マイホームと賃貸、どっちが得?人生100年時代の...
SHARE
70万人を切った日本の出生数――少子化加速の本質と立ち向かうために今できること
ビジョナリー編集部 2025/10/28
厚生労働省の最新の統計によれば、2024年の日本人の出生数はついに70万人を下回り、過去最低を更新しました。かつて年間100万人を超えていた出生数が、わずか10年足らずで30万人も減少。社会構造の変化や価値観の揺らぎ、経済的な不安など、多層的な要因が複雑に絡み合っています。
本記事では、「なぜ日本はここまで少子化が進んでしまったのか?」という問いに、国内外のデータを交えながら迫ります。なぜ結婚や出産に踏み出せないのか、社会にはどんな課題が潜んでいるのか。少子化の“本質”を多角的に読み解き、私たち一人ひとりができることは何か、そのヒントを探ります。
※ 記事内の情報は2025年10月時点のものです。
止まらぬ出生数減少――想定を超えるスピードで進む少子化
2024年の日本人出生数は68万6,061人。前年から4万人以上の減少で、統計開始以来初めて70万人を下回りました。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均数)は1.15と、これまた過去最低を記録。死亡者数が出生数を上回る「自然減」も91万9,237人と過去最大規模となっています。
この減少ペースは、専門家の予測よりも遥かに速いものです。国立社会保障・人口問題研究所は、2039年に出生数が68万人台になると想定していましたが、実際は15年も早く到達してしまいました。
なぜここまで減ったのか?──“未婚化”が最大要因
少子化の理由について、「若者の価値観が変わったから」「結婚や出産よりも趣味やキャリアを優先するようになったから」といった声がしばしば上がります。しかし、データを細かく見ていくと、本質が見えてきます。
最大の要因は“未婚化”です。
実際、結婚した夫婦が持つ子どもの数は、1970年代から横ばいを保っています。一方で、未婚の人の割合(生涯未婚率)は、男性で28%、女性で18%超と、40年で大きく上昇。特に男性は4人に1人以上が生涯未婚という時代です。
つまり、「結婚した人が子どもを持たなくなった」のではなく、「そもそも結婚する人が減った」ことが、急速な少子化の最大の要因となっています。
“若者の結婚離れ”は本当に起きているのか?
「若者は結婚に興味がなくなった」と考える人は多いものの、18~34歳の男女を対象とした調査では、男性81.4%、女性84.3%が「結婚の意思がある」と答えています。この数字は30年以上ほとんど変化していません。
それなのに、なぜ未婚率が上がっているのでしょうか。
そのカギは、“結婚したくてもできない”若者の増加にあります。
経済的不安と社会的格差
結婚できない理由の多くが、経済的な不安に起因しています。定職に就いている男性ほど結婚率が高く、年収や雇用の安定が、結婚・出産の大きな決め手になっているのです。現代の若者は物価や税負担の上昇、社会保障費の増加、そして停滞する賃金の中で、将来への不安から恋愛や結婚を諦めてしまうケースが増えています。
20代の“初婚減少”
出生率の推移を年齢別・出生順位別に分析すると、最も深刻なのは20代の初婚・初産の急減です。
- 2000年と比べて、20代の初婚数は男女とも約67%も減少
- 30代以上の出生率は30年間ほぼ変化なし
- 出生数全体の減少は、20代で第1子を産む人が減ったことが大きな原因
つまり、今の少子化は「20代で結婚し、最初の子どもを持つ人」が激減していることが背景にあります。逆に、結婚して第1子を産んだ家庭は、8割が第2子も持つというデータもあります。
“結婚コスト”の意識インフレ化
現代の若者にとって、結婚は「経済的な贅沢品」と化しています。実際には、30年前と比べて生活水準が大きく下がったわけではありませんが、「結婚にはこれだけの準備やお金が必要」という意識上のハードルが上がり続けています。老後資金不安や将来の見通しの悪さが、若い世代の決断を鈍らせているのです。
