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2026

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    【善福寺川の水害リスク】総事業費1,557億円の「地下トンネル」は地域を救うか?歴史と反対運動から見る治水の現在地

    【善福寺川の水害リスク】総事業費1,557億円の「地下トンネル」は地域を救うか?歴史と反対運動から見る治水の現在地

     東京都杉並区の住宅街や豊かな緑地を流れる善福寺川。区民の憩いの場として愛される一方、大雨のたびに氾濫を繰り返してきた「暴れ川」の一面も持ち合わせています。過去の集中豪雨による激しい浸水被害を受け、これまでにも下水道整備や「神田川・環状七号線地下調節池」などの対策が進められてきました。

     2026年9月6日にも大雨により「レベル4氾濫危険警報」が発表されましたが、近年の気候変動による豪雨の局地化・激甚化に伴い、東京都は新たな大型地下調節池の整備計画を進行させています。急ピッチで進む水害対策に対して、長期にわたる工事や環境への影響から近隣住民による反対運動も勃発しています。地域を守る治水はどうあるべきなのか——善福寺川の歴史と最新の治水対策、そして揺れる議論の現在地を紐解きます。

    善福寺川とはどのような川か?

     杉並区の善福寺公園にある「善福寺池」を源流とし、区内を大きく蛇行しながら神田川へと合流する全長約10.5kmの一級河川です。沿川には善福寺川緑地や和田堀公園など広大な公園が広がり、日常的に多くの人々が集う穏やかな憩いの場となっています。

     その穏やかな見た目とは裏腹に、地形的・環境的な脆弱性を抱えています。流域の多くが低地であることに加え、高度経済成長期以降に周辺の都市化が一気に進行したためです。地表の大部分がコンクリートやアスファルトで覆われたことで、雨水が土壌に吸い込まれず、一気に河川へ流入する構造へ変化しました。その結果、短時間の局地的な大雨で急激に水位が跳ね上がる都市型河川の特徴を持つようになりました。

    過去の氾濫と水害史

     善福寺川の歴史は、激しい浸水被害との闘いの歴史でもあります。例えば、2005年9月に発生した台風14号に伴う「杉並豪雨」では、1時間あたり100mmを超える猛烈な雨が地域を襲い、各所で溢水(いっすい)しました。川から水があふれ出すだけでなく、下水道処理能力を超えた雨水が街にあふれる「内水氾濫」も同時に発生し、杉並区内を中心に3,000棟以上の家屋が床上・床下浸水に見舞われました。生活道路が濁流と化し、ビルの地下や住宅が浸水したこの災害は、都市型水害の恐ろしさを強く印象付ける出来事となりました。

    これまで実施されてきた治水対策とその成果

     相次ぐ被害を受け、東京都や杉並区は水害対策を進めてきました。川幅の拡張や河床の掘削、護岸の嵩上げといった河川改修が実施されたほか、下水道の排水能力強化も進められました。

     中でも効果を発揮したのが、1997年より順次稼働を開始した「神田川・環状七号線地下調節池」です。これは環七通りの地下約40mに建設された延長約4.5km、貯留量約54万立方メートルの巨大なトンネル状施設で、神田川・善福寺川・妙正寺川の増水した水を一時的に引き込む役割を果たします。この調節池の整備により、豪雨時のピーク水位は下がり、かつてのような広域に及ぶ浸水被害は減少しました。例えば、1993年の台風11号では周辺で約3,000戸超の浸水被害が出ましたが、調節池稼働後の2004年台風22号ではほぼ同規模の豪雨にもかかわらず、浸水被害を数戸レベルまで激減させました。

     さらに杉並区では、雨水を一気に川へ流さないための「雨水浸透枡」の設置や助成制度など、総合治水対策も継続的に展開されています。

    新たな治水対策「善福寺川上流地下調節池」構想

     近年は地球温暖化の影響により、従来の想定を超える「1時間あたり75mm〜100mm超」の局地的大雨や線状降水帯が頻発するようになりました。既存の治水インフラだけでは対処しきれないリスクが現実味を帯びています。

     そこで新たに打ち出されたのが、「善福寺川上流地下調節池」の整備事業です。この計画は、都立善福寺川緑地付近から区立関根文化公園付近にわたる地下約40mに、総延長約5.8km、貯留量約30万立方メートルの地下トンネル型調節池を建設するものです。総事業費約1,557億円を投じる大規模事業であり、上流部での溢水リスクを低減させる切り札として位置づけられています。

    「地下調節池」計画に対する主な意見と議論

     この大型治水事業をめぐっては、地域の安全と生活環境の保全をめぐり、賛否両論の議論が交わされています。

     賛成派や事業を推進する東京都・自治体の主張は、浸水被害の根絶と住民の命を守ることの不可避性です。気候変動に伴う集中豪雨は今や毎年のように発生しており、万が一の破堤や浸水が起きれば財産や生命に深刻な損害が生じます。「将来の未曽有の水害から地域を守るためには、早期のインフラ整備が不可欠である」という意見が存在します。

     一方で、反対派や慎重な対応を求める近隣住民・市民団体からは、次のような課題が指摘されています。

     まず、工事に伴う環境破壊への懸念です。トンネル工事に必要な大型立坑(竪穴)の建設に際し、善福寺川緑地などの豊かな緑や樹木が伐採されることへの抵抗感が示されています。

     また、10年以上に及ぶ長期の工期と巨大な事業費も懸念されています。「完成までに長い年月がかかるため当面の浸水対策にならず、巨額の予算に見合う効果が得られるのか」という疑問や、長期間の騒音・振動に対する不安が上がっています。巨大な地下構造物を造る対策だけに頼るのではなく、グリーンインフラの活用や地域ごとの細かな保水対策を優先すべきだという代替案も提示されています。

    おわりに

     激甚化する自然災害から住民の生命と財産を守るための大型インフラ整備は重要な課題ですが、同時に地域が長年育んできた緑豊かな環境や住民の暮らしを守る視点も欠かせません。

     安全な街づくりを進める上では、事業の必要性についての丁寧な対話と環境負荷の軽減、さらには流域全体で雨水を支える「流域治水」の視点を双方で共有していくことが求められているのではないでしょうか。

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