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和泉市の「初任給日本一」──自治体の常識を覆す挑戦、その光と影
ビジョナリー編集部 2026/03/27
「人が集まらない」――そんな声が全国の自治体で広がっています。人口減少と人材の都市集中が進むなか、採用は年々厳しさを増しています。
その中で、大阪府和泉市が掲げたのが「初任給日本一」という大胆な施策でした。一見すると魅力的なこの取り組みですが、その裏には、給与アップだけでは語りきれない課題も存在しています。
なぜ「日本一」に? 危機感が生んだ新戦略
近年、地方自治体の採用を巡る状況は大きく変化しています。人口減少に伴い労働力が減少し、企業もスタート時の待遇を引き上げて激しい人材争奪戦を展開しています。「安定」だけでは、もはや若い世代の心を惹きつけられないのです。和泉市も例外ではなく、「今のままでは将来が危うい」という焦燥感が高まっていたといいます。
これまでの大卒向けの給与は18万円台で、府内でも下位に位置していました。そこで、外部の専門家も交えた会議を重ねた末、思い切った方針転換に踏み切ります。2026年度、基本給25万5800円に地域手当(11%)を上乗せし、28万円超を実現。全国でも突出した条件となり、民間企業と比べても遜色ない水準に到達したのです。
驚きの効果と応募者の殺到
この待遇改定は、採用活動に大きな変化をもたらしました。2024年春の募集では、59人の枠に対し645人の応募が集まり、2025年には倍率がさらにアップ。事務職A枠では49.9倍という、前例のない数字が記録されました。これほど自治体の採用試験が注目を浴びるのは異例で、「高待遇」という明快なアピールが、強力な広報効果を発揮したことは間違いありません。
集まる人材の幅も広がりました。大阪府外や関西以外の地域からも志願者が現れ、「和泉市で働きたい」という声が全国から寄せられるようになったそうです。担当者も、「市の存在感そのものが高まった」と手応えを語っています。
給与改革の真価──「やりがい」と成長のチャンス
和泉市の改革は、初任給だけにとどまりません。「働きやすさ」と「やりがい」を両立させる明確な方針のもと、給与体系そのものを刷新。これまでの年功序列を見直し、成果や能力を重視した評価制度を導入しました。これにより、若手でも実力次第で早期に昇進できる環境が整い、「年齢に関係なく頑張りが報われる」仕組みが生まれています。
加えて、デジタル化による業務の効率化や、リモートワーク・時差出勤なども積極的に推進。子育てや介護と仕事を両立しやすい職場づくりが進んでいます。
新庁舎では、市民にも職員にも開かれた空間を用意し、部署間の垣根を低くすることで、コミュニケーションの活性化を図っています。会議室やカフェスペースなど、充実した設備も働きやすさを支えるポイントです。
若手育成に全力
和泉市が特に力を入れているのが、新人のサポート体制です。OJTに加え、配属先以外から先輩がメンターとして新人を支援する制度を導入。上司や同僚とは別に、気軽に悩みや不安を相談できる存在がいることは、安心してスタートを切る大きな支えとなっています。
また、人事課によるフォロー研修や、近隣自治体との合同トレーニングも実施。資格取得を応援する補助制度も整い、自己成長を後押しする体制が万全です。AIチャットボット導入や行政DXなど、新しい分野への取り組みも積極的に任されており、若手が実力を試せるチャンスが広がっています。
中堅・ベテランの複雑な想い
ただ、「日本一の初任給」が持つインパクトの大きさ故に、職場内には新たな課題も生まれています。特に、長年年功序列で働いてきた中堅~ベテラン層には、「自分はこれ以上昇給しないのでは」という戸惑いや不安が広がっています。実際、市の調査でも、現状の給与体系に納得していないという声が多く寄せられました。
市側も既存職員の待遇を一定水準で守る仕組みを取り入れてはいますが、「安定を求めて役所に入ったはずなのに」という意見は根強く、SNSなどでも「中堅・氷河期世代が損をしているのでは?」という指摘が目立ちます。また、スタート時点の待遇は高くても、その後の昇給ペースは抑えめで、役職に就かなければ他市の役職者より収入が下がる可能性もあります。入口の魅力だけでなく、「長く働きたい」と思える仕組みも今後の課題となっています。
全国に波及する衝撃
このような取り組みは、他の自治体にも大きな影響を与えています。全国各地でスタート時の待遇改善の動きが加速し、採用活動でも「給与条件」を前面に打ち出す例が増えています。一方で、「安定」や「やりがい」だけでは人材が集まらない現実も改めて浮き彫りになりました。
和泉市のケースは、「分かりやすい指標」が採用市場で強力な武器になることを証明しました。しかし、組織が持続的に発展するには、若手のやる気を引き出すと同時に、経験豊かな世代の知恵も活かせる制度設計が欠かせません。
全世代が活躍のできる組織を目指して
和泉市が描く未来は、人材獲得や話題作りにとどまりません。2056年の市政100周年に向けて、持続可能な経営を目指し、「誰もが成長でき、やりがいを感じる職場」を実現しようとしています。若手もベテランもそれぞれの力を発揮できる理想の組織に向かい、制度の細かな修正や現場の声を反映したアップデートが続けられることでしょう。
「初任給日本一」という看板の先にあるのは、時代の変化に対応し続ける自治体のたくましさです。この挑戦は、今後の日本社会の方向性を示唆しているのかもしれません。


