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THE CIO LOUNGE 第5回――経営者がデジタルビジネスがわからない?それ、エンジニアが解決します! 合言葉は「オブザーバビリティ」
ビジョナリー編集部 2026/03/18
FM大阪で放送中のラジオ番組『THE CIO LOUNGE』。第4回では、ソフトバンク先端技術研究所所長の湧川隆次氏を招き、次世代AIインフラ開発など同社が進める「未来への投資」が紹介された。そして1月31日(土)の第5回では、New Relic上席エヴァンジェリストの清水毅氏、イオンスマートテクノロジーの齋藤光氏がゲストに登場。ビジネスとITが切り離せない時代に企業はどのようにシステムを理解し、活用していくべきなのかを、「オブザーバビリティ」という新しい概念をフックに解き明かす。コメンテーターはNPO法人CIO Lounge正会員の上田晃穂氏が務める。
“見える化”のその先へ――「オブザーバビリティ」とは何か
珠久: 清水さん、今日お持ちいただいたテーマは、「経営者がビジネスの状況がわからないでどうする!? その悩み、エンジニアが解決します」とのことです。わりと力強いメッセージ性のあるテーマですね。これ一体どういうことですか。
清水: 今、どの企業でも多くの事業でITの技術が使われていて、デジタルサービスやデジタルビジネスの普及が加速しています。昨年もたくさんの大企業でITシステムのトラブルが起こりましたが、例えばネットで買い物ができないような事態が発生すると、もうその時点でそのEC事業自体に大きな悪影響が生まれます。つまり、システムを理解することがビジネスを理解することと同義になる時代になりました。そうした考えのもとでシステムの状態を可視化し、問題を自動で察知し、原因を特定できる能力が現代のITシステムエンジニアリングには必要とされているのです。その能力を我々は、「オブザーバビリティ」と呼んでいます。
上田: そんな時代への変化は、僕もすごく実感しています。ひと昔前だと「ITは何かビジネスの役に立てば良い」と期待される程度だったものが、それが今や生成AIがどんどん使われるようになって、「ビジネスとITが切っても切り離せない」状態になりました。したがって、ITシステムがうまく機能しているかどうかを観測できないと、ビジネス自体がうまくいっているかどうかも判断できないのです。
清水: 20年前はもう少しシンプルで、システムの故障はサーバーを調べればわかり、修復も比較的容易でした。ところが、今はシステムが複雑になっているので、どこかが壊れたとしても故障箇所に気づけない。その結果、ユーザーがどう困っているかを把握するのさえ難しい状態に陥ることがあります。そこにトラブルをいち早く、言われなくても気づけるようにし、しかも原因を特定して修正できるような仕組みをシステムと組織の両方に導入すること、それがオブザーバビリティです。昔は上級のエンジニアが勘で対応していたのですが、今ではビジネスがデジタル化し、「システム=ビジネス」の時代になったこともあり、ソフトウェアエンジニアがアプリケーションやソフトウェアを見て、ユーザーのお困りごとをすぐ把握し、直せるような能力や特性としてオブザーバビリティを実装する流れが生まれている、とご理解いただければと思います。
イオンの小売DXを支える、New Relicの可視化基盤
珠久: そういうことなんですね。そして今、小売業界の最前線で「オブザーバビリティ」を導入しているのがイオングループだと伺いました。齋藤さん、どのような課題にどう活用されているのか教えていただけますか。
齋藤: 私はイオンスマートテクノロジーという、イオングループのデジタルシフト戦略を具現化するためのIT中核会社に所属し、お客様のお買い物体験の向上に向けたモバイルアプリ「iAEON」や、店舗業務改善のソリューションを開発・運用し、イオンのデジタル戦略やDX実装の戦略をリードしています。一例を挙げると、例えば従来、店舗内での発注業務は、売り場を離れて裏側のバックヤードにあるPCから処理しなければならなかったのですが、それをスマートフォンのような端末を使って売り場内で発注処理ができるようにすることで、お客様対応もスムーズにできます。「iAEON」やこうした業務システムなど、サービスや業務に関連する各システムやモバイルアプリケーションの裏側で、システムやサービスの状態や挙動などのデータをすべてつないで、どこがおかしいのか、顧客にどういった影響が出ているのかを一気通貫で可視化し、より良い顧客体験というビジネス価値を追求するために、最適かつ有力なソリューションであると判断してNew Relicを導入しました。
珠久: そうなんですね。どういう利点があるのでしょうか。
齋藤: システム障害が発生した時に、そこに複数のシステムが存在すると、複数のチームが自分のところの責任ではないのかと調べ出すことになります。そこにNew Relicを導入することによって、問題をすぐに特定できるようになるのです。その結果、障害発生時の初動は非常に速くなりましたし、サービス停止などの時間を大幅に短縮することで、結果的にお客様への利益にもつながりました。また、障害が出る前に顕在化していたシステム上の問題にも気づきやすくなり、それもまさにオブザーバビリティの本質的な価値の一つだと思っています。
AI時代の組織に求められる、経営とエンジニアとの新しい関係性
珠久: オブザーバビリティという考え方がなかった時代の経営層とエンジニアは、それまでどんな関係だったのでしょうか。
