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なぜ「一票の重さ」は平等にならないのか――一票の格差問題が映し出す、日本の民主主義の現在地
ビジョナリー編集部 2026/02/13
選挙のたびに耳にする言葉があります。「一票の格差」です。
ニュースではおなじみですが、「結局、何が問題なのか」と問われると、難しい面もあるのではないでしょうか。一票は一票。 どこに住んでいようと、同じ重みを持つ――私たちはそう信じて投票所に向かいます。ところが現実には、住んでいる地域によって、一票の価値に不平等が生じている。これが「一票の格差」と呼ばれる問題です。
この問題は、日本で繰り返し表面化してきました。選挙のたびに各地で訴訟が起こされますが、問題は完全には解消されていません。
なぜ是正は進まないのか。 是正によって、選挙は本当に公正になるのか。その答えを考えるために、海外の制度にも目を向けてみます。一票の格差問題は、日本の民主主義の設計思想そのものを問いかけています。
そもそも「一票の格差」とは何を指すのか
一票の格差とは、選挙区ごとの有権者数の違いによって、投票の価値に差が生じている状態を指します。仮に、有権者10万人で1人の国会議員を選ぶ選挙区と、50万人で1人を選ぶ選挙区があれば、前者の一票は後者の5倍の影響力を持つ計算になります。このような差が問題視されてきました。
日本国憲法は、法の下の平等を定めています。そして選挙においては、「投票価値の平等」が重要な原則とされてきました。一票の格差が大きくなればなるほど、この原則が損なわれているのではないか、という疑問が生じます。
なぜ格差が生まれ続けるのか──人口移動と制度のズレ
一票の格差が生じる要因は、人口の都市集中です。日本では高度経済成長期以降、地方から都市部への人口移動が続いてきました。一方で、衆議院の小選挙区や参議院選挙区の区割りは、人口の変動に対応しきれていない現状があります。
選挙区は行政区画や地域のまとまり、歴史的経緯にも配慮して設定されます。その結果、人口が急減した地方選挙区でも議席数が維持され、人口が急増した都市部では有権者一人あたりの代表性が薄まっていく。こうして格差は拡大していきます。
「過疎地の声を国政に届けるためには、一定の配慮が必要だ」という考え方もあります。確かに、人口比例だけで議席を割り振れば、地方の影響力は急速に低下します。しかし、その配慮が過度になれば、今度は都市部の有権者が不公平感を抱くことになります。
このジレンマこそが、一票の格差問題の根深さを物語っています。
司法はどう判断してきたのか
一票の格差をめぐっては、選挙のたびに全国各地で訴訟が起こされてきました。原告となるのは、各選挙区の有権者です。訴訟では、「現在の選挙制度は憲法に違反している」として、選挙の無効確認が求められます。そして最終的な判断を示してきたのが最高裁判所です。
最高裁はこれまで、「合憲」「違憲状態」「違憲」という三つの評価を用いて判断してきました。「違憲状態」とは、憲法の趣旨に照らして問題があるが、直ちに選挙を無効とするほどではない、という評価です。
実際には、最高裁が選挙を無効とした例はありません。背景には、選挙無効が国会の正統性を揺るがし、政治的混乱を招くことへの慎重な姿勢があります。司法は、問題点を指摘しつつも、最終的な制度設計は立法府に委ねる、という立場を取り続けてきました。
是正策はなぜ進みにくいのか
では、格差を是正するにはどうすればよいのでしょうか。理論的には、いくつかの方法が考えられます。
分かりやすいのは、人口に応じて選挙区を頻繁に見直すことです。人口が減った地域の議席を減らし、増えた地域に議席を配分する。これにより、投票価値の平等に近づくことができます。
しかし、この方法には強い政治的抵抗が伴います。議席を減らされる地域の議員にとって、それは「自らの職を失う可能性」を意味します。結果として、国会で合意形成が進みにくくなるのです。
もう一つの方法は、選挙制度そのものを見直すことです。小選挙区制を見直し、比例代表の比重を高める、あるいはブロック制を導入する。理論上は、こうした制度変更によって格差を緩和することが可能です。
しかし制度変更は、有権者にとって分かりにくくなり、選挙への関心や理解を下げるリスクもあります。「公平性」と「分かりやすさ」のどちらを優先するのか。この選択も簡単ではありません。
是正した先に待つ、別の問題
また、一票の格差を是正すれば、問題が解決するわけではありません。
人口比例を徹底すれば、都市部の声がより強く反映される一方で、過疎地域の存在感は薄れます。医療、交通、農業、災害対策など、地方特有の課題が国政で十分に議論されなくなる懸念もあります。
また、頻繁な区割り変更は、有権者の混乱を招きます。「自分はどの選挙区なのか分からない」「候補者との距離感が遠くなる」といった声が出る可能性も否定できません。
民主主義とは、単に数の平等を実現すればよい制度ではありません。多様な地域、多様な立場の声をどうすくい上げるか。その設計思想が常に問われるのです。
海外の選挙制度から見える、別の選択肢
この問題は、日本だけの悩みではありません。多くの民主主義国が、同様の課題に直面してきました。
例えばアメリカの連邦議会下院の選挙では、州の人口に応じて議席が割り振られ、10年ごとの国勢調査を踏まえて州ごとに区割りが行われています。ですが、国勢調査には投票権を持たない留学生や海外から来た労働者も含まれているため乖離が生じている面も指摘されています。また、どの州にも最低1議席を割り当てていることが格差を生んでしまっている面もあります。
ドイツでは、小選挙区と比例代表を組み合わせた制度を採用しています。各政党の議席が概ね比例代表で決まるため、実質的に人口に比例する選挙と考えられます。
イギリスでは2023年に区割りを見直し、それまで5倍ほどあった格差を1.11倍にしました。2011年の法改正で1.11倍を目指すことが決まっていましたが、劇的な変化のため実現まで時間がかかった側面もあります。
私たちはこの問題から何を考えるべきか
一票の格差問題は、制度論であると同時に、民主主義の設計思想そのものを問うテーマです。
数の平等を徹底すれば、地域性が失われる。地域性を守れば、平等が揺らぐ。この中で、どこに折り合いをつけるのか。その判断は、時代ごとに更新されるべきものです。
次に「一票の格差」という言葉を目にしたとき、単なる数値ではなく、その背後にある選択と葛藤に目を向けてみてください。それこそが、民主主義を自分の問題として考える第一歩になるはずです。


