土づくりから始まる食の本質——国境を越えた「農と...
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#18初競りマグロが紡いだ信頼——アメリカ独立250周年で振る舞ったお寿司と、世界へ広がる日本食の未来
木村 清 2026/09/18
読者の皆様の中には、「すしざんまい」というと、正月の初競りで「一番マグロ」を高値で落札する姿を思い浮かべる方も多くいらっしゃることでしょう。この様子は、次第にメディアや世間で大きな話題となっていきました。平成24年の東日本大震災直後の初競りで初めて5千万円を超え、平成31年(2019年)には大間産本マグロ1本を3億3,360万円、そして今年、令和8年(2026年)には、最高値を更新する5億1,030万円で落札しました。
私がどれほど高値で競り落としても、店舗では価格を変えずに提供し続けるのは、幼少期に母と分け合った半切れのマグロの記憶と、「一番マグロを食べて日本の皆さんに元気になってもらいたい」という思いがあるからです。そしてこの初競りでの妥協なき挑戦は、思わぬ形で世界の要人たちとの深い絆と「民間外交の扉」を開くことになりました。
その象徴的な出来事のひとつが、アメリカ合衆国の独立宣言250周年を祝う歴史的な記念式典・パーティーへの招待と、式典会場で行ったマグロの解体ショーです。
事のきっかけは、初競りで落札した最高級の本マグロにありました。その噂を聞きつけた駐日アメリカ大使のジョージ・エドワード・グラス氏(あるいは歴代の大使や本国からの意向)から「ぜひその極上のマグロを食べてみたい」と熱望されたのです。そこで私は直接、大使館へ最高級のマグロをお届けし、皆様に味わっていただきました。一口召し上がった瞬間、そのおいしさに大変感動をされ、その評判はSNSを通じて一瞬にして世界中へと広がりました。
実は、こうした駐日アメリカ大使館や歴代大使の方々との交流は、今に始まったことではありません。
ジョン・F・ケネディ大統領の娘であるキャロライン・ケネディ元駐日大使も、ご主人が無類の寿司好きだったことから、プライベートで当社の渋谷店にお寿司を買いに来てくださっていました。また、ジョン・ルース元駐日大使の奥様も大変な寿司好きで、頻繁にお店へ通ってくださるなど、歴代の大使やご家族と長年にわたって親密な信頼関係を育んできました。そうした深いご縁の積み重ねがあり、「アメリカの歴史的節目となる250周年記念の場に、ぜひ木村社長に来てほしい」と正式な招待を受けたのです。厳重な警備が敷かれる式典会場へ特別に招かれたことは、極めて光栄なことでした。
式典当日の会場には、各国の要人1,000人以上がひしめき合っていました。その熱気あふれる会場の中心で、私は250周年にちなみ250kgの特大本マグロを前に包丁を握り、豪快な解体ショーを披露したのです。
私が30年以上前から店頭で行ってきた解体ショーは、単に魚を切り分ける作業ではありません。巨体のマグロに鮮やかに包丁を入れ、部位ごとの命の恵みとおいしさを伝える、日本独自の食のエンターテインメントです。1,000人もの外国人の観客が見守る中、見事な手さばきでマグロがさばかれていく光景に、会場は大きな歓声と熱狂に包まれました。さばきたての極上マグロは瞬く間に振る舞われ、用意した1,000人分のお寿司はあっという間にすべて提供され、世界中から集まった参加者から大絶賛を浴びたのです。
25年前、世界にわずか2,000店舗ほどしか存在しなかった日本の寿司店・和食店は、現在では20万店舗を超えるまでに爆発的に増加しています。今や「SUSHI」は世界共通語となり、地球上のあらゆる国々で愛される食文化へと成長しました。
しかし、世界を広く見渡してみれば、まだまだ本物の日本の食文化や美味しいお寿司に触れたことがない国や地域も数多く存在しています。高級店や一部の富裕層だけの楽しみにとどめるのではなく、誰もが気軽に、日常的に美味しいお寿司を味わえる「カジュアルな日本の食空間」を、世界中に届けていきたい——。
言葉の壁を越え、一つのテーブルで美味しいマグロとお寿司を囲んで笑顔になる瞬間、人間同士の対立や壁は消え去ります。初競りマグロの解体ショーがアメリカ大使館の1,000人の心をひとつにしたように、寿司には世界を繋ぎ、平和をもたらす圧倒的な力があります。これから先も、まだ見ぬ世界の人々においしいお寿司と笑顔を届けるため、私の情熱と挑戦は止まることがありません。


