのが本当の失敗だ』という考え方なのですか」と聞かれますが、そんなふうに思ったことは一度もありません。ビジネスである以上、失敗していいわけがないのです。

     ただ、私は「思いつき」で動くから失敗するのだと言いたいのです。事前に、それをやるにあたってどのようなリスクがあるか、もし計画が頓挫したらどうやって挽回するか、それらを徹底的に洗い出してすべての原因と対策をあらかじめ潰しておく。そうした網羅的な「挽回策」までセットで練り上げて取り組めば、物事が失敗することなどあり得ません。必要なのは、うわべの精神論ではなく、あらゆるリスクを先回りして潰し、何が何でも成功へ持っていく圧倒的な「執念」です。

     この執念と、長期的な時間軸に立った視点が必要不可欠なのが、東レの核心である素材産業です。

     今ある最適な部品を瞬時にかき集めて顧客のニーズに合わせる組み立て産業とは異なり、革新的な新素材の開発には、膨大な技術の蓄積と気の遠くなるような時間がかかります。しかし、ひとたび他社に先駆けて圧倒的な素材を創り出すことができれば、競合他社を完全に凌駕することができる。それが素材メーカーの強みであり、醍醐味です。

     ここで多くの人が勘違いをするのは、「将来大きく化ける事業なのだから、今はいくら赤字を垂れ流して研究を続けてもいいはずだ」という甘えです。私は常々、「『将来なんとかなる』と言って、なんとかなった試しは世の中に一度もない」と口を酸っぱくして言っています。どんなに社会的価値のある大義名分を掲げようとも、足許で赤字を垂れ流し続ければ、事業そのものが途中で潰れてしまいます。長期視点に立つからこそ、同時に足許で収益を確保する手段は不可欠なのです。

     東レの代名詞である炭素繊維は、まさにその象徴です。私が入社した1973年頃、社内では炭素繊維を何に使うかという用途開拓のアンケートが回っていました。当時の事業関係者たちがひねり出した答えは、テニスラケット、ゴルフシャフト、自転車、そして釣り竿といった、高機能であれば高価格が認められるスポーツ用途でした。私たちは本命である航空機用途への全面採用を見据えながら、まずはこれらの身近な製品で地道に「日々の糧」を稼ぎ、着々と開発費を回収しながら技術を磨いていったのです。

     実は、このスポーツ用途での技術蓄積が、後にボーイング社の厳しい要求に応えることにもつながりました。

     当時の東レには、長さ10メートル以上、鮎のハリスを通すほどの極細の先端でありながら、強く引き絞られても決して折れない「高級釣り竿」を作る匠の素材技術がありました。一本100万円もするようなマニア向けの超一級品が生み出されていったのです。これらを作るためには、炭素繊維の厚みのばらつきをコンマ何パーセント以下という極限の精度でコントロールしなければなりません。後にボーイング社から、航空機の主翼や胴体に使うための途方もなく厳しい強度と精度のスペックを要求された時、東レがそのすべてに完璧に応えることができたのは、まさにこの「釣り竿づくり」で極限まで磨き上げた微細な製造技術があったからなのです。

     海水淡水化に使う水処理のRO膜(逆浸透膜)も、全く同じ道をたどりました。もともとは海水を真水に変えるために開発をスタートしたのですが、当時は原油価格が1バレル1ドル程度という超低価格の時代でした。化石資源を燃やして海水を沸騰させる「蒸発法」の方が圧倒的に安価であったため、1本10万円もするRO膜はコスト面で全く相手にされませんでした。

     そこで私たちが着目した足許の収益源が、当時日本で爆発的に成長していた半導体産業でした。半導体の微細加工には「超純水」という極限まで不純物のない水が不可欠であり、その製造に東レのRO膜が採用されたのです。半導体用途であれば、RO膜1本に30万円という高値がついても売れました。私たちはこの半導体市場でしっかりと利益を上げ、技術改良を重ねながら、海水淡水化の市場が立ち上がるのをじっと待ったのです。

     その後、原油価格は高騰し、私たちの膜の製造コストも劇的に下がりました。今やRO膜方式は、蒸発法に比べて約5倍のコスト競争力を持ち、世界中で水不足を救うインフラとして全面採用されています。近年では、化石資源を単に燃やして灰にするのではなく、化学物質としてこうした地球規模の課題解決のために活用すべきだという東レのサステナビリティの思想とも完全に一致しています。

     磨き込まれた本物の技術には、後から必ず市場がついてきます。しかし、その市場が追いついてくるまでの長い年月を生き抜くためには、理想論だけに逃げず、現実の市場で「日々の糧を稼ぎながら技術を研ぎ澄ます」という緻密な計算が不可欠なのです。足許の現実に勝ち続けることの連続の先にしか、世界を変えるイノベーションなど存在しないのです。

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