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グローバル基準で考える!ハラスメント対策の最新動向と日本の課題
ビジョナリー編集部 2025/11/06
日本社会でも身近になったハラスメント対策ですが、世界の潮流はすでに大きく動き始めています。日本でも法制化や企業のガイドラインづくりが進み始めましたが、欧米やアジアの各国では、どのような対策が実践されているのでしょうか。
今回は、世界のハラスメント対策の最新動向をもとに、日本企業が今後どんな視点を持ち、どんな実践をすべきかを具体的に解説します。
※ 記事で紹介している制度などは2025年10月時点のものです。
世界がハラスメント対策に本気で取り組む理由
世界のハラスメント対策運動は、近年、国際的な枠組みの構築と、草の根的な社会運動の広がりによって大きく前進しています。特に2017年以降の「#MeToo」運動は、ハラスメントに対する社会の意識を劇的に変化させました。また、 近年、ILO(国際労働機関)が「職場での暴力やハラスメントの撤廃」を国際条約として採択したことをご存知でしょうか。2019年、世界で初めてハラスメント全面禁止条約(第190号)が生まれました。
ILO条約のポイント
- ハラスメントを「身体的・精神的・性的・経済的な害悪をもたらす、許容できない行為や慣行」と定義
- 雇用主だけでなく、インターンやボランティア、出張先や通勤中の出来事も対象
- 加盟国に対し、法的禁止や防止措置の導入を強く求める
この動きの背景には、#MeToo運動をはじめ、世界中で「個人の尊厳と安全」を守る声が高まったことがあります。「被害者が泣き寝入りする時代はもう終わり」──国籍や業種を問わず、ハラスメント撲滅への社会的要請が急速に高まっているのです。
欧米諸国のハラスメント対策
フランス
フランスは、世界で最も早くハラスメント対策が進んだ国の一つです。1992年には「セクハラ罪」が刑法で明文化され、2012年には「セクハラ法」が制定されました。最長3年の禁錮や重い罰金刑が科されるほか、職場のモラルハラスメント(精神的ないじめ)にも厳しく対応しています。
具体的な取り組み
- 従業員数が50人以上の企業に対し、ハラスメント防止方針の策定と徹底周知を義務化
- 管理職・上司向けのハラスメント防止研修を必須化
- 匿名通報が可能な相談窓口の設置
- 「ハラスメント担当者(Referent)」の配置による、被害者のサポート強化
- 被害を訴えた従業員への不利益な処遇の禁止
実際、メガバンクのBNPパリバでは社内eラーニングの導入、自動車大手ルノーでは全管理職への研修実施など、企業現場での具体策が徹底されています。
スウェーデン
スウェーデンでは、1993年に「職場いじめ予防法」が世界初で制定されました。加えて、雇用環境法・差別禁止法など複数の法律が連携し、職場の安全・公平性を守っています。
特徴的な制度
- 事業主には心理的・社会的リスクの予防義務
- 差別オンブズマン(DO)が独立機関として調査・指導・罰則を担う
- 職場で苦情があれば、是正命令や罰金が即座に科される
- 人種・性別・宗教・障害・性的指向などへの配慮も法律で明文化
差別オンブズマン制度は、被害者の声を社会全体で拾い上げ、再発防止や職場改善に直結させる仕組みとして高く評価されています。
イギリス
イギリスでは、セクハラやパワハラ対策に対し、2023年「Worker Protection Act(労働者保護法)」が施行されました。特に、「事業主の積極的な防止措置義務」が明文化され、違反時には賠償金の増額や企業名の公表など、厳しいペナルティが設けられています。
主な取り組み
- ハラスメント防止のための明確なポリシー策定とトレーニング実施
- 匿名報告ができる体制、外部機関(ACASなど)への相談窓口も整備
- 顧客や第三者からのハラスメント対応も義務化
- 企業が防止措置を怠れば、被害者の賠償金が最大25%増額のリスク
