『何かをするのでなく、ただそばにいること』ーー死...
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朝食の定番もスマホの欲望も仕組まれていた?「PRの父」エドワード・バーネイズが作った現代社会のからくり
ビジョナリー編集部 2026/09/23
SNSの広告マーケティング、さらには政治の世論形成に至るまで、私たちの「欲しい」という感情はどこから生まれてくるのでしょうか。
本記事では、「PR(パブリック・リレーションズ)の父」と呼ばれたエドワード・バーネイズの生涯と仕掛け、そしてそれが現代のデジタル社会にどのような影響を与え続けているのかを、分かりやすく紐解いていきます。
「無意識」を操る広報のパイオニア
彼は、アメリカで活動した広報・マーケティングの指導者であり、「パブリック・リレーションズ」という概念と職業を世界に根付かせた人物です。
従来と違っていたのは、人間の心理、とくに「無意識の欲望」をビジネスに持ち込んだ点にあります。彼の叔父は精神分析学の創始者として有名なジークムント・フロイトでした。心理学理論を深く学び、それを「集団の購買意欲や政治的動向をコントロールする技術」へと昇華させたのです。
例えば当時の広告は「この商品は高品質で価格が安いです」と、性能や価格を直接訴求する手法が主流でした。しかし、彼は全く異なるアプローチをとります。「商品を直接売るのではなく、人々がその商品を欲しくなるような社会の雰囲気や価値観そのものを作り出す」という方法を編み出しました。
人間は論理ではなく、集団心理や感情、社会的承認の欲求によって動く生き物であることを見抜き、心理学をベースにした戦略で世の中の「常識」を次々と塗り替えていったのです。
世界の常識を変えたエピソード
タバコを女性解放の象徴にした「自由の松明」キャンペーン
1920年代のアメリカでは、女性が屋外でタバコを吸うことは社会的なタブーとされていました。「女性市場を開拓してほしい」と依頼を受けたバーネイズは、心理学者の意見を取り入れ、女性にとってのタバコを「男性優位社会に対する自由と権利の象徴」と再定義します。
そして1929年のニューヨークのイースターパレードにて、事前に雇ったモデルや若い女性たちに一斉にタバコへ火をつけさせ、街を行進させました。彼はメディアに対して「女性たちが『自由の松明(Torches of Freedom)』を掲げて権利を主張する」と事前にリークしておいたのです。この狙いは見事に的中し、新聞やニュースで大々的に報道された結果、「女性の喫煙=自立した現代女性の証」という新たな価値観が広まりました。
医師の権威を利用して生み出した「ベーコン&エッグ」の習慣
アメリカの定番朝食であるベーコン&エッグも、彼が仕掛けたPRの産物です。ベーコン会社から売上低迷の相談を受けた彼は、「ベーコンを買いましょう」とアピールするのではなく、「健康的な朝食とは何か」というテーマに焦点を当てました。
知り合いの医師に「一日の始まりには、軽い朝食とガッツリとした朝食のどちらが健康に良いか」というアンケートを実施します。多くの医師から「エネルギー補給のためには重い朝食が良い」という回答を得ると、その結果を「医師数千人が推奨する健康的な朝食=ベーコンと卵」として全米のメディアに配信しました。人々は「専門家が言うなら間違いない」と信じ込み、全米の食卓にベーコン&エッグが定着することとなったのです。
世論さえ動かしたプロパガンダ技術
ビジネスにとどまらず、政治の世界にも多大な影響を及ぼしました。特に有名なのが、1950年代のグアテマラで起きたクーデターへの関与です。
大手農園企業ユナイテッド・フルーツ社の依頼を受け、同社の利益を脅かすグアテマラの農地改革政権を失脚させるため、「グアテマラが共産化の危機にある」という虚偽混じりのプロパガンダをアメリカ国内の主要メディアに流し続けました。結果として世論は親米派のクーデターを支持する形となり、政府や巨大企業の意向によって一国の政権が覆される事態にまで発展したのです。
現代の生活にも残る影響
バーネイズが確立した手法は、一世紀が経過した現代のデジタル社会において、より高度かつ日常的な形で私たちの生活に溶け込んでいます。
| 現代の日常現象 | バーネイズが確立したPR理論との共通点 |
|---|---|
| SNSのインフルエンサーマーケティング | 商品そのものより「憧れの人が使っている」「時代の象徴」として感情に訴えかける手法 |
| 「専門家監修」「論文で実証」の広告 | 医師のアンケートを利用したベーコンPRと同じ「第三者の権威(第3者話法)」の応用 |
| アルゴリズムによる「欲しい」の創出 | 潜在的なコンプレックスや欲望を可視化し、必要性(Need)ではなく欲求(Want)を刺激する構造 |
かつてテレビや新聞を使っておこなっていた世論の誘導は、現在ではSNSのアルゴリズムやネット広告へと形を変えています。私たちは「自分で検索して選んだ」「自分の好みで流れてきた情報を見ている」と思っていますが、実際にはプラットフォームの仕組みによって、特定の購買行動や意見へと自然に導かれている側面が大きいのです。
終わりに
心理学を応用して大衆の意識や行動を意図した方向へ動かす「世論操作の仕組み」を築き上げ、マーケティングの可能性を飛躍的に広げたエドワードですが、この取り組みは一方で、人々の無意識の欲望を悪用し得るという危険性も浮き彫りにしました。
大切な結論として、私たちが彼から学ぶべきなのは、「自分の欲望や意見の出処を、一歩引いて確かめる思考の習慣」です。
何かを欲しくなったとき、あるいはニュースに強い怒りや共感を覚えたとき、「これは本当に自分自身の心から出たものだろうか? それとも誰かの仕掛けに乗せられているのだろうか?」と自問してみてください。
手法やからくりを知ることは、ただ社会を疑い深く見ることではありません。あふれる情報の中で主体性を取り戻し、流されずに生きるための「知識の防具」となるのです。