清水: 私もオブザーバビリティを啓蒙して7年経ち、今ではIT部門で広く知られるようになりました。それ以前は、システムを作ろうとなったときに、経営層も自社のシステムのことがわからないので、社内のエンジニアやベンダーに強い言葉で要求を出したり、トラブルがあったら強く言って直させたりなど、いわば“調整弁”がなかった時代が長く続いていました。現在、オブザーバビリティがうまく機能しているモダンな会社はフラットなカルチャーを維持しています。当社のお客様では活用に幅や深みも出てきており、例えばオブザーバビリティによって営業や経理の方々も、システムの詳細は理解できないとしても、サービスの状況を瞬時に把握できる状況にまでなり、経営とエンジニアで密接に同じ方向を見るようにもなってきています。
齋藤: 昔のIT部門はシステムを作ったら終わりで、そもそも費用ばかりがかかって利益を生む集団とはみなされないという傾向がありました。システムは無事に動いて当たり前であり、止まったら怒られるという、インフラ業界のような世界です。ただ、企業を取り巻く環境の変化に応じてシステムの内製化が進むにつれて、経営層やビジネス部門を含めて、自分たちが作ったサービスがどのように利益を上げているのか、ユーザーの皆さんが満足しているのかを知らなくていいはずがない、という時代になりました。システムを理解するためにはやはりデータが必要で、オブザーバビリティがもたらすデータやインサイトはそのための重要な要素であると思っています。
上田: 僕は一言で言うと、経営と顧客とシステムを密接につなげるようなツールっていうのが、オブザーバビリティなのかなというふうに思っています。
清水: 実は、AIが急速に進化する現代において、企業にとってオブザーバビリティはAIと両輪をなす重要性があります。どんなにAIが進化しても、人間が「理想」を描かないと問題は見えてきません。理想の姿を設定して初めて、現状とのギャップが“問題”として認識できるようになります。今は事業そのものがITで支えられている時代なのに、その“ハンドル”を誰も握っていない企業も多い。だからこそ、経営が意思決定のハンドルをしっかり握ることが重要なんです。ただ、経営者が技術に詳しくなくても大丈夫な時代になりました。AIが意思決定を支えてくれるので、技術がわからないことを理由にエンジニアと距離を置く必要はなくなります。これまで「話しにくい」「文化が違う」と感じていた、いわゆるスーツとギークと呼ばれるような壁も、どんどん低くなっていくはずです。そしてオブザーバビリティを導入すれば、ビジネス部門や経営層が自ら会社の雰囲気や働き方を変えていけるようになる。今はむしろ大きなチャンスなんです。
珠久: 最後に、経営者やビジネス部門の皆さんに向けたメッセージをお願いできますか?
清水: デジタルビジネスの時代、経営者がシステムの詳細を一行ずつ理解する必要はありません。しかし、その「健康状態」や「お客様の体験」を把握する責任からは逃れられません。この記事を読んでくださった経営者やビジネスパーソンの方々への提案として、明日会社に行ったら、ぜひ、『うちの会社は、システムのデータがすべてつながって見えているだろうか?』『現場は、ユーザーの体験までリアルタイムに捉えられているだろうか?』ということを、確認してみてほしいですね。
もし答えが『NO』や『わからない』であれば、そこが変革のスタート地点です。オブザーバビリティという武器を手に、経営とエンジニアが同じデータを見て、同じ方向を向く。そんな小さな一歩から、会社も、そして世界も変わっていきます。まずは現状を知る勇気を持つことから始めてみませんか。

※記事に収まり切らなかったお話もたくさん! こちらから、番組収録時のディレクターカット版をポッドキャストでお聞きいただけます。 https://www.fmosaka.net/_ct/17820106
※こちらから、収録の雰囲気も楽しめるYouTube動画をご覧いただけます。 https://youtu.be/1-152sdQbKQ?si=6qvmaRueUqe1MUAN
<番組情報>
番組名:「THE CIO LOUNGE」
放送日時:毎週⼟曜⽇ 7:00〜7:25
放送日:2026年1月31日(土) 7:00〜7:25
放送局:FM大阪
ゲスト:清水 毅(しみず つよし:New Relic株式会社 上席エヴァンジェリスト)
オブザーバビリティの導入・利活用の支援や、市場に新しいアイディアを伝える啓蒙・啓発活動を通じて、日本のIT業界のエンジニアの地位とビジネス貢献度を向上させることに深い情熱を持っている。これまでソフトウェア開発とSaaS化、インフラ設計・運用、SRE/セキュリティCoE、パブリッククラウドのソリューションアーキテクトの経験を積み、インフラ、パフォーマンス、セキュリティの設計から運用までを幅広く得意分野としている。
齋藤 光(さいとう ひかる : イオンスマートテクノロジー株式会社 DevSecOpsディビジョン ディレクター)
SIer2社を経た後、ネット系金融会社でインフラ/運用部門責任者やプロダクトマネージャーを経験。その後、小売業で全社共通プライベートクラウド基盤の設計・構築・運用に携わった後に2022年5月にイオンスマートテクノロジーへ入社。
コメンテーター:上田 晃穂(うえだ あきお:CIO Lounge正会員)
1997年関西電力株式会社入社。2016年ケイ・オプティコム(現オプテージ)へ出向し、格安スマホmineoの事業責任者。2021年から関西電力 理事・IT戦略部長(現職)。趣味は資格取得(「技術士」「中小企業診断士」等50資格保有)、読書(ビジネス書1,400冊所蔵)、日本酒(46道府県373ブランド中の1位は「獺祭磨き2割3分」)。
パーソナリティー:珠久 美穂子(FM大阪DJ) 大阪府出身。2000年にFM大阪の『Hit Street Midnight Special』でDJデビュー。趣味はドローン、ゴルフ、テニス。珠算検定2級、暗算検定2級、秘書検定2級。


