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警報も遮断機もない「第4種踏切」――なぜいまだ全国に2,000カ所以上も残るのか?
ビジョナリー編集部 2026/07/10
カンカンと音が響き、遮断機が下りる鉄道の踏切は、子どもから大人まで日本人にはおなじみのものです。しかし、「音も鳴らなければ、遮断機もない踏切」が2,000カ所以上あると聞いたら、驚く人も多いのではないでしょうか。
これが、いわゆる「第4種踏切」です。悲惨な死亡事故も起き、改めてその危険性がクローズアップされています。
どんな種類があるのか?――意外と知られていない4つの区分
実は、日本の踏切は4つの種類に分類されています。
第1種踏切
多くの人が日常的に目にしているのが「第1種踏切」です。警報機と自動遮断機の両方が備わっており、列車の接近を音とバーで知らせてくれます。全国の大半がこのタイプです。
第2種踏切
かつて存在した「第2種踏切」は、係員が手動で遮断機を操作していたものでしたが、現在は日本国内では見ることができません。時代の流れとともに消えていった仕組みです。
第3種踏切
「第3種踏切」は警報機の音は鳴るものの、遮断機は設置されていません。音で列車の接近を知らせ、利用者自身が安全を判断して横断する形です。
第4種踏切
「第4種踏切」は、警報機も遮断機もなく、たいていは「踏切標識」と呼ばれる看板や道路標示だけが設置されているものです。列車の接近を知らせる仕組みがないため、利用者は自分で電車の接近を確認してから線路を渡るしかありません。現在、全国にはおよそ2,400カ所(2023年3月時点)もの第4種踏切が残っているとされており、これは全体の約7%にあたります。
現在の法律では新たに設置することが禁じられており、残るものは昔から使われてきた生活道路や農道、ローカル鉄道沿線などが中心です。
なぜ「圧倒的に危険」なのか?――事故が多発する理由
全国で第4種踏切に起因する痛ましい事故が後を絶ちません。最大の理由は、「利用者が自ら安全確認をしなければならない」という点です。警報機の音が鳴らず、遮断機も下りません。たとえば、スマートフォンを見ながら歩いていたり、イヤホンで音楽を聴いていたり、高齢で聴力が落ちていたりすると、列車の接近に気づかないまま渡ってしまうことがあります。
さらには、「まだ遠くに見えるから大丈夫」と思い込み、線路に足を踏み入れてしまうケースも少なくありません。実際には電車は想像以上の速度で接近しており、気付いたときにはもう遅い、という事態が発生しています。
国土交通省の統計によると、2024年度の事故発生率は100カ所あたり0.88件。第1種踏切の0.65件と比べても、危険度の高さがうかがえます。過去10年間で第4種踏切による死亡事故は50人以上にのぼり、特に子どもや高齢者が犠牲になるケースが多く報道されています。
なぜ撤去や改良が進まないのか――現場が直面する「2つの課題」
「そんなに危ないなら、すぐに警報機や遮断機をつければいいのでは?」と考える人も多いでしょう。ところが、現実には撤去や改良がなかなか進まない理由が大きく2つあります。
まず1つ目は、費用の問題です。第1種(警報機・遮断機つき)にアップグレードするには、1カ所あたり1,500万~3,000万円もの費用が必要とされています。地方のローカル鉄道や中小の鉄道会社は経営が厳しい状況が続いており、これだけのコストを負担するのは容易ではありません。自治体も予算に限りがあり、一度に改良するのは現実的ではないのです。
2つ目は、地域住民との合意形成です。多くの第4種踏切は、地域の生活道路や農道として長年使われてきました。そのため、「危険だから閉鎖します」と言われても、「生活道路がなくなるのは困る」「遠回りになる」という反対の声が上がりやすいのです。また、「警報機を設置すると音がうるさい」といった騒音への懸念も、合意を難しくする一因となっています。現地での説明会や町会との話し合いを何度も重ねても、なかなか全員が納得する形には至らないのが現状です。
こうした中、国土交通省も鉄道事業者や自治体に協議会の設置を呼びかけ、補助金制度の拡充などを進めていますが、年間で減少する第4種踏切の数は60カ所前後にとどまっています。全国の鉄道会社のアンケート調査でも、「改修に多額の費用がかかる」「住民の合意が得られない」という理由で計画が立てられないと答えた事業者が半数近くにのぼりました。
命を守るための新たな動き――前向きな解決策と最新の安全対策
こうした厳しい状況の中でも、命を守るための新たな動きが始まっています。
まず注目されているのが、「簡易型の遮断機」の導入です。これは、従来の自動遮断機ほど大掛かりではなく、手動でバーを持ち上げて通行するタイプのゲートです。設置費用は1カ所あたり100万~200万円台で済むため、特に地方路線での導入が進んでいます。JR西日本では2021年からこの簡易遮断機の本格導入を開始し、すでに170カ所以上で設置。現時点で、これらの場所では事故が発生していません。
国や自治体も、こうした取り組みを後押しするために補助制度の拡充を進めています。2024年度からは、手動型簡易遮断機の設置費用の最大半額を国が支援する新たな制度も始まりました。群馬県や高崎市では、2029年度末までにすべての第4種踏切の解消を目指し、県や市が改良費用を負担することを決定しています。茨城県筑西市では、住民と協議を重ねて迂回路を整備するなど、地域の合意を得ながら着実に廃止を進めています。
命を守るために
現実には私たち一人ひとりの事故防止の意識も不可欠です。まずは必ず一時停止をして、左右をしっかりと確認しましょう。特に子どもや高齢者は踏切内で立ち止まってしまうことがあるため、周囲の人も気を配ることが求められます。
また、地域の安全対策にも関心を持ちましょう。住民の声や生活の利便性、そして命を守るためのバランスをどうとっていくか、これは地域全体で考えるべきテーマです。
第4種踏切の事故は、私たちのすぐそばにあり、家族や友人、そして自分自身が当事者になる可能性もあります。今後も、国や自治体、鉄道会社、地域住民が連携しながら、ひとつひとつの踏切の安全を高めていくことが求められています。


