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8/5(火)
2025年
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ビジョナリー編集部 2025/07/30
「イグノーベル賞」をご存知でしょうか?
ノーベル賞のパロディと紹介されることも多いこの賞。一見すると、ふざけているような研究や、思わず笑ってしまう発明が表彰されています。「これが本当に賞になるの?」と驚く方も多いかもしれません。
しかし、イグノーベル賞は単なるおふざけイベントではありません。その本質には、学ぶべき「柔軟な発想」と「飽くなき探究心」が詰まっています。
今回は、イグノーベル賞について紹介し、そこから得られるビジネスへのヒントを解き明かします。
イグノーベル賞は、1991年にアメリカのユーモア系科学誌『Annals of Improbable Research』編集長のマーク・エイブラハムズ氏によって創設されました。その名は「Nobel Prize(ノーベル賞)」に否定の接頭語「ig」を付けた造語で、英語の“ignoble(崇高でない、つまらない)”にもかけられています。
この賞の特徴は、「人々を笑わせ、考えさせる研究」という選考基準にあります。
そんな研究や発明に対して、毎年10部門前後で受賞者が選ばれるのです。 真面目な研究が笑いものにされてしまうと反対意見もあったようですが、マーク・エイブラハムズ氏は
「偉大な科学的・技術的ブレイクスルーは、最初に登場した時は笑われた。パンのカビを見つめ続けるような研究を人々は笑ったが、この研究なしでは抗生物質は生まれなかった」
と述べ、一見ばかげた研究に賞を送ることを弁護しました。
イグノーベル賞の授賞式は、コロナの影響でオンラインで開催されるようになるまで、アメリカ・ハーバード大学のサンダースシアターで開催されていました。
観客が紙飛行機をステージに向かって投げることから始まり、受賞者のスピーチは60秒以内で笑いをとることが求められます。スピーチの時間をオーバーすると、「ミス・スウィーティー・プー」と呼ばれる8歳の少女が「もうやめて、退屈よ!」と叫び、強制終了させるという独自のルールもあります。 ちなみに、ミス・スウィーティー・プーは8歳の少女と決まっており、これは
「8歳の少女に罵られるのが、心理的に一番ダメージが大きいから」
という実際の研究結果に基づいています。
賞金は「10兆ジンバブエドル」という、実質的には価値のない紙切れ。トロフィーは自分で印刷して組み立てるようにPDFの形式で贈られた年もあります。
「このようなことも研究している人がいるのか」と思わずうなってしまう、受賞した研究や発明の一部をご紹介します。
※受賞者の所属や肩書は、イグノーベル賞を受賞した時のものです。
滋賀医科大学の今井眞氏らによる発明。
聴覚障害者が火災に気づけるよう、「わさび」のツーンとした刺激臭で目を覚まさせる火災報知器を開発しました。
開発のきっかけは、「非常ベルが聞こえない人の不安をなくす」という真剣な願いでした。
コーヒー、みそ汁、腐った卵……様々な臭いで試行錯誤した末、わさびの刺激が最適と判明。実験では、ほぼ全員が1〜2分で目覚めたようです。
産業技術総合研究所の栗原一貴氏らによる発明。
「延々と話し続ける人を黙らせたい!」という悩みを解消するための装置です。
原理は、話者の声を0.2秒ほど遅らせて本人に聞かせることで脳が混乱し、言葉に詰まったり言い間違いを繰り返すようになり、ついには話せなくさせるというものです。
石川県立大学の熊谷英彦氏とハウス食品の研究チームが受賞。
「なぜ玉ねぎを切ると涙が出るのか?」
実は2つの酵素の連携が原因であることを突き止め、ハウス食品は「涙が出ない玉ねぎの開発」にも成功しました。
北里大学の馬渕清資氏が、バナナの皮の摩擦係数を数値化した研究。
人工関節の潤滑機構の研究から派生したテーマであり、実は医療分野にも応用可能な技術的洞察に満ちています。
ロシア生まれの物理学者アンドレ・ガイム氏による実験。強力な磁場でカエルを宙に浮かせることに成功しました。
ちなみにガイム氏は、その後に「グラフェン」の発見により、本家のノーベル物理学賞も受賞しています。
イグノーベル賞の受賞研究は、一見「くだらない」と思われがちですが、その多くは「誰もやらなかったこと」「日常の小さな疑問」「社会の困りごと」への真剣な取り組みの結果です。
「誰も気にしなかったことに目を向ける」
「既存の枠を超える」
「遊び心と本気の両立」
という意味で、現代のビジネスにも通じるエッセンスが詰まっています。
ちなみに、イグノーベル賞の受賞者には日本人とイギリス人が多くいます。多くの国で奇人・変人と呼ばれる人が蔑視されやすい中で、日本とイギリスは誇りにする風潮があると言われています。
イグノーベル賞創設者のマーク・エイブラハムズ氏が、
「パンのカビを見つめ続けるような研究を人々は笑ったが、この研究なしでは抗生物質は生まれなかった」
と弁護した研究も、イギリス人の医者、アレクサンダー・フレミングの研究を指しています。パンなどに生えるアオカビから、世界初の抗生物質「ペニシリン」を発見し、肺炎などの病気を治せるようになりました。この発見は医学の歴史で最も重要な発見の一つとも言われ、フレミングはノーベル賞を受賞しています。
イグノーベル賞の歴史や受賞者たちの姿勢から得られる最大の教訓は、「どんなにニッチでも、好奇心を持って、本気で取り組むこと」そして、「くだらないと思われることにも価値が宿る」という事実です。
ビジネスの現場では、
などの課題があるかもしれませんが、イグノーベル賞は「発想の自由」と「挑戦を楽しむ心」の大切さを教えてくれています。
イグノーベル賞は、「人を笑わせ、考えさせる」研究に贈られます。
その裏には、“常識にとらわれず、遊び心を持って本気で挑む”という、ビジネスにも通じる精神が息づいています。
「くだらない」と思う発想こそ、実はビジネスを大きく動かす原石かもしれません。
イグノーベル賞のような「真剣な遊び心」を、あなたの仕事にも取り入れてみてはいかがでしょうか。