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イラスト・写真のトレースはどこまでOK?「トレパク」が引き起こす著作権侵害リスクとは
ビジョナリー編集部 2025/10/24
SNSやネットで作品を発表する人が増える現代、イラストや写真の「トレース(トレス)」をめぐるトラブルが後を絶ちません。とくに“トレパク”という言葉が飛び交うようになった今、クリエイターもファンも、どこまでが許されてどこからNGなのか、悩んでいるのではないでしょうか。
本記事では、「トレースで絵を描く」ことへの懸念と、著作権や肖像権といった法的観点も交えながら解説します。
トレパクとは
トレパクとは、「トレース」と「パクリ」を組み合わせた造語で、他人の著作物を線や構図ごとなぞって、自分の作品として発表する行為を指します。
イラストや漫画、デザイン業界で多用されている言葉ですが、そのニュアンスは「悪意やズル」を含んでいるのが特徴です。
一方、トレース自体は、美術教育や技術習得の一環として昔から行われてきた方法でもあります。
なぜ問題になるのか?
オリジナル作者の努力や権利を奪うから
イラストや写真には、作者のセンス、技術、時間、そして独自の表現がつまっています。
無断でトレースし、それを自分のオリジナルとして発表・商用利用することは、“他人の努力や創造性にただ乗り”する行為として批判の対象となります。
さらに、オリジナル作品の価値が下がったり、クリエイター同士の信頼関係が傷ついたりするリスクもあります。
法的権利侵害の可能性
著作権法や肖像権、パブリシティ権に抵触する恐れがあります。もし著作権侵害や肖像権侵害が認められれば、損害賠償や刑事罰といった重いペナルティが科される場合もあります。
著作権法との関係
著作権法では、作品を創作した人(著作者)に、無断複製やネット公開を防ぐための独占的な権利が与えられています。
とくに「複製権」「翻案権」「公衆送信権」などが、トレース作品の公開と深く関わってきます。
著作権侵害が成立する条件
- 既存作品に「依拠」している(参考にした、模倣した)
- 「本質的特徴」が感じ取れるほど類似している
ポイント
- 個人の練習や家庭内での利用(非公開)なら、原則として著作権侵害にあたりません。
- トレース作品をネットに公開したり、商用利用した場合は、著作権侵害となる可能性が極めて高くなります。
トレパクと「オマージュ」「インスピレーション」の違い
- トレパク:元作品をなぞって再現し、独自性がほぼない
- オマージュ:元ネタを明示し、敬意を込めて似た構図や表現を使う(“見た人に分かる”のが前提)
- インスピレーション:作品を見て新しいアイデアが生まれ、独自のアレンジや表現に昇華させる
トレパクは「元ネタがバレないこと」を前提にする場合が多く、オリジナリティの主張ができません。
一方、オマージュやインスピレーションは“元作品へのリスペクト”と“自分なりの表現”が共存しています。
「偶然の一致」や「ありがちな表現」はどうなる?
イラストやデザインの世界には、定番構図やありふれた表現が多々あります。
- 偶然の一致:依拠性が認められなければ、著作権侵害にはなりません
- ありふれた表現:独創性がない表現(例:目や鼻の形、一般的なポーズ)は、著作権で保護されません
似ているだけで著作権侵害になるわけではないことも、知っておくべき重要なポイントです。
写真のトレースと「肖像権」「パブリシティ権」
最近は写真をトレースしてイラスト化するケースも増えています。この場合、「肖像権」や「パブリシティ権」も問題になります。
肖像権とは?
無断で自分の容姿や姿を公開されない権利です。とくに有名人や一般人が被写体となった場合、イラスト化して公開・商用利用する際は注意が必要です。
- 社会的常識から見て許容範囲を超えていれば侵害と判断される
- 「誰が・どこで・何をしているか」などを総合的に考慮
パブリシティ権とは?
芸能人や著名人の“顧客吸引力”を無断で使うことを防ぐ権利です。写真やイラストを広告や商品に使う場合、パブリシティ権の侵害になるケースがあります。
トレースの「許容範囲」とは?
【OKとされるケース】
- 個人の練習・技術向上のために、非公開でトレースする
- フリー素材(利用規約で許可されたもの)を使う
- オマージュやインスピレーションとして、独自のアレンジを加えたうえで公開する(ただし元ネタを明示するのが望ましい)
【NGとなるリスクが高いケース】
- 無断でトレースした作品を自分のオリジナルとして公開・販売する
- 著作権者や被写体に無断でネットに公開・商用利用する
- 元作品の「本質的特徴」が明確に再現されている
特にネット公開や商業利用は、著作権や肖像権侵害と判断されやすくなります。
トレパクを「指摘」するリスク
「似ている」「これはパクリだ!」とSNSで糾弾する行為にもリスクがあります。
トレパクかどうかの判断は専門的で難しく、証拠が乏しいまま拡散すると、名誉毀損で逆に訴えられることもあります。
根拠のない「トレパク認定」は控え、事実確認と慎重な対応が不可欠です。
クリエイターが自分を守るためにできること
著作権・肖像権の基礎知識を身につける
基礎知識を知っていれば、うっかり権利侵害するリスクを減らせます。
作品制作の過程を記録する
制作過程を動画や画像で残しておけば、トレパク疑惑をかけられた際の証拠になります。
オリジナリティやアレンジを意識する
複数の資料を参考にして、自分なりのアレンジや独自性を意識しましょう。
フリー素材や公式素材を活用する
利用規約を守れば、安心して創作できます。
疑惑や指摘を受けたら冷静な対応を
感情的にならず、事実関係を整理し、必要に応じて専門家に相談しましょう。
まとめ
トレースは、創作の技術向上や練習の一環として有効な手段です。しかし、ネット公開や商用利用となると、法的・社会的リスクが高まります。
- 個人の練習や非公開利用ならほぼ問題なし
- 公開・商用利用は著作権や肖像権に要注意
- オリジナリティへのこだわりや元ネタの明示がトラブル回避のカギ
- 根拠のないトレパク指摘は名誉毀損リスクもある
- 困った時は専門家やコミュニティに相談を
クリエイターもファンも、正しい知識とリスペクトを持ちながら創作活動を楽しむことが、豊かなクリエイティブ文化を守る第一歩です。

