Diamond Visionary logo

10/23(金)

2026年

SHARE

    170年の時を超える「起業家ファミリー」のDNA——自立と信頼が育むネットワーク

    #02170年の時を超える「起業家ファミリー」のDNA——自立と信頼が育むネットワーク

    原石からダイヤへ

     私がアスクルを立ち上げ、現在は株式会社フォース・マーケティングアンドマネージメントのCEOとして起業家を支援している一連の「志」の原点を紐解くと、私の生まれ育ったファミリーの存在に繋がります。岩田家という血統が持つ商売の気質やベンチャー精神は、私自身の起業家魂に色濃く影響を与えました。

     我が家のルーツは、明治時代にまで遡ります。天保14年に生まれた私の高祖父・岩田惣三郎は、愛知県の一宮から名古屋、宇都宮を経て、最終的に大阪へと移り住んだ人物です。

     彼は真宗大谷派(東本願寺)の熱心な門徒でありながら、相場師としても知られ、尾州銀行をはじめとする銀行や会社を次々と設立しました。さらに、後に大日本紡績へと発展する摂津紡績の設立にも携わっています。当時の紡績産業は、まさに日本近代化の最先端を行く「ベンチャービジネス」でした。宗教と相場という一見すると相反する世界を往来しながら、高祖父は新しい時代を切り拓いていったのです。

     戦前の岩田家は、大阪の船場で大きな商家を構え、繊維業や紡績業を中心に発展していきました。当時の建物は残念ながら戦災で焼失してしまいましたが、私たちの世代は誰も見たことがないその商家の姿を、後になって知る機会がありました。親戚の一人に建築家がいるのですが、彼がまだ健在だった叔父や叔母たちに丁寧にヒアリングを重ね、当時の商家の精巧な模型を復元してくれたのです。このような形で、ご先祖様に感謝し、尊敬する家族なのです。

     祖父母の代から始まったファミリーは、現在では110人ほどにまで広がっています。もともとは関西を基盤とするファミリーですが、現在は東京に出てきている親族も多く、私たちは「出稼ぎ組」と冗談めかして呼んでいます。

     この東京に拠点を置く従兄弟やその子供、孫たちが集まり、20年以上前から年に1回、秋から冬にかけて開催しているのが「東京岩田会」です。毎回30名強が集まり、盛大にワイワイと近況を報告し合っています。

     普通であれば、世代が下るにつれて従兄弟の子供同士などの関係性は薄れていくものですが、我が家は驚くほどみんなの仲が良いです。思い返せば、私の父たちの兄弟は11人兄弟でしたが、毎月のように誰かの家に集まっていましたし、子供の頃はお正月になると必ず祖父母の家に全員が集まってお祝いをしていました。集まるとまずはファミリーでお経を上げるという、信心深く真面目な家庭環境でもありました。子供の頃からそうした大家族の絆に触れていたからこそ、今の若い世代に至るまで、強い繋がりが維持できているのだと思います。

     一方で、ファミリーで同じ会社を経営しているようなヒエラルキーはありません。本家が事業を継承するという形はとうに無くなっています。だからこそ、みんながそれぞれの場所で自立し、フラットに助け合える。まるで「華僑」のようなネットワークだと笑っています。

     このファミリーのもう一つの特徴は、とにかく経営者や起業家、あるいは芸術系の職に就く人間が非常に多いという点です。

     東京岩田会には、驚くほど多彩な顔ぶれが集まります。たとえば、私の従兄弟には大手建設会社の副社長を務めた者がいますし、大手流通グループの取締役会議長を務める者、漫画『宇宙兄弟』などの編集者として知られる者、あるいはベンチャーを自ら立ち上げた者などがいます。

     私の身内を見渡しても、息子は「株式会社ヴァーヴコーヒーロースターズジャパン」というコーヒーショップを創業し経営していますし、従兄弟の子供にはジュニアドラマーのコンテストのファイナリストに選ばれるような若者もいて、会合では父親と即興でセッションを披露してくれたりします。お互いに育った環境はバラバラですが、周囲に高い志を持った人間が当たり前のように存在する環境が、次の世代の視座を自然と高くしているのかもしれません。誰かに依存するのではなく、それぞれが自立して自分の生業を営んでいるからこそ、お互いを尊重し合える理想的な関係が保たれているのです。

     ファミリーのルーツを大切にしていると、時に奇跡のような出会いも起こります。

     数年前、東本願寺を通じて「自分たちも同じ岩田一族の親戚ではないか」と、見知らぬ方から連絡をいただきました。調べてみると、なんと高祖父の弟の系統にあたる方々であることが判明したのです。天保年間に我が家が大阪に出て以来、実に170年もの間、お互いの存在を知らずに別々の道を歩んできた血縁でした。

     その後、人形町の老舗天ぷら屋でお会いすることになり、向こうが持参された家系図と照らし合わせながら、「確かにルーツが一緒だね」と驚き合いました。その席には従兄弟も同席し、170年ぶりの再会をみんなで喜び合いました。今では年賀状をやり取りする仲になっています。

     明治の時代から、一宮から大阪へ、そして東京へと飛び出し、ビジネスを切り拓いてきた我がファミリー。伝統的な経済界のネットワークに甘んじることなく、時代が変わっても形を変えながら、それぞれがベンチャー精神を持って自立していく。この血の巡りと、お互いを信じ、助け合う無形のネットワークこそが、私がビジネスの世界で挑戦を続け、次世代の起業家を支援していく上での、大いなるバックボーンになっていることは間違いありません。

    #岩田彰一郎#アスクル創業者#アスクル#ふんわり頑固#コンシューマー・イズ・キング#はじめに意志ありき#三面鏡経営#岩田ワクチン会
    Diamond AI trial