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10/23(金)

2026年

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    ストイックな父とモダンな母——対極の二人が私に授けてくれた「時空の視座」

    #04ストイックな父とモダンな母——対極の二人が私に授けてくれた「時空の視座」

    原石からダイヤへ

     親戚一同が集まる席に新たなお嫁さんが来ると、みんなで「花嫁の歌」を歌って心から歓迎する。そんな温かくも賑やかな岩田家を支えていた私の両親は、驚くほどに対照的な二人でした。宗教的で極めて真面目、かつストイックに生きた父。一方で、髪を茶色に染め、最先端のテクノロジーと芸術を愛した極めてモダンな母。この二人の強烈な個性の間で育ったことが、私の自己を確立し、経営者としての「意思決定」の軸を作る上で、決定的な原体験となりました。

     京都大学を卒業した父の原点は、第二次世界大戦における学徒出陣にありました。航空隊の教官として鹿児島などに赴任した父は、わずか16歳や17歳の若さで特攻していく少年たちを、20歳そこそこの若さで送り出すという壮絶な経験をしています。さらに、父の一つ下の弟も京都大学から学徒出陣し、人間魚雷「回天」の特攻隊長として出撃しました。彼は撤退時に負傷し、部下の足手まといにならぬよう自決を遂げたそうです。

     最前線での凄惨な生と死、そして国のために命を捧げた仲間たちを見届けてきた父の心根には、「死んでいった人たちのおかげで今の自分がある」という深い境地が刻まれていました。戦後、父が特攻で亡くなった隊員のご家族を自ら見舞って回ったのも、その強い思いゆえです。だからこそ父は、私に対して「お金には毒がある」「自分のほうにばかり水を寄せようとすれば、すべてが流れ出ていく。人のために生きなさい」と、強欲を戒める商売の倫理を厳格に説き続けたのです。

     このストイックな父と180度異なる色彩を放っていたのが、母でした。母は一言で言えば、時代を何歩も先駆ける「尖ったアーティスト」でした。

     主婦でありながら本格的に彫塑(彫刻)の世界に打ち込み、二科展の会員からやがて審査員を務めるほどの芸術家でした。大阪のアトリエにはとてつもない数の作品があり、自宅の庭には巨大なモニュメントがそびえ立っていました。のちに私が会社を上場させた際には、お祝いとして「凱旋門」という名の鉄製の彫刻作品を贈ってくれたほどです。

     その生き方も実にモダンで、当時でいうウーマンリブの先駆けのような人でした。「お正月のお祝いの席で、男たちが座敷でふんぞり返り、嫁たちが台所に押し込められているのは絶対におかしい」と、親戚の叔母さんたちと一緒になって岩田家の古い男尊女卑の体質に異議を唱えるような、強い自立心を持っていました。私がまだ四、五歳の頃、母は自分で車を運転し、一週間ほど「アルペンラリー」の自動車レースに出場するために家を空けてしまうほどアクティブだったのです。

     新しいものや情報に対する好奇心も並外れていました。晩年になっても、最先端のパソコンやiPhoneを何台も使いこなし、流行りの「プラダ携帯」が発売されれば、私たちが知らないうちに自分で買って使いこなしていました。高齢になっても私たちの誕生日に集まれば、自らすすんですき焼きの肉を平らげるような、エネルギーに満ちあふれた派手で面白い母親でした。

     私はよく周りから「おふくろ似だね」と言われます。ビジネスにおいて新しいアイデアを次々と生み出し、クリエイティブに形にしていくセンスや、未知のテクノロジーを恐れずに面白がる圧倒的な好奇心は、間違いなく母の背中を見て育つ中で受け継いだ遺伝子です。

     かつてビジネス誌の『ハーバード・ビジネス・レビュー』に、「意思決定」をテーマにしたインタビューが掲載されたことがあります。その中で私は、経営における決断とは「空間」と「時間」の2軸で捉え、最終的には「内なる自分」に素直になって決めるものだ、と述べました。

     子供の頃にコンクリートテラスに寝転びながら、「宇宙はどうやってできているのか、端っこはあるのか」と何万光年の彼方に思いを馳せていた記憶。それは、目先の利益や小さな空間にとらわれることなく、壮大な時間軸と広い社会の動きの中で「今、何をなすべきか」を俯瞰する、経営者としての時空を超えた視座にそのまま直結していました。

     人間のベースは、幼少期にどのような大人に囲まれ、何を感じたかで決まります。戦争という極限状態を生き抜き、目先の欲を超えて「人のために生きよ」と説いた真面目な父。そして、既存の枠組みを飛び越えてクリエイティビティを発揮し、最後まで最先端を走り続けたモダンな母。この対極にある二人の精神を同時に学び、そのエッセンスを自分の中で融合できたこと。それこそが、激変する現代社会において、私がブレずに未来を見据え、決断を下し続けるための最大の羅針盤となっています。

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