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2026

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    市場は後からついてくる——「狙い通りに花開かない」素材の宿命

    #17市場は後からついてくる——「狙い通りに花開かない」素材の宿命

    原石からダイヤへ

     前回、「『将来なんとかなる』と言ってなんとかなった試しは一度もない」とお話ししました。長期視点の大義名分に甘えず、足許で確実に収益を確保するための「P値管理(コストの増加を限界利益の伸び以下に抑える経営指標)」を徹底すべきだという私の持論は、研究開発の現場においても全く同じです。

     ここで、素材を扱うすべての人間に知っておいてほしい「開発の心構え」があります。それは、ある特定の用途のために開発した素材が、ストレートにその狙い通りの用途で花開くケースは珍しいという事実と、本当に優れた素材は、一つの用途がなくなってもまた形を変えて使われ続けるという真理です。

     例えば東レのフィルム事業がそうでした。かつて東レは、ビデオテープ用フィルムで世界を席巻し、大きな利益を上げていました。しかし、時代の変化とともにビデオテープという市場そのものが地上から完全に消滅してしまった。普通なら、ここで事業は終わりです。

     ところが、私たちは高い性能を誇るフィルムの基礎技術を、諦めずに粘り強く磨き続けていました。すると後になって、世の中に液晶テレビという全く新しい技術が登場したのです。私たちが培ってきたフィルムは、偏光板や反射板といった光学用の高付加価値フィルムとして、かつてのビデオテープ時代を遥かに凌ぐ付加価値を持って劇的に蘇りました。さらにスマートフォンやタブレットが普及すると、そのタッチパネルの基幹素材としても次々と採用されていったのです。

     これは医薬品の開発でも同様です。もともとは「痛み止め」として研究開発を続けていた創薬の種が、最終的には「かゆみ止め」の効果が認められ、世の中の役に立つといったケースもあります。

     新しく優れた素材の開発には、10年、20年という気の遠くなるような技術の蓄積が不可欠です。だからこそ、最初に狙った用途で商品化できなかったからといって、あるいは「今、収益が上がらない」からといって、安易にその技術や事業から撤退する必要は全くありません。

     素材には無限の可能性があり、固有の優れた機能さえ磨き込んでおけば、時代の進化とともに世の中が必要とする最先端の用途や市場のほうが、後から必ず追いかけてくる。これが、私たちが経験則として知っているモノづくりの真理です。

     では、事業を継続するか撤退するかの「本当の境界線」はどこにあるのか。私は、事業化までのスピードや足許の赤字額ではなく、一にも二にも「社会的価値の有無」であると考えています。

     その素材が、将来の地球環境を良くするのか、人間の健康や安心・安全に貢献するのか。世の中の進むべき方向性と合致し、社会的に絶対的な価値があるものならば、将来的には市場で成功する確率は極めて高い。社会に真に必要とされるものには、あとから必ず巨大な市場が生まれるものだと私は信じています。

     昨今、世の中ではデジタルトランスフォーメーション(DX)や人工知能(AI)を導入すればすべての問題が解決するかのように大騒ぎしています。確かにAIを使えば、すでにある膨大なデータや過去の性能を統計処理し、効率的な組み合わせを導き出すスピードは劇的に上がります。開発の効率化において、デジタル技術は極めて便利な道具です。

     しかし、AIには大きな落とし穴があります。AIは「すでにあるもの」の組み合わせや効率化は得意ですが、無から有を生み出す「0から1」の創造は絶対にできないということです。過去のデータに載っていない、誰も見たことのない革新的な分子構造や、ナノサイズの極限的な技術を追求し、地道に作り込んでいくプロセスは、人間にしか担えません。

     流行りのITツールに頼って、右から左へ時間を買って終わるような薄っぺらな仕事をしていては、世界を驚かせる素材など生まれません。時流に惑わされることなく、社会的な価値を信じて、10年先、20年先の世界に必要な基礎技術をじっと磨き続ける。この息の長い挑戦ができることこそが、日本の製造業が世界に誇るべき真の強みなのです。

    #東レ#東レ会長#現場主義#答えはすべて現場にある#企業共創#素材で社会を変える#日覺塾
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