
「未来の当たり前」は万博から生まれた!大阪・関西...
7/17(木)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/07/16
映画「国宝」で話題沸騰中の歌舞伎の世界。「歌舞伎」と聞いて、みなさんはどんなイメージを持たれるでしょうか?
派手な衣裳、独特な化粧、豪快な舞台装置、大きな見得のポーズ――。
現代でも多くの人々を魅了する日本の伝統芸能ですが、その裏には約400年以上続くドラマと進化の歴史があります。
今回は、歌舞伎の誕生から現代までの歩みについてご紹介いたします。
まず押さえておきたいのは、「歌舞伎」の語源です。この言葉は、かつて“常識から外れた行動や奇抜なファッション”を指した「傾く(かぶく)」から生まれました。今で言う「アウトロー」に近い存在が、江戸時代初期の世の中で大きな注目を集めたのです。
歌舞伎のルーツは1603年、京都で活動していた「出雲阿国」という女性芸人にさかのぼります。彼女は、宗教的な踊りや寸劇に加え、当時流行していた風流踊りや男装、異国風の衣裳などを大胆に取り入れ、民衆の心を掴みました。
この「かぶき踊り」の爆発的な人気が、やがて全国に広がり、女性たちの「女歌舞伎」、少年たちの「若衆歌舞伎」へと発展します。しかし、あまりに自由過ぎたがゆえに、幕府から“風紀を乱す”として禁止令が出されることになります。
禁止令を経て、最終的に舞台に立てるのは成人男性だけとなりました。こうして誕生した「野郎歌舞伎」は、現代の歌舞伎の基礎となり、女性役も男性が演じる独自のスタイルが確立されます。
この時代に、「台詞中心の演劇」「女方(おんながた)」といった歌舞伎ならではの技法や、舞台転換を巧みに行う幕や装置が発展し、現代の演劇にも大きな影響を与えています。
江戸時代の元禄年間(1688〜1704年)は、都市文化と経済の発展により歌舞伎が一気に大衆芸能として開花します。
名作の誕生、劇場装置や舞台技術の革新、そして「歌・舞・芝居」が融合した総合芸術として、歌舞伎は日本の大衆文化の中心に躍り出たのです。
明治維新以降、西洋文化の流入や社会の近代化を背景に、歌舞伎もまた変革の時代を迎えます。
9代目市川團十郎は「誰もが楽しめる文化」としての歌舞伎を目指し、演劇改良運動に取り組みました。
戦後は一時的に上演禁止となるものの、文化としての価値が再認識され、海外公演を重ねるなど国際的な舞台芸術へと発展していきました。
さらに現代では、アニメや現代劇の要素も取り入れ、伝統と革新が共存するエンターテインメントとして進化し続けています。
歌舞伎の世界に足を踏み入れると、耳にするのが「屋号」と「襲名」という言葉です。
屋号とは、役者の家系や芸の流派を象徴する「ブランド名」のようなものです。
観客が「○○屋!」と声援を送るのは、家や芸へのリスペクトの証。屋号を知ることで、歌舞伎の血縁や芸の系譜、役者同士のつながりがより深く見えてきます。
歌舞伎役者の名前(名跡)は、まさに“看板”そのもの。出世魚のように、成長や芸歴に応じて名前が変わっていきます。
有名な例として、松本金太郎→市川染五郎→松本幸四郎→松本白鸚と代々受け継がれる流れが挙げられます。
襲名は単なる名前の変更ではなく、「家の芸」「流派のスタイル」を受け継ぎ、次世代へ伝える“宣言の場”でもあります。
「名門の家に生まれれば誰でも主演になれるのでは?」と思う方も多いかもしれませんが、歌舞伎界は実力主義。芸の道を極め、観客や業界の信頼を得てこそ名跡を襲名できるのです。
また、血縁に限らず、一般家庭から一流役者となるケースも珍しくありません。実際、人間国宝にまで上り詰めた坂東玉三郎さんや、片岡愛之助さんなどが良い例です。
意外かもしれませんが、私たちが普段何気なく使っている日本語の中には、歌舞伎生まれの言葉がたくさんあります。
歌舞伎では、黒色は見えていないものというお約束があります。「黒幕」は場面の転換などに使われ、「見えていないが重要な役割」から転じて、現代では“裏で物事を操る人”を「黒幕」と呼ぶようになりました。
舞台の場面転換で、L字型の大道具を一気に倒して背景をガラリと変える「龕灯返し(がんどうがえし)」が語源。大太鼓の「どんでんどんでん」という音とともに、話の流れを一瞬でひっくり返す様子から、「どんでん返し」という言葉が生まれました。
歌舞伎には、暗闇の中で無言のまま演じる「だんまり」という演出があります。ここから「黙り込む」「何も言わない」状態のことを「だんまり」と呼ぶようになりました。
悪だくみの場面で、役者同士が口パクやしぐさで意思を通じた後、「なあ」と呼びかけて「なあ」と返す――。このやり取りから、「なあなあで済ます」「お互いに妥協する」という意味が定着しました。
歌舞伎の魅力は、役者や物語だけではありません。舞台装置や衣裳、音楽など、あらゆる要素が一体となって観客を非日常へと誘います。
そして、拍手や声援、柝(き)やツケ木による効果音など、観客も一体となって舞台を盛り上げる文化が根付いています。
歌舞伎は、時代の流れとともに幾度も変革を経験しながら、日本人の心に寄り添い続けてきました。
役者の名前や家系に込められた誇り、舞台を彩る無数の仕掛け。一度でも歌舞伎の世界に足を踏み入れれば、その奥深さと面白さに驚かれるはずです。
歌舞伎は、私たちの想像を超える“進化する伝統”なのです。