労働組合や女性支援団体が政府に強く働きかけた結果、国を挙げた法整備が進みました。
カスタマーハラスメント(カスハラ)
「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉は日本独自ですが、海外でも「Customer Abuse」「Consumer Aggression」と呼ばれ、接客業の大きな課題となっています。
世界共通の課題
- 感情労働のストレス──どの国でも接客業は感情を抑えて対応するストレスが大きい
- デジタル化による新たなハラスメント──SNSやレビューサイトでの誹謗中傷・脅迫が増加
- 報告システムの未整備──多くの国で従業員が被害を報告しづらい
- メンタルヘルスへの影響──WHOもストレスによる健康被害を指摘
地域別の特徴と対策
北米
- 労働安全衛生法(OSHA)による従業員保護
- 企業は「顧客が不適切なら毅然とした対応」を明示、「Ban List」や顧客行動規範を徹底
ヨーロッパ
- EU労働安全衛生指令で「第三者(顧客)からの暴力・ハラスメント」も管理対象
- 業界横断の「尊重のための行動計画」や、困難時にチームが迅速に支援する仕組み
- 小売業従事者への暴力・脅迫に対する特別法の制定
アジア
- 韓国では「感情労働者保護法」で従業員の権利を明確化、心理カウンセリングも義務
- 中国・韓国などでは「お金を払っているから何でも言える」という文化的背景も
- 日本では「お客様は神様」という価値観が根強く、従業員が主張しづらい傾向
日本企業が今学ぶべき、グローバルなベストプラクティス
組織文化の転換
「お客様は神様」の価値観から、「顧客も従業員もお互いに尊重し合う」文化への転換が必要です。欧米では子ども時代からコミュニケーション教育があり、従業員が理不尽な要求にはっきりノーと言える社会基盤があります。
経営層のコミットメント
経営者自らが「従業員保護」を宣言し、現場に徹底することが、現場の安心感や信頼につながります。アメリカではこの姿勢が訴訟リスク回避にも直結しています。
実践的な研修・システム導入
- 段階別対応技術の研修(怒りの段階ごとに適切な対応法を学ぶ)
- シナリオベースのシミュレーション研修
- AIによる問題顧客の自動検知システム
- ウェアラブルパニックボタンなど安全確保策の導入
- 顧客行動規範(Customer Code of Conduct)の明文化と共有
報復禁止と相談体制の徹底
ハラスメント被害を相談・報告した従業員が不利益を被らない「報復禁止ポリシー」の導入と、匿名通報可能なシステムの整備が重要です。
日本の現状と独自の課題
厚生労働省の調査によれば、日本の職場でパワハラが発生しやすい最大の要因は「上司と部下のコミュニケーション不足」(51.1%)です。また、日本人には「耐えることを美徳とする」傾向や、「個人の権利主張をためらう」文化的背景もあります。
海外事例をそのまま導入するリスク
- 「声を上げる」こと自体に高いハードルを感じる従業員が多い
- 「世間体」や「集団から外れること」への恐れが根強い
- 法律や制度だけでなく、職場内の信頼関係・心理的安全性の醸成が不可欠
日本企業には、世界標準の対策を参考にしつつ、自社の風土や従業員の価値観にも適した「現場に根付く仕掛け」が必要です。
まとめ
ハラスメント対策は、「ルール作り」や「罰則強化」だけではありません。最終的に目指すのは、誰もが自分らしく、安心して働ける職場づくりです。
世界では今、法整備・厳罰化・相談体制の充実・啓発活動など、多様なアプローチが進んでいます。その根底にあるのは「人間としての尊厳」「お互いを尊重する姿勢」です。
海外の優れた事例を柔軟に取り入れつつ、自社の風土や社会の特性に合わせてアレンジし、「働きやすさ」を世界水準に高めていきましょう。
ハラスメントのない職場は、きっとあなた自身の毎日も、会社全体の生産性も、そして社会全体の未来も、より明るく変えていくはずです。