2003年と2023年を比較すると、20代で子どもを持てる、いわゆる“中間層”の世帯数は70%も減少。一方で、800万円以上の高所得層の世帯数はほとんど減っていません。この「中間層の若者が結婚できない」現象こそ、近年の少子化加速の核心と言えるでしょう。
“子育て支援”だけでは解決できない現実
「子育て支援の充実が足りない」「婚活支援を増やせばいい」──こうした対策も重要ではありますが、実際には結婚そのもののハードルが高くなっているため、支援サービスを充実させるだけでは根本的な解決には至りません。
結婚相談所やマッチングアプリの利用者は増えていますが、経済的な格差や出会いの機会の減少、社会的な価値観の変化が、若者の結婚を阻む大きな壁となっています。
世界との比較で見える、日本の構造的な課題
日本だけでなく、韓国や中国など東アジア諸国でも出生率の低下が顕著です。特に韓国は出生率0.75と世界最低レベル。これらの国々に共通するのは、20代での結婚・出産が極端に減っている点です。
一方、アメリカやスウェーデンのように日本より出生率が高い国には、いくつかの共通点があります。
- 友人や地域コミュニティも育児支援の輪に入る
- 男女の役割分担意識が日本より希薄で、男性も積極的に育児参加
- 柔軟な労働市場で、出産・育児後も働きやすい環境が整備されている
- 政府の育児・出産支援策が、男女問わず利用しやすい形で設計されている
日本でも制度上は「有給育休制度」があるものの、男性の育休取得率は低く、「男は仕事、女は家庭」といった社会規範が根強く残っています。
規範意識と“多元的無知”──社会の空気が若者を縛る
社会学の観点から見ても、日本では「世間体」や「恥の文化」が強く作用しています。「男性は育休を取るべきではない」「正社員でなければ結婚できない」といった思い込みから、実際には多くの人が疑問を感じていても周囲の目を気にして声を上げられないという“多元的無知”が広がっています。
このような空気が、若い世代のチャレンジや価値観の変化を阻み、結果的に低い婚姻率や出生率の維持につながっています。
地域差と政策の盲点──都心と地方で異なる課題
出生率は全国的に下がっていますが、地域によって事情は異なります。たとえば、東京都では合計特殊出生率が0.96と全国で唯一1を下回り、非常に深刻な状況です。家賃の高さや住宅の狭さ、親のサポートを受けられない核家族化が、子育てのハードルをさらに上げています。
一方、地方では雇用機会や産業の減少により、若年層の経済基盤が不安定です。都心では住宅や働き方の柔軟性、地方では雇用や生活基盤の安定が、それぞれ政策的な課題となっています。
子どもを持つことへの“ネガティブ・イメージ”からの脱却も必要
少子化対策には、経済や制度だけでなく、「子育ては幸せなことである」という社会全体の空気感を醸成することも不可欠です。SNSや報道では「子育ては大変」「リスクが多い」といったネガティブな情報が先行しがちですが、子どもを持つ多くの人が日々の幸せや充実感を感じていることも、もっと可視化していく必要があるでしょう。
まとめ
本記事で見てきたように、日本の少子化は単なる「若者の価値観の変化」や「支援不足」だけで説明できる現象ではありません。経済的な不安、雇用や住宅環境の問題、社会的規範、そして結婚“できない”若者の増加という複合的な要因が絡み合っています。
これから求められるのは、未婚化を減らすための根本的な社会改革です。
- 若い世代の経済的な自立を支え、安心して結婚・子育てができる中間層の再生
- 家族や育児の多様性を認め、性別や雇用形態にとらわれない柔軟な社会制度
- 社会全体で子育てを支え合う“空気感”の醸成
- そして、若者の声をしっかりと社会や政策に反映させる仕組み
「少子化」は決して一部の人の問題ではありません。年金や医療、介護など、すべての世代に関わる“国の未来”そのものです。今こそ、世代や立場を超えて、多様な声に耳を傾けながら、皆が安心して家庭を築ける社会へと舵を切る時ではないでしょうか。

