「陰陽師の術」が宿すネーミングの力——言葉で現実...
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#17人は感情の共有を求めている——「ラグビー型経営」とオープンな組織文化
岩田 彰一郎 2026/10/17
アスクルを急成長させていく中で、私が何よりも大切にしていた人間観があります。
それは、「人は感情の共有を求めている」という考え方です。
学生時代に耳にした「連帯を求めて孤立を恐れず」という言葉があります。人間関係において、ただ周囲に迎合して表面的なきれいごとを並べても、真の連帯は生まれません。一人ひとりが自分の正しさを追求し自立しているからこそ、心が通い合い、深い共感が生まれるのです。
この「連帯」が最も象徴的に現れたのが、アスクルにおける「義勇軍」の存在でした。
創業期、注文の急増やシステムのトラブルによって物流センターがパンクし、お客様へ商品が届かなくなる危機が何度かありました。物流センターで働くパートの方々にはご家庭の事情もあるため、定刻になれば帰宅していただきます。その直後、本社から社員たちが「義勇軍」として自主的に物流センターへと駆けつけるのです。
彼らは徹夜でピッキング作業を行い、無事商品が発送できたことを確認してから、翌日に交代で休みを取る。誰かに指示されたわけでもなく、評価に反映させることすらありません。ご家族の介護や子育てなど、人それぞれ事情があるため「行けない人が悪い」という空気は一切作らない。行ける人が自発的に行く——。
夜を徹して荷物を箱に詰め込む社員たちは、不平不満を漏らすどころか、驚くほど生き生きとした表情で張り切っていました。危機的状況の中で仲間と助け合い、お客様のために全力を尽くす。その環境が、独特の高揚感と揺るぎない連帯感を生み出していったのです。
私はこの組織のあり方を「ラグビー型経営」と呼んでいます。
ラグビーでは、グラウンド上の全員がリアルタイムで状況を把握し、自ら判断して動きます。アスクルでも、全社に情報をオープンに共有することで、普段はバックスの役割を担っている社員であっても、物流センターが危機に陥ればすぐさまスクラムに突っ込んで援護する。司令塔からの細かい指示を待つのではなく、各自が「今、何をすべきか」を判断して動く組織を目指したのです。
このフラットでオープンな社風を形作っていたのが、オフィス環境と情報共有の仕組みでした。
私が座る社長のデスクも、秘書や一般社員と同じサイズの机をワンフロアの中に並べただけでした。ワンフロア1,500坪という広大なオフィスには壁を作らず、時には床に直接座り込んで熱く議論を交わすこともありました。
危機の際には、オフィスの中心に「ウォールーム(War Room)」と呼ばれる緊急ミーティングスペースが現れます。立ち上がって会話できるテーブルとスクリーンとホワイトボードがあるだけの空間ですが、そこで現在の状況や出荷の遅れが、リアルタイムで共有されます。それを見た各部署の担当者が、「うちのチームは夕方に手が空くから何名支援に回そう」と、部署の垣根を越えて自主的に動き出していくのです。
さらに、私は創業以来20年以上にわたり、毎週月曜日に「全社朝礼」を続けました。
参加は完全な自由で、強制ではありません。だからこそ、話がつまらなければ誰も聞きに来なくなります。「今週は社員に本気で何を伝えたいのか」と、日曜の夕方になるとサザエさん症候群でプレッシャーを感じながら、ビジュアルや比喩を駆使して自らの思いを語り続けました。例えば、B to C市場への進出を決めた際には「ルビコン川を渡る」という例えを出し、もう後戻りはできない決意を共有したものです。
また、社員のご家族を招く「ファミリーデー」や、派遣社員やパートナー企業の方々を社員・役員が仮装などしておもてなしする「クリスマスパーティー」など(私はサンタクロースの衣装に仮装しました)、感謝を伝える社内イベントも徹底して大切にしました。
トップが何を考え、会社がどこへ向かおうとしているのか。情報を包み隠さずオープンにし、喜びも苦境も仲間と共に感情として分かち合う。指示命令で人を動かすのではなく、感情の共有と強い目的意識によって結ばれたチームこそが、どんな荒波も乗り越えていける最強の組織となるのです。


