3.11の津波に耐えた「不屈のビル」。1枚も剥が...
SHARE
ワークビジネス市場で急成長するミズノ 異分野参入の成功に見る成長戦略とは
ビジョナリー編集部 2026/02/27
近年、日本企業の間で「健康経営」や「働き方改革」への取り組みが加速している。深刻な人口減少社会において、優秀な人材の確保や従業員のエンゲージメント向上は、もはや避けては通れない経営課題だ。
こうした背景から、意外な「投資先」として注目を集めているのが、社員に支給されるユニフォームやシューズだという。かつての「単なる作業用アイテム」という認識は消え、今や福利厚生や企業ブランディングを左右する重要な要素へと進化しているのだ。
この市場の変化を捉え、凄まじい勢いで成長しているのが、スポーツ用品大手・ミズノ株式会社(以下、ミズノ)の「ワークビジネス」事業だ。スポーツ開発の知見を注ぎ込み、働く人の生産性と快適性を追求する同事業の舞台裏を追った。

スポーツ用品開発の遺伝子を作業現場へ
ミズノといえば、1906年の創業以来、世界のトップアスリートを支えてきた総合スポーツ用品メーカーだ。その同社がなぜ、作業着の世界でこれほどの支持を集めているのか。
発端は約40年前に遡る。当時、盛んだった企業内部活動へのスポーツユニフォーム納品がきっかけで、企業から「制服も作れないか」と打診を受けたのが始まりだったという。1997年には専門の営業部隊を設置したが、大きな転換点は10数年前に訪れた。「競技スポーツ一本足打法」からの脱却を目指し、事業の複線化を模索した際、長年培った「動きやすさ」や「快適性」の技術が、過酷な現場で働く人々に応用できると確信したのだ。
2016年に満を持して発売されたワークシューズには、ランニングシューズや野球スパイクの機能を惜しみなく投入。これが市場に衝撃を与え、初年度に約12万足を売り上げるヒットを記録した。

さらに2018年には一般向けのワークウエアも展開。吸汗速乾や吸湿発熱といったスポーツ由来の素材に加え、ファン付きの「エアリージャケット」が暑熱対策を求める企業のニーズに合致し、人気を博したという。そして2019年、ワークビジネス事業部が正式に設立され、攻勢を強めることとなった。

急成長を支える「3つの突破口」
同社のワークビジネスが急成長を遂げた理由は、単なる「ブランド力」だけではない。同社関係者は、①課題解決できる商品力、②提案力、③プロモーション力の三位一体が鍵だと分析する。
人手不足が深刻化する中、労働環境の改善は企業の急務だ。安全性はもちろん、「より動きやすく、かっこいいユニフォーム」は、従業員のモチベーションに直結する。ミズノは、従来の作業着の概念を覆すスポーツ由来の性能と洗練されたデザインを武器に、市場での優位性を築いた。
『ダイナモーションフィット』設計
人間工学に基づいた動作解析による独自のウエア設計で、作業時の動きやすさを追求。腕の曲げ伸ばしや肩の回旋、足の屈伸動作時の引きつれや圧迫感を軽減。
『ダイナモーションフィット』設計を採用したワークウエア。腕を上げやすく、ウエアの裾がずり上がりにくくなっている。
スポーツシューズのデザイン性をワークシューズに採用
組織体制の刷新も大きい。法人営業部隊を3倍以上に増員し、全国各地で現場の悩みを直接拾い上げる体制を構築。物流や建設といった展示会へ積極的に出展し、豊富な納入実績をアピールすることで、「ミズノがワークビジネスをやっている」という認知を広めていった。

その結果、2018年度に約39億円だった国内売上高は、2024年度には約138億円にまで拡大。わずか数年で100億円近くも売上を積み上げた計算だ。

サカイ引越センターも絶賛した「解決力」
特に売上の柱となっているのが、企業向けユニフォームの共同開発だ。同社は各社特有の悩みを丁寧にヒアリングし、スポーツの知見で解を出していく。
例えば、2025年5月にリニューアルしたサカイ引越センターの事例は興味深い。同社は「スタイリッシュな外観」「動きやすさ」「夏の暑さ対策」という難題を抱えていた。

ハーフパンツとレギンススタイルを、とのサカイからの要望に、ミズノは上は吸汗速乾性の高いシャツとアンダーウエア、下はハーフパンツとレギンスにし、シャツの裾をタックアウトしてもだらしなく見えないデザインを提案。現場からは「とにかく動きやすい」と絶賛の声が上がっているという。


こうした「課題解決型」の姿勢が評価され、企業ユニフォームの採用社数は、2019年の約500社から、2024年には約1,600社へと飛躍的に伸びている。導入企業の詳細はホームページでも公開されているが、その顔ぶれは実に多彩だ。
次なる標的は「製造業」
ミズノの快進撃は止まらない。今後は建設・運輸業に加え、多種多様なニーズが渦巻く製造業への販路拡大を計画しているという。
スポーツメーカーが培った「勝つための技術」は、今や「働く人を支える技術」として、日本の現場をアップデートし続けている。ミズノのワークビジネス事業が、今後どこまでその領域を広げていくのか。その持続的成長から目が離せない。